322.魂魔石

 各国に戦いの連携合同練習の通達が届いた。


 アカバネ大商会の『次元扉』により、今では全ての大陸を簡単に行き来出来るようになっていた為、連絡も早く伝わっている。


 合同練習で最も真価を発揮したのは、他ならぬ『東大陸の覇者』であり女王である卑弥呼であった。


 彼女だけが使える三種の神器による神術、八尺瓊勾玉の恩恵が全ての兵士達に及ぶからである。


 これは女王卑弥呼の本領発揮である。


 更に各国の名将達の見事なまでの指揮が光る合同練習であった。




 ◇




「えっと、リッチお爺さん。話したい事があると聞いてますけど」


「おお~クロウくんや、忙しい時にすまんのう、実は一つ相談したい事がおっての」


「はい、何でしょうか?」


「うむ、先日の会議の時、アハトシュラインの一団との戦いで彼らと対峙出来る人材がいないと話しておったのじゃが……」


 イカリくん達が現れた時、メティスは全員の能力をある程度測定していたそうだ。


 その見立てから、彼らと一対一で戦えるのは、僕とソフィアのたった二人だろうとの事だ。


「その事で相談じゃ、クロウくんの周りに可能性・・・がある者がおるのじゃ、どうかのう、儂に任せてはくれんかの?」


「え!? リッチお爺さんが? 勿論、良いですけど、僕の一存だけではいけませんから、その可能性があるという方々が良いなら……」


「そうかそうか! ではもう一つ頼みがあるのだが」


「はい?」


つの『魂魔石』を宿れる人形を作って欲しいのじゃ」


「こんませき??」


「おお、これじゃこれじゃ」


 リッチお爺さんが大事そうに閉まっていた袋から、六つの色違いの石を出してくれた。


 形は『女神石』に似てるけど、ちょっと違うね。


 『女神石』より一回り弱い石って感じがする。


「この石は中に人格が宿っているのじゃ、これを人形に移す事で、その人格を具現化出来るのじゃが、まぁそれなりに魔力を多く含んだ人形が良いのじゃが、クロウくんなら簡単に用意出来るじゃろうと思うてな」


 う~ん。


 魔力を多く含んだ人形……。


 全く思い当たらないかな……。


 それに『魂魔石』ってとても貴重なモノだと思うんだけど、リッチお爺さんはシエルさんと知り合いみたいだっただけに、凄い人だったという事は本当なのね。


 ――実は、エレノアお婆ちゃんに、もう一人のエルフ族であるシエルさんを紹介したいと話したら、意外とリッチお爺さんの方が食いついてきたのだ。


 エレノアお婆ちゃんとリッチお爺さんをシエルさんに紹介すると、三人して泣き崩れて喜んでいた……更にシエルさんはリッチお爺さんはとても偉い人だったと言っていた。


 骨なのに偉い人なんだ……。



 その時、ソフィアが飛び上がった。


【ご主人様! その人形については私が用意するよ!】


 ソフィア?


 いつの間にそんな人形を……?


 ソフィアは僕の『異次元空間』から六つの人形を取り出した。


「って! 人形じゃなくて、からすの六人じゃん!」


【うん! この子達は、メティスから調べて貰って『人造人間』というモノみたいで、魂が入っていないの。だから生きている人形なの!】


「生きている人形……まぁ魂が本当にあるのかは分からないけれど、人形なら都合が良いかも知れないね」


 ソフィアが嬉しそうに跳ねていた。


「うむ! これは素晴らしい人形じゃのう! クロウくんや、どうかこの人形達に『魂魔石』を使わせてはくれぬか?」


「良いですよ!」


「そうかそうか! それはありがたいのじゃ!」


 リッチお爺さんが早速鴉達に石を飲ませようとした時。


 セナお姉ちゃん達が執務室に入って来た。


「クロウ! 剣術の練習見てくれるって言っ――――何してるの?」


「あっ、セナお姉ちゃん。ごめんね? リッチお爺さんが人形が欲しいってさ」


「人形??」


「おお、これはセナ殿にディアナ殿達まで! これは都合が良いのじゃ、これも全てセナ殿達の為の事なのじゃよ。どうかこの老いぼれに、皆を鍛える機会を与えて欲しいのじゃ」


「ん? リッチお爺さんが鍛えてくれるの?」


「勿論じゃ! こちらの人形達を使ってなのじゃが!」



 リッチお爺さんの突如な申し出により、僕達は一度場所を移した。


 元々セナお姉ちゃん達も訓練所で稽古の予定だったので、そのまま訓練所二階に移動した。


 僕、セナお姉ちゃん、リサ、ディアナ、レイラお姉さん、ヒメガミさん、ソフィアが見守る中、六体の鴉の骸にリッチお爺さんの『魂魔石』がそれぞれ入れられた。



 鴉の六体の骸からそれぞれの色の眩い光が溢れ出た。


 そして、僕達の前にとんでもない光景が広がった。



「いや~久しぶりのシャバはいいね~、ミカエル様。久しぶりだね!」


 若そうな青い髪の天使・・がリッチお爺さんにそう話した。


「おお、ラファエルや、久しぶりじゃな。事情は知っておるな?」


「勿論! 石の状態でもずっと見ていたからね。君がクロウくんだね。初めまして、僕はラファエル、そしてこちらは……説明なくとも分かると思うけど、ダンジョンの名前にもなっている皆だよ! これからクロウくん達の奥さん達には、『天使の試練』を受けて貰うからね?」


 僕達の前に天使六人が現れただけでも驚きなのに、これから僕の奥さん達がその試練を受ける事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る