321.崩壊会議②

「初めまして、クロウくんの祖母のエレノアと申します。『世界の崩壊』の説明の前に……皆様には申し訳ないのですが、この場で一つ謝らせてください……」


 エレノアの綺麗な声が会場に響き渡る。


 彼女の目線が立ち上がっているアグウスに向いた。


「アグウス……大きくなったわね…………一緒にいてあげられなかった母でごめんなさい……」


 エレノアとアグウスの目に大きな涙が流れる。


 エレノアの隣にヴィンセントが立ち、アグウスに向かって笑顔のまま首を左右に振った。


 まだ事情は知らないが、自分が母に捨てられてない事を信じていたアグウスは大きく頷き、その場に座り直した。



 涙を拭いたエレノアが話し始める。


「皆様が『暗黒大陸』と呼んでいた大陸は、元々『アルテナ大陸』と呼ばれておりました。『アルテナ』という言葉は……古代語で『女神』を指します。あの大陸は……『女神様に愛された大陸』であり『女神様が住まわれた大陸』でもあるのです」


 エレノアの言葉に会場にいた全ての者が驚愕した。


 特に暗黒大陸に住んでいる四天王の四人も驚きを隠せなかった。


「実はこの世界は……常に『崩壊』に向かって進んでいるのです。それは『破壊から全てが始まる』からです。それを無くす術はありません。しかしながら、それを止める方法はございます。それが『想いの力』による『世界』を引き止める方法です。

 その方法としましては……『アルテナ大陸』にある『世界樹』を活性化させる事で『世界の崩壊』を引き止める事が出来ます。しかしながら、二百年前。『魔王ノア』により『世界樹』は封印され世界の崩壊が進みました。

 二百年前……世界の崩壊を止めようと、『女神様』を崇めていた一族である我々エルフ族は『崩壊』を止めようと挑戦しました。その結果……多くの命を犠牲に『女神石』を最低限の力で復活させる事が出来、二百年間、何とか『崩壊』を止める事が出来たのです」


 エレノアは一つ息を吸い込んだ。


「ここからが……大事な話になります」


 彼女の言葉を食い入るように聞いている会場の全員が次の言葉を待った。



「世界には『女神石』が全部で三つあります。そのどれもが大切であり、大きな力があります。『世界樹』を活かす為に使われている程です……それぞれの石には模様があり、各々で名前がございます。今回私が最後の賭けに出たのは『シス女神石』というモノです。現在はクロウくんの回復により、『世界樹』の中に入っております。そこで皆様に一つお伝えいなくてはならない事があります」




「それはもう一つの『女神石』……『ラス女神石』が誰かに奪われたという事です」




 エレノアの言葉に会場が大きくざわついた。


「誰が奪ったかまでは分かりませんが、安易に想像できます……恐らくは、八神柱アハトシュラインでしょう。彼らは三か月後、世界を崩壊・・させると言いました。恐らく、『ラス女神石』を使い、世界を崩壊しようと考えているに違いないでしょう」


 彼女の言葉を疑う声は一切ない。


 そのどれもが本当・・であると、誰もが信じていたからである。



 今度はエレノアに変わり、再度クロウティアは前に出てきた。


「三か月後に必ず戦いがございます。その日に備えて……ここにいる全員が力を合わせる必要がございます。どうか、僕に……いや、僕達に力を貸してください!」


 クロウティアとエレノア、ヴィンセント、その後ろにいるシエルにリッチお爺さんが頭を下げた。



 その直後、ダグラスが立ち上がった。


「クロウ様。エレノア様の話が全て真実である事は、ここにいる全員が分かっております。今回の戦い……我々の戦いでもあります。力を貸すも何も……我々の事情ですから我々が対処するのは当たり前なのです。クロウ様。エレノア様方々、頭をお上げください。そして、我々に――――」



「「「力を貸してください」」」



 会場の多くの者達からの言葉が会場に響いた。


 長年、人の優しさに触れられなかったエレノアとシエルが涙する。


 クロウティアから感謝の言葉と共に、会議は一旦終了となり、後日、それぞれの者達に詳しい作戦が伝えられる運びとなった。




 ◇




 ◆会議後のテラス◆


「シエル様、お久しぶりでございます」


「貴方は……まさか、卑弥呼?」


「はい、卑弥呼でございます」


「無事に生きていたのね」


「はい。二百年間眠りに付いておりました……二百年後に起き上がった事に意味があると、『賢者の石』を使い『島』を一つ作り、そこで力を貯めておりました」


「ふふっ、見ましたわよ。確か……ここでは『東大陸』と言われていたわね」


「はい。この卑弥呼。恩義あるエルフ族の為にも、この戦いを全力で手伝わせて頂きます」


「とても心強いわ。どうか……女神様の…………ティア様の為にも頑張りましょう」


「はい、それで一つ気になる事が……」


「――クロウくんの事かしら」


「ええ」


「ふふっ、貴方は昔から勘が鋭かったものね。でもね……まだ私にも確証はないわ。でも……もしかしたら――――」




 ◆執務室◆


「お父様!」


「アグウス……すまなかったな」


「いえ……それより……」


「ああ、紹介……というのも変だが、こちらがお前の母、エレノアだよ」


「お、お母様……」


「ああ……アグウス……こんなにも大きくなって」


「エレノアは俺達を守る為……『女神石』の生贄となって暗黒大陸の地下で世界を守ってくれていたんだよ……」


 ヴィンセントの説明でエレノアに抱き付くアグウス。


 既に自分の方が大きくなってしまったけれど……初めて感じる母のぬくもりの温かさがとても心地よかった。


 三人の親子は――久しぶりに抱き合ってぬくもりを確かめていた。




 ◆クロウティア屋敷の秘密部屋◆


「まさか……あの頃の子達がここまで大きくなっておったとは」


「お久しぶりでございます、こうして貴方に出会えて嬉しいですわ……それにしても随分と姿が変わりましたわね?」


「ガーハハハッ、生き残るにはこうするしか無かったのじゃ、こうでもしないと……あのお方に顔向けが出来なかったからの」


「相変わらずですね。今では私もですが、こちらのギル殿もいらっしゃいますから……必ず力になりますえ」


「うむ、頼りにさせて貰う。其方達の主人があのような方で本当に助かったわい」


「ふふっ、主は優しいですからね」


「ああ、おかげで儂の呪縛・・まで治して貰えたのじゃ」


「ふふっ、主に取っては大した事ではないからと、誰でも助けておりますからの」


「ああ、シエルも喜んでいたよ」


「シエル様も大変でした……こうしてみんなで生き残り会えるとは……本当に嬉しい事ですえ」


「ああ、儂も嬉しいものじゃ」

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