273.姫神

 僕は自分がそれなりに強いと思っていた。


 最初はそんな事ないと思っていたけど、セナお姉ちゃんやディアナ、お父さんと稽古していた頃、ふと、そういう話になった事があった。


 魔法もそれなり……皆からはとんでもないらしいけど、僕が使えるんだから、他の誰かも使えるだろうと思っていた。


 でも、結果として、そういう人はいない事が分かった。


 傲慢になるつもりもない。


 でも、僕に足りなかったのは……目標がいなかった事だった。


 ――今のままで良い。


 ずっと、そう思っていた。



 それが覆ったのが、戦争だった。



 イカリくんを守れなかった。


 更にリサを目の前で一度亡くした。


 辛うじて勝利を収めた僕だったけど、それでも失ったモノは大きかった。


 だから、僕は一つ、決めた事がある。


 ――皆を守れるように強くなりたい。


 その言葉に、セナお姉ちゃんも、リサも、ディアナも、ナターシャお姉ちゃんも喜んでくれた。


 それから体力作りから、剣術を真剣に見つめたり、魔法も一度見直していた。


 賢者様達の魔法を見て、自分の魔法が極端・・である事も認識した。



 僕が訓練中に、ダンジョンの山を一つ、消した事があった。


 この魔法で、僕が知っている人で生き残れる人はいるのかという質問に、メティスは【恐らく、誰一人いないよ】と答えてくれた。


 その日から、僕は魔法を人に向けて撃つのが怖くなった。


 セナお姉ちゃんがいち早く、僕の悩みに気づいて相談に乗ってくれた時「手加減のスキルがあるんだから大丈夫よ」と言われて、一度、手加減スキルを見直す事にした。


 色々、メティスと試行錯誤しながら一つ分かる事が出来た。



 僕の職能『アザトース』。


 その『アザトース』専用スキルである『超手加減』。


 本来の手加減スキルは、威力を減らすスキルである。


 僕の超手加減スキルは、威力を自由自在に調整できるスキルだ。


 元々高威力の攻撃も、一切のダメージ無しで攻撃が出来た。


 ただ、それは言い返せば、相手にダメージを効率良く与える事が出来ない事を意味した。


 手加減するか、倒すか。


 これも極端な内容だと思えた。


 だから、メティスと色んな研究をした結果、超手加減の別な使い方を生み出した。




 それが、威力を減らすモノではなく、相手の体力を一定値残す内容だった。




 ◇




 僕が放った火属性魔法。


 小範囲で最も威力の高い魔法だ。


 メティスの計算だと、この魔法を耐えられるのは、戦争時に戦った元教皇である魔族だったエデンくらいだろう。


 彼は不思議な『魔法無効体質』だったとメティスが言っていた。


 そもそも『魔法無効』って存在してないはずだと言っていたのが、とても気がかりでもあった。



 そんな魔法を、僕は迷わず使った。


 その理由は一つ。


 当たっても、一定の体力が残る。


 つまり、それが当たれば、相手を無力化出来るからだ。



 そして、僕の火属性魔法はヒメガミさんに当たった。




 ◇




 大地が揺らぐ轟音が響いた。


 訓練場に音と共に、熱い空気が広がる。


 試験を見守っていた人達が、立ち上がり、ヒメガミさんに注目していた。


 ――――そして。






「ぐあああああ!」






 あれ?


 ヒメガミさんが……まだ立ってられる?


 あれ?


 ヒメガミさん……なんか、僕の火属性魔法を……喰ってない!?


 ――ぱくぱくぱくぱく


 ええええ!?


 ヒメガミさん!?


 そんなもん喰ったら、お腹壊しますよ!?



 暫くして、僕の火属性魔法を全て喰ったヒメガミさんは……。


「ぐは……たった、一回で…………」


 元々赤い髪から、火が立ちあがった。


 髪燃えているけど、大丈夫なの!?


 瞳も、なんだか、さっきより赤くなってない!?


 あれ?


 背中に炎の翼のようなモノが生まれた?






 ――――――「解放! 火ノ神カグツチ!!!」






 ヒメガミさんの背中には炎の翼が、両手には炎の爪が、足にも炎の爪、頭には元々あった中央の角から大きな炎の角、お尻には炎の尻尾が出来ていた。


 何となく、見た目は…………火だるま熊?


「熊じゃないわい!」


「え!? 熊っぽい……」


「熊は尻尾がないでしょう!」


「あ……確かに……う~ん、虎とか?」


「そっちに近いかも知れないけど、そもそも動物ではないのよ」


 火だるまになってるのに、平気そうにしているヒメガミさんだった。


「ヒメガミさん、それ熱くないんですか?」


「うん? 全く熱くないよ? これは、私が炎を限界・・まで蓄積した時、解放出来る『神体、火ノカグツチ』という神術なんだよ」


「へぇー」


「それにしても…………たった一回で、解放出来るなんて、信じられないよ……」


 どうやら、解放するのに喰わなきゃいけない炎の量が多いみたい。


「それじゃ、試験の続きといこう」


「ええええ!? まだ戦うの!?」


「勿論! 私はここからが本番だからね!」


 『火ノカグツチ』の姿になってウキウキしているヒメガミさんが可愛い。


 でも、これ以上戦ったら、訓練場が大変な事になりそうだ。


「分かりました。では、次の一撃で終わらせますね! 水属性魔法!」




 ――――僕の全力の水属性魔法がお寺を飲み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る