313.セナvsタリヒルラ
◆南領都◆
「…………貴方がタリヒルラさんね?」
「……ああ」
「私はセナ・
「……させない」
小さな身体からは、想像も出来ないような威圧感を放つ彼の両腕の裾の中から、細い剣が二振り出てきた。
深く被ったフードからは赤い目がセナを睨む。
「剣技、青龍型、神速剣!」
セナの高速剣戟がタリヒルラを襲う。
しかし、セナが斬った場所にタリヒルラはいなかった。
「ッ!?」
斬ったままの状態で、剣を後ろに構えると金属とぶつかる音が響いた。
いつの間に、セナの後ろに立っているタリヒルラ。
「剣技、白虎型! 凶鋼斬!」
重い剣圧の横斬りも空を舞う。
相手のいない場所を斬った剣の先に、タリヒルラが器用に立っていた。
「…………遅い」
「くっ! 剣技、青龍型、神速剣・連撃!」
セナの目にも止まらぬ速さの剣戟が炸裂する。
しかし、如何に速い剣戟でもタリヒルラに掠る事すら許されなかった。
「暗殺剣、ゼノン」
タリヒルラの詠唱と共に、両足から影の蛇がセナの左右から噛みついた。
「剣技、白虎型! 凶鋼斬!」
右側の影の蛇を斬ったセナであったが、左側から伸びた蛇に左手を噛まれてしまう。
急ぎ、影の蛇を斬ろうとするが、影の蛇に左手を引っ張られ体勢を崩した。
直後、タリヒルラの細い剣がセナを切り刻んだ。
幾つもの剣戟がセナを襲ったが、セナの素早い判断で大半が防げたのだが、防げられなかった剣戟により、セナの左手に多くの傷を残した。
「…………」
少し離れた場所からセナを睨むタリヒルラ。
「貴方……とても速いのね」
「…………俺は魔族最速だ」
「そう……それなら良かった」
「…………良かった?」
「ええ、私も
セナは右手に持った剣を掲げた。
「剣聖技、青龍型、神速ノ羽織」
青い光が溢れ、セナを包み、美しい袴の形となった。
更に彼女の周りを青い蝶々が飛んでいるが、蝶々の羽に龍の模様が浮かんでいる。
「では、今度は私から行くわ」
セナの言葉が終わると同時にその場から姿が消えた。
更にタリヒルラも消える。
平原には誰の姿もないが、剣と剣がぶつかる音だけが響き渡る。
セナとタリヒルラの超高速戦闘が広げられていたのだ。
セナの剣がタリヒルラを捉えるもタリヒルラの姿が消え、後方から彼の剣戟が現れるも、セナの姿も消える繰り返し。
お互いに高速での戦闘が続いた。
そんな戦いも、長く続くと思われたが――――。
お互いに距離を取った時だっだ。
「暗殺剣、デスペラード」
タリヒルラの詠唱から黒い霧が吹き出し、周囲を覆った。
更に彼の身体から黒い蛇が数十匹出現する。
「青龍ノ御子」
今度はセナの詠唱により、周辺を飛び回っていた青い蝶々達が集まり、三匹の青龍になった。
タリヒルラとセナが構える。
青龍と黒い蛇がぶつかった瞬間――――二人がぶつかりあった。
超高速の剣戟がお互いを斬り続ける。
その速度は凄まじく、周囲に魔力のうねりが出るほどであった。
魔力のうねりは次第に大きくなり、やがて大きな爆発を起こした。
――爆発の後。
平原に立っていたのは――――タリヒルラだった。
セナは大きく後方に吹き飛ばされており、地面に倒れていた。
◇
◆セナ・エクシア◆
「はいっ! お姉ちゃん!」
可愛らしいクロウが嬉しそうに両手を前に出した。
その両手には美しく輝いている翡翠色の宝石がついているネックレスがあった。
私の最も大事な宝物。
あの時の事は、今でも鮮明に覚えている。
私は弟を……ううん、クロウを守りたいと誓ったんだ。
だから、自分がどうなっても良いとさえ思って…………彼と彼女の幸せを願った。
でもクロウは私を受け入れてくれて、離さないでくれた。
今でも私の首には翡翠色に輝くネックレスが付けられている。
クロウに付けて貰ってから一度も外した事はない。
……私はこれからも守りたい。
守られるだけの存在にはならない。
だから、ここで倒れる訳にはいかない。
クロウの為にも、私は何度でも立ち上がろう。
◇
倒れていたセナから眩い光が溢れ出る。
タリヒルラは只事ではない事を察知して身構える。
「この戦いは……負ける訳にはいかないわ」
ふらつきながら起き上がるセナ。
「剣聖技、
セナの剣に禍々しいオーラが立ち上る。
――そして。
セナはその剣を振り下ろした。
セナのたった一振りにより、南領都は壊滅状態となった。
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