304.美しい星々

 ◆ナギ◆


 私は生まれながら、声が出せない。


 その事を悲しいと思っていた時期もあった。


 でも双子のナミちゃんのおかげで、今でも声が出せない事を悲しいとは思っていない。


 でも、悲しみとは違う、残念に思っている事はある。


 私達が大好きな姉上。


 姉上はずっと前から『火ノカグツチ』の所為で苦しんでおられた。


 でも、実際はそうじゃなかったみたい。


 呪いを治してくださった殿様に姉上からプロポーズをして成功したと聞いた。


 私が一番残念に思うのは……その姉上に「おめでとうございます」という言葉を……直接伝えられない事。



 そんな中、姉上と共に、『暗黒大陸』に訪れたら、その殿様と会う事が出来た。


 殿様から、治せるかも知れないと言われた時には……本当に嬉しくて……。


 でも……私の『声』が治る事はなかった。


 私は生まれながら『声』が出ない身体なのだと……久しぶりにそんな自分自身を悲しく思ってしまった。



 しかし、殿様はいきなり叫ぶと、何かをブツブツ話し始め…………。


 気が付けば、私を見つめながら『声』を掛けてくださった。


 『声』。


 それはまるで『声』と同じだった。


 殿様に言われるがまま、私は『初めての声』を頑張って出してみた。


 その瞬間。


 殿様は「うおお!! ナギちゃんの『声』が聞こえた!!」と喜んでくださり、私は初めて目の前の人に声を届ける事が出来た。


 更に……殿様は何かをブツブツと話し始めると、【みんな! 僕の声が聞こえると思う。これからは、この『心声』でいつでも、誰とでも話せるようになったよ! 先ず最初に紹介したい人がいる!】と話してくれた。





 私は……生まれて初めて、『みんなに声を届ける』ことが出来た。




 ◇




「旦那様、本当にありがとう……」


 ヒメガミさんは少し赤くなった目で、僕を優しく見つめていた。


 ナギちゃんは、初めて『声』を出せた事で、まだ上手く喋れていない。


 今はナミちゃんに向かって、『声』を出す練習をしている。


「旦那様って……本当に何でも出来るのね。セナちゃんの言う通りだったわ」


「へ? セナお姉ちゃん?」


「うん、セナちゃんは旦那様と一番関わりが長いんでしょう? 旦那様は子供の頃から何でも出来るし、困った時にはいつも助けてくれるって聞いていたの」


 セナお姉ちゃん!?


 僕、何でも出来る訳じゃないよ!?


 ヒメガミさんの目がいつの間にか、ハートになっていて、気が付けば僕の腕に絡まっている。


 いつもはクールなヒメガミさんなだけに、こういう所には驚きだ。



 あれ?


 そう言えば、後方でずっと一人で何かを叫んでいたリッチお爺さん。


 今は正座していて、何かを祈っている。


 何してるんだろう?


「リッチお爺さん? 大丈夫ですか?」


「ぬお! クロウくんじゃな、勿論じゃ、寧ろ、元気になったくらいじゃ」


「そうなんですか? それは良かった!」


「えーっと……クロウくんや? 先ほど使った魔法は……どういった魔法なのかい?」


 先ほどの魔法って『エクスヒーリング』かな?


の回復魔法ですよ?」


の回復魔法……」


「??」


「そ、そうか……そういうならそういう事なのじゃろ……」


 何か納得いかない顔をしているリッチお爺さん。


 また何かをブツブツ喋り始めた。



「今日はもう遅いし、ここで野宿にしましょう!」


 僕の提案でヒメガミさんにナミちゃん、ナギちゃんも喜んで賛成してくれた。


 いつもの野宿用簡易お家を建てる。


 ヒメガミさん提案で、ナミちゃんとナギちゃんは同じ部屋にして、大きなベッドを置いてあげた。


 更に、ヒメガミさんは僕と同じ部屋がいいと言ったけど、全力で断った。


 幾ら婚約者とはいえ、まだ結婚もしていない男女が、同じ布団の中で寝るのはよくない。


 そこは、うちの奥さん達の為にもやんわり断ると、ヒメガミさんも諦めてくれた。


 リッチお爺さんは寝ないみたいだから、野宿家の前で時間を潰すとの事で、僕達四人は、野宿用簡易お家でひと眠りついた。




 ◇




「そうか……クロウティアか……」


 既に枯れ果てた大地を見つめ、彼は呟く。


「あの日。貴方様を止める事が出来ていれば……ここもこういう風にはならなかったのでしょうか……」


 寂しさが込められているその声は、虚しく響き渡る。


 彼は、地面に小さくクロウティアの字を書く。


「俺が守れなかったモノ、今更許しを請うつもりはない…………だが、を受ける前に必ず成し遂げてみせる……果たして彼は……どういう選択をするのか……俺は見守る事しか出来ないのか……」


 彼は既に暗くなった大地の空を見つめた。


 美しい星々は、既に枯れ果てた大地すら祝福するかのように、力強く光輝いていた。


「いずれ、必ず其方達も救ってみせるさ……今は、クロウくん・・に全てを預け、きたる日までもう少しだけ待っていてくれ」


 美しい星々は、彼の言葉に反応するかのように光始めた。


 そして、彼の美しい頬に一筋の涙が流れた。

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