248.ハイランド家
僕はルイトさんに案内され、とある部屋に来ていた。
ベッドの中には、イカリくんにそっくりは女性が横たわっており、窓の外を眺めていた。
ルイトさんからハイランド家の事情、イカリくんの事情を既に聞いていた僕は、彼女の傍に向かった。
「初めまして、メーアさん。私はイカリフィアくんの友人のクロウティアと申します」
僕の言葉に、メーアさんの瞳が僕に向いた。
その瞳は……光り一つ感じない虚ろな瞳だった。
◇
ハイランド家は代々『魔道具師』を輩出した名家として、グランセイル王国を支えていた。
そして、ハイランド家と共に、『魔道具師』を輩出していたもう一つの名家がサイレンス家だった。
両家は昔から比べられる事が多く、どっちが王国にとって『魔道具師』としての名家なのかを競うかのようだった。
グランセイル王国だけでなく、大陸中では『魔道具』は非常に大切にされてきた。
昔から戦争が起きるかも知れないと、兵器魔道具の開発もどんどん進んでいたみたい。
その中心にいたのがサイレンス家だった。
ハイランド家は兵器魔道具ではなく、生活魔道具の生産に長けていた。
そんな両家に、暗雲が立ちこもった。
二十年間『魔道具師』が両家から生まれなかったからだ。
『魔道具師』は王国内では絶大な権力を持つ。
王国魔道具ギルドのギルド長は、最上級職能『賢者』に近い権力があると言われている。
それも全ては『魔道具』のおかげであった。
二十年も新しい『魔道具師』が生まれない。
それは王国魔道具ギルドに、両家の席が無くなる事を示すのだった。
焦り出した両家は、この現状を何とか打開したいと考えた。
その末、サイレンス家からハイランド家にとある提案が出された。
それは――――今までいがみ合っていたが、今度からは両家で子どもを作り、『魔道具師』をもっと生まれやすくしようという提案だった。
ハイランド家も窮地に立たされていたので、その提案を呑んだ。
こうして、両家で提携したのが、両家の子供達の強制婚姻だった。
基本的には女を男に嫁がせて、生まれる子供はあくまで男の家の子供にするという事だった。
そして、両家の女達は向こうの家の男に嫁がされたのだった。
アルテナ世界では、女子の誕生率の方が高い。
両家の一人の男に数人の女が嫁ぐのが当たり前の事になった。
その中で、サイレンス家から嫁いできた女達は、全員当主の子供を欲しがった。
その為、現在の当主であるルイトさんには十名を超える奥さんが出来たとの事だ。
その中の一人が、メーアさんだった。
ルイトさんと奥さん達の間では、何の感情もなく、ただ、家の為に子供を作るだけの存在のようだったと、ルイトさんは話していた。
だから、今の奥さん達に対しても何かを思っているとか、一切ないと言われた。
奥さん達も勿論、ルイトさんの事を、旦那さんと思ってはいないようだったそうだ。
そして、多くの子供が生まれるも、五歳の時に『魔道具師』を授けられるかだけを見ていたそうだ。
もちろん――――全員授かれなかった。
そんな中、サイレンス家から『上級魔道具師』という史上でも数人しかいないとされる上級職能を授かった子供が生まれた。
その事により、ハイランド家はますます焦り、より子供を産もうと振る舞ってしまったそうだ。
その中で、メーアさんは生まれた我が子を大事にしていたそうだ。
職能が
それは母親として、当たり前の行動だったと思う。
しかし、まだ若かったルイトさんは、自分の親から仕込まれた通り、メーアさんを無理矢理にしたそうだ。
――――そして、あろうことか、そんな彼女を宥める為に、その子供を奪ったそうだ。
現在、その子がどこで何をしているのかは分からないとの事だ。
あれから全ての希望を無くした彼女だったが…………既に腹には子供が出来ていた。
それから、ただただ虚ろな状態となった彼女は子供を産むだけの存在となったそうだ。
あれから生まれた子供の中から一人だけ『魔道具師』が現れた。
それがイカリフィアくんだった。
その事で、漸く、ハイランド家にも平穏が訪れたそうだ。
ハイランド家を牛耳っていたルイトさんの両親が他界して、ルイトさんはやっと自分の過ちに気づいたそうだ。
言われたから行っただけ……最初の数年はそう思っていたそうだ。
でも育ったイカリくんから、「貴方は人間ですらない」と言われ、自分を悔やんだという。
それから数年後、アカバネ商会が奇跡的な『魔道具』を発売した。
その時点で、ハイランド家とサイレンス家はお互い、元々の疎遠な関係に戻っていたそうだ。
そして、マリエルさんの事件からサイレンス家の崩壊まで、ルイトさんはただ見つめる事しか出来なかったそうだ。
ルイトさんは自分の……いや、自分の家の過ちを認め、それからは全力で生まれた子供達を支援に当たった。
勿論、奥さん達や、サイレンス家に嫁いだ女性達、そこで生まれた子供達。
全員を出来る限り、ハイランド家で支援していった。
僕はルイトさんに対して、大きな怒りを感じていた。
でも――――それが当たり前だと育った彼は……何処か前世の僕と似た気がした。
殴られる毎日が当たり前だと、そう思い込んで育っていた前世。
僕はルイトさんを責める事が出来なかった。
今はその罪を償おうと必死になっていたから……。
「俺は……メーアをあんな風にしてしまって…………メーアが元に戻るまでイカリフィアにあわせる顔がありません。ですので……鎮魂の儀式を辞退させて頂きました」
そんな彼の涙に嘘は一切なかった。
そして、ルイトさんから、現在唯一支援が出来ていない子供が一人だけいると言われた。
それは、イカリくんの一つ上の実姉だった。
赤い髪、そして――――名前を聞いた僕は、一目散に彼女を迎えに向っていた。
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