312.姫神vsアスティー

 ◆東領都◆


「ひゃーはははっ、俺様の相手は鬼か!」


 ヒメガミの前には、ヒメガミの三倍は大きい魔族が立ちふさがっていた。


「ええ、貴方の相手は私だわ、貴方が四天王の一人、アスティーで宜しくて?」


「ひゃはははは、そうだとも! 我が魔族最強の四天王、アスティー様じゃ!」


「そう……私はヒメガミ。貴方を倒す者だわ」


「おうおう! それは中々怖いね~」


 アスティーの大きな目がヒメガミを見下ろす。


 そして、彼は両手に魔力を集中させる。


「ファイティングモード!」


 アスティーの両手を大きな魔力の塊が覆う。


 魔力の塊はどんどん形を作り、大きなグローブの形となった。


「鬼の嬢ちゃん! このまま粉砕してやろう!」


 アスティーは巨体とは思えない速度で、ヒメガミを殴りに掛った。


 彼の右拳がヒメガミを殴りつけるも、素早く後方に避けたヒメガミ。


 目標を失った拳はそのまま地面を叩きつけると、大きな揺れと共に、地面に大きな穴が出来上がった。


「一筋縄ではいかなさそうですね……解放! 火ノ神カグツチ!」


 ヒメガミの火ノ神カグツチが解放され、大きな火だるま姿となる。


「ほぉ……面白い力だな」


「ええ、どうやら貴方との相性は良いみたいですね。私もりが得意ですのでっ!」


 ヒメガミがアスティーを殴りつける。


 アスティーは両手でガードするも、後方に大きく吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされたアスティーであったが、そのまま何もなかったかのように着地する。


「ふん、まだまだ青二才のパンチだな。我が本物のパンチを見せてやろう!」


 右拳をぐっと構える。


 直後、構えから右足に爆発が起き、その勢いのままヒメガミに殴り掛かる。


「武術! 豪撃!!」


 ヒメガミの右拳とアスティの右拳がぶつかった。


 魔力同士がぶつかり、大きなうねりと共に爆発を起こす。


 ドカーーン


 直後、ヒメガミが吹き飛ばされた。



「くっ……狡いですね」


「ガハハハッ! 喧嘩に狡いもクソもあるか!」


「ふぅ……まさか殴ると見せかけて、蹴りとは……」


 アスティーの両手だけでなく、両足にも魔力の塊によるスパイクが纏っていた。


「そういう事でしたら、私ももう少し本気を出しましょう」


 一つ大きく息を吸い込み吐いたヒメガミは、両手を合わせ構える。


火ノ神カグツチ、炎棒術!」


 ヒメガミの両手には、長い炎で出来た棒が現れた。


 ヒメガミの棒の捌きがアスティーを襲う。


 両手のグローブでヒメガミの棒をあしらってみるも、素早い攻撃がアスティーの身体中に当たっていた。


「ぐっ……! デストロイモード!!」


 アスティーの叫びから身体中から黒い煙が発生した。


「ぐぐぐぐ! 女、褒めてやる、我がここまで本気になったのは久しぶりだ!」


 大きな身体が一回り更に大きくなったアスティーは真っ黒な身体になっていた。


 構わず、攻撃を仕掛けるヒメガミであったが、振り下ろした棒がアスティーに捕まった。


「ふん!」


 そのまま棒を引き寄せ、ヒメガミの腹部を蹴り飛ばす。


 炎棒は行き場を無くし、そのまま消え、ヒメガミは吹き飛ばされた。



「はぁはぁ……」


 口からは血を流しているヒメガミが立ち上がる。


「ほぉ……あれでも立ってられるのか」


 ヒメガミより数倍大きいアスティーの大きい身体が立ちふさがり、睨む目が見下ろしていた。


「はぁはぁ……火ノ神カグツチ!」


 ヒメガミの瞳が更に真紅色に染まる。


 今まで燃え上っていた火ノ神カグツチの炎が更に大きくなった。


「旦那様に託されたから……私はここで負ける訳には行かない!」


 ヒメガミがアスティーに向かって飛び上がった。


火ノ神カグツチ! 豪炎陣!」


 ヒメガミを纏っていた火ノ神カグツチの炎が大きな輪の形になった。


 ヒメガミの一撃一撃の攻撃に、炎の輪から火炎が追加攻撃が放たれる。


 連続攻撃がアスティーを襲い、防戦一方となっていた。


「最後に、豪炎打!」


 ヒメガミの右手と炎の輪が重なり、アスティーに撃ち込まれる。


 爆音の音と爆炎があがった。





 しかし、


「くっくっくっ、それがお前の本気か、残念だがそんなもんじゃ効かないぞ!!」


 アスティーの両腕から黒い魔力の塊が集まり、大きな黒い鉄球の形となった。


「ブラックアイアンボール!」


 アスティーから発射された黒い鉄球に避ける事も叶わず、成す術なく吹き飛ばされるヒメガミであった。




 ◇




 ◆姫神◆


「――――ミ」


 ああ……ここは何処なのだろうか……。


「――――メガミ」


 誰かが私を呼んでいる……?


「――――ヒメガミ」


 ああ……呼ばれていたのね…………貴方は?


「ヒメガミ、我はいつでも其方の傍にいる」


 もしかして、カグツチ……?


「そうだ」


 カグツチ……ごめんなさい。


 貴方にはずっと謝りたかった。


「謝りたい?」


 ええ……貴方は私をずっと守ってくれていたのに……それに気づかず、寧ろ……貴方を恨んでいたわ…………。


 本当にごめんなさい。


「いや、我は其方を守る事が出来なかった。謝るべきは我の方だ」


 そんな事ないわ……今も私は貴方に守られてばかり……。


 貴方から力を借りても、目の前の魔族にも勝ててない……。


「――それはお前だけの責任ではない。我も漸く……あの神の子のおかげで繋がる事が出来た」


 神の子?


「ああ、其方に神の力を宿してくれた男の事だ」


 旦那様の事かな?


 旦那様は神の子なのかな?


 言われてみれば……旦那様は何でも出来るし、神術も簡単に使えているし……私の呪いも簡単に治してくださり、ナギちゃんの悩みも直ぐに叶えてくださった。


 …………。


 私は、旦那様の妻になれる資格があるのだろうか?


「ヒメガミ、其方は強い。かの神の子にも劣らない強さを持っている。心からどうなりたいか思うのだ。其方の願いを吐き出せ。我はいつまでも其方と一緒にいるぞ」


 カグツチ……。


 こんな私を愛してくれてありがとう。


 私も……今まで貴方を向き合えなかった時間を取り返したい。


 旦那様に相応しい妻になりたい。


 だから。


 ――――だから!






「力を貸して! 火ノ神カグツチ!!!」




 ◇




 倒れ込んでいたヒメガミから赤い炎が吹きあがった。


 炎は次第に青くなっていく。


 青くなった炎は大きな龍の形となり、ヒメガミを飲み込む。




「解放! 真ノ火神シン・カグツチ!!」




 青い爆炎の中に、美しい炎の鎧を身に纏ったヒメガミがいた。


 ヒメガミの右手には、大きな大刀が握られている。


「アスティー、貴方のおかげで私はカグツチとより繋がる事が出来たわ……それには感謝するわ。これは私の新たな力。ぜひ受け取って貰いたいわね」


 ヒメガミの圧倒的な威圧感にアスティーの表情が曇る。


 次に大技が来ると分かっているアスティーは身を構え、全身に魔力を纏わせた。




「神術! 青龍偃月刀真ノ火神ノ大刀!!」




 赤い炎と青い炎の爆炎がアスティーを飲み込んだ。

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