275.浮気

「ヒメガミさんの呪いは、火ノ神カグツチの所為じゃないですよ?」


 僕の言葉に、ヒメガミさんは驚きを通り越して、僕を見ながら、固まっていた。


「そもそも、火ノ神カグツチのおかげで、理性を取り戻しているから、どちらかと言えば、呪いというよりは、祝福に近い気がします」


「のろ……え? ……しゅく…………え!?」


 ヒメガミさん~落ち着いて~ほら、深呼吸。


 すーはーすーはー。


 深呼吸しているヒメガミさんが可愛らしかった。




「ふう、よし、ではいこう、――――えええええ!? 火ノ神カグツチって呪いじゃなかったの!?」


「あ、そこは一応驚くんですね、はい。そうですよ?」


「じゃ、じゃあ、どうして私はいつも、破壊衝動に駆られるの?」


「あれは『理性崩壊』という呪いの所為ですね」


「『理性崩壊』?」


「はい、その呪いで徐々に理性が保てなくなって、でも火ノ神カグツチを発動させると、その呪いを打ち消すから、元に戻れた。という事になりますね」


「じゃ、じゃあ……火ノ神カグツチは……私をずっと……守ってくれた?」


「そうですよ!」


 ヒメガミさんは信じられないという表情になり、少し考え込んだ。


 ――そして、大きな粒の涙を流した。


 今まで呪いだと思っていた力に、実は助けられていた。


 それは、きっと、彼女の人生にとって、最も大きな出来事なのだろう。


 ちゃんと火ノ神カグツチの力が助けになっていると伝えられてよかった。


「あ、ヒメガミさん。折角ですし、その呪い――――治しますか?」


 ヒメガミさんが「え?」ってこちらを見つめた。


 最近分かった事なんだけど、何でもかんでも治すのは良くないらしい。


 何故なのかは分からないけど、リサから治す前に、必ずその人から承諾を得なさいって言われていた。


「呪い……治せるの!?」


「多分? 今までなら呪いは治せていますから」


「ぜ、是非お願いします。その……この呪いさえ、治してくれるなら……私、何でもするから!」


「あ、あはは、大袈裟ですよ~まあ、取り敢えず治しますね?」


 僕はいつもの『エリクサー』と『ソーマ』を展開した。


 ――――「エクスヒーリング」


 僕の詠唱と共に、彼女は『エクスヒーリングエリクサーとソーマの合わせ技』の光に包まれた。


 ――数秒後、精霊眼で『呪い、理性崩壊』が消えた事を確認出来た。


「はい、治りましたよ!」


「えっ……? こんなに簡単に……いや、確かに…………頭の中にあったモヤモヤが……消えている……本当に、本当に呪いが……治った?」


 数秒間、ブツブツと何かを呟いていたヒメガミさんは、また大粒の涙を流し、喜んでくれた。


 喜び過ぎて、抱き付かれた。


 彼女の優しい匂いが、何処かセナお姉ちゃんを思い出せるようだった。


 セナお姉ちゃんがとても懐かしく感じる……。


 まだ離れて一日しか経ってないけどね。




 ――しかし、ここから僕は想像だにしない状況となった。




 ◇




「クロウ! 弁明する機会を与えよう」


 僕は現在、正座状態になっている。


 さっきも正座状態だった気がするけど、今は訓練場のど真ん中で正座中だ。


 そして、僕の前には、セナお姉ちゃん、リサ、ディアナ、ナターシャお姉ちゃんが立っている。


 ついでに? 一緒にレイラお姉さんも立っている。


 僕の奥さん達が…………物凄く怒っている。


「え、えっと……これには、その……事情が……」


 震えている僕の隣には、ヒメガミさんも一緒に正座していた。



「奥様方々、初めまして、私は姫神ひめがみと申します」


 奥さん達の視線が、ヒメガミさんに向いた。


「実は、私は長年、呪いに苦しんでおりました。そこに、旦那様・・・が現れ、私の呪いを看破してくださり、そして、治してくださいました……私は、旦那様の為なら何でもすると決めております。奥様方に一言も相談せず、大変申し訳ございませんでした」


 と、それは見事な土下座をしながら、ヒメガミさんが話した。


 取り敢えず、僕も一緒に土下座しておこう……。




 ヒメガミさんが旦那様・・・と呼ぶのは…………僕の事だ。


 先程、ヒメガミさんの呪いを治してあげて、彼女は僕に抱き付いて泣いていた。


 そこまでは、別によかった。


 しかし、問題はレイラお姉さんが現れてから起こった。


 レイラお姉さんが現れたタイミングで、ヒメガミさんがいきなり、僕にキスをした。


 それを見たレイラお姉さんが驚き、すぐさまセナお姉ちゃんに連絡。


 そして、奥さん達、全員ここに押し寄せた。


 ――――『浮気』。


 それは、決して許される行為ではない。


 しかし、僕にも一つ言わせて欲しい……。


 その…………一瞬の事で、抵抗出来なかった……んです……決して、その……ヒメガミさんが美人さんだからとか違うんです……。




 キスを終えたヒメガミさんの目がハートになっており、


「これからは、旦那様の為に、一生、尽くして参ります」


 と告げられたのだった。

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