274.姫神の過去

 とにかく、めちゃくちゃ怒られた。


 お寺の管理人さんから、めちゃくちゃ怒られた、ヒメガミさんと共に。



 試験の最後は、ヒメガミさんだけ倒れる寸前くらいの威力で、その他全ての人にはただの水になるように調整した。


 でも、威力はないけど、勢いは凄まじかった。


 お寺のありとあらゆる物も流してしまったみたい……。


 あれからお寺管理人さんにめちゃくちゃ怒られて、僕とヒメガミさんは訓練場の端に正座させられた。



 余談だけど、レイラお姉さんから、うちの商会に連絡を入れたみたいで、いきなり商会の掃除隊が数人現れ、一瞬で片付けた。


 お寺管理人さんがお偉いさんをお城から連れて来た時には、既にお寺は以前よりも、ピカピカになっていて、管理人さんがお偉いさんに何も無いじゃないかって怒られていた。


 管理人さん、本当にごめんなさい。




 ◇




「まさか……私の火ノ神カグツチが一撃で、やられるなんて……はあ」


 ヒメガミさんが物凄い落ち込んでいた。


 怒られて落ち込んでいるようではないみたい。


「ヒメガミさんの火ノ神カグツチ、めちゃかっこよかったですよ!」


「うん? そうか……あれをかっこいいと言ってくれる人は初めてだよ」


 クスっと笑うヒメガミさん。


 試験の時は、ギラギラした目をしていたからあまり印象なかったけど、セナお姉ちゃんに似てる雰囲気があり、物凄い美人さんだ。


「まあ……あの力は呪い・・でもあるんだけどね……」


「呪い……ですか?」


「ああ、定期的に解放しないと、理性を失ってしまうんだよ」


 あの火だるま虎状態にならないといけないのか。


「――――って、さっき、あれになるには炎を食べないといけないって、言ってませんでしたっけ?」


「ん? ああ、そうだけど?」


「解放する度に、ああやって炎を食べるんですか?」


「ああ……火の神術が使える者から、炎を喰わせて貰っているのさ」


「ええええ! 炎を食べて…………腹壊さないんですか?」


 炎食べたら、普通は腹壊すよね? 多分。


「ん? ぷっ、あ、あはははは~」


 ヒメガミさんが大笑いをした。


 笑い過ぎて、笑いこけている。



「――――ほんと、君は面白い事を思うんだね。私が炎を食べる事を心配してくれる人がいようとはね……」


 ヒメガミさんが笑い過ぎて、涙を拭きながら、そう話した。



 何となく、ヒメガミさんに精霊眼を向けてみた。


「ん? ――――成程、君は眼の神術も使えるのか?」


「えええええ!? ヒメガミさん、精霊眼が分かるんですか!?」


「セイレイガン? その眼の神術の名前か?」


 精霊眼を認識出来た人は初めて会った。


「はい、神術かは分かりませんが、僕のスキルに精霊眼というスキルがあって、それでヒメガミさんの状態を覗いてみたんです」


「私の状態?」


「はい、さっき、火ノ神カグツチは呪いだと話ていたから、それが見えるのかな? って」


「それは、他人ひとの状態を見破る神術なのか?」


「ええ、大体そんな感じのスキルです」


 ヒメガミさんが感服したのような表情になった。


 一先ず、ヒメガミさんの状態を見てみようか……。




 ――――『呪い、理性崩壊』。




 本物の呪いだった。


【クロウくん、この子の呪いは徐々に理性が保てなくなるみたい。火ノ神カグツチは特別な力で、その呪いを弱める効果があって、理性を取り戻してるみたいね】


 メティスに鑑定して貰い、理由が分かった。



「ヒメガミさん、その呪い・・の事、聞かせて貰えませんか?」


「…………」


 一つ、大きな溜息を吐いたヒメガミさんは、淡々と昔の話をしてくれた。




 ◇




 ヒメガミさんは、生まれながらに強い力を持っていたそうだ。


 その代表的な力が火ノ神カグツチのようで、勿論、これ以外にも『武術』や『神術』が使えるみたい。



 そんな彼女だけど、その力が目覚めたのは、五歳の職能開花の時だという事だ。


 職能開花して、授かった職能が普通の人とは違う職能だったようで、大きな力を手に入れられたみたい。


 でも、それを引き換えに、彼女の身には大きな変化が起きた。


 段々と、破壊衝動に駆られたそうだ。


 それが初めて現れたのは、職能開花して三か月後の事。


 彼女は、抑えられない破壊衝動に、気が付けば、周りを破壊し尽くしたそうだ。


 それを止められたのは、彼女のお母さんとの戦いがあり、その時、偶然火ノ神カグツチを発動させたヒメガミさんが、正気を戻した事で、収まったそうだ。


 それから彼女のお母さんの研究により、定期的に火ノ神カグツチを発動させないと、破壊衝動に駆られる事が発覚。


 それから定期的に火ノ神カグツチを発動させる為、火の神術を使える多くの人達から、火を食べさせて貰っているそうだ。



 ヒメガミさん曰く、限界は三か月。


 三か月以内に、火ノ神カグツチを発動出来るくらいに、炎を食べて置かないといけないらしい。


 彼女とお母さんは、この火ノ神カグツチの力を呪いと呼ぶようになったそうだ。


 …………実際は、理性崩壊の呪いの所為であって、火ノ神カグツチの力が悪い訳ではないんだけど……、火ノ神カグツチの力が悪いように見えていたのかも知れない。


 更にヒメガミさんは、悲しそうに、炎を溜め込んでいる間は食事が取れないらしく、食事も三か月に数回しか取れてないと教えて貰えた。




 何となく、彼女の長い孤独な人生が伝わって来た。

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