237.人質

 セナお姉ちゃんを連れ、僕は王都支店にやってきた。


 貴賓室に入ると、そこには、薄紫髪が特徴の顔が整っており、誰が見ても分かるほどの美しい女性が一人いた。


 その女性の黒い瞳が僕を捉えると、優しい笑みを浮かべ、軽く会釈してくれた。



 向かいに彼女が座り、僕とセナお姉ちゃんが同じソファーに、上座ソファーにダグラスさんが座った。


 ダグラスさんから上座を……と言われたけど、その……ごめんなさい。


 上座のソファーって一人用だから……その……お姉ちゃんが離してくれないから、座りにくいと思うの。


 ダグラスさんは苦笑いを浮かべながら、了承してくれた。



「それでは、クロウ様。こちらの方をご紹介致します」


 その言葉に、女性は上品に右手を自分の胸に当て、挨拶をしてくれた。


「初めまして、わたくしの名はレイラ・インペリウスと申します」


「初めまして……えっと、皇女様……ですよね?」


「はい、お父様がアーライム帝国の皇帝でございます」


 皇女様なだけあって、その姿から気品が溢れていた。


「ごほん、それでは彼女がどうしてここにいるのか、私からご説明致しましょう」


「ダグラスさん、お願いします」


「此度の戦争が終結して、両国……厳密には連合軍と帝国軍を代表して、グランセイル王と皇帝が秘密裏に会談を行いました」


 そうだったの!?


「そして、その席には私とエクシア家のお二方にも参加して頂きました」


 お父さんとお母さんも?


 ダグラスさんは……アカバネ大商会の代表だったりしたのかな?


「その会談で、幾つかの調停が決まりまして、秘密裏ではありますがアーライム帝国からは戦争賠償を貰う事が決まりました。その戦争賠償の担保と言いますか……二度と戦争が起きないように皇女様がグランセイル王国に人質・・として来る事になりました」


 えええええ!?


 人質とか……そんな事しなくても良いと思うんだけど……。


 既に国と国の決定事項なので、覆す事は出来ないとの事だった。


「僭越ながら、わたくしが人質として名乗り出た理由は……、クロウ様の姉君……でした・・・セレナディア様が絡んでいるのです」


 お姉ちゃんの?


 僕はお姉ちゃんを見つめた。


 う、うん……その仮面、部屋の中では外した方が良いと思うんだけどな……。


「此度は帝国の民の為…………セレナディア様が犠牲となる形になり……大変申し訳ございませんでした……お父様からも追放された姉君様を見つけ次第、保護を約束致します」


 追放? 保護?


 あれ? ……お姉ちゃんはここに……?


「その代償をエクシア家にだけ押し付けるのは、皇族として見過ごせませんでした……ですので、これからはわたくしがクロウ様の手足となります。どうぞ、好きなように使ってくださいませ」


 えええええ!?


 皇女様!?


 本……気なのが凄く伝わってくるけど、その……目が……ちょっとハートの形になってない?



 痛っ!


 お姉ちゃん、僕の腕をつねないでよ……。


 ダグラスさんもそんな憐れむような目で見ないでよ……。




 ◇




「え……っと、これからうちで預かる事になりました、レイラさんです」


「レイラと申します。奥様方々には決して迷惑はお掛け致しません。どうぞよろしくお願い致します」


 あれ?


 こんなやり取り……以前にもあったような?


 それから一人一人挨拶をして、最後に『仮面の騎士』さんの番になった。


 仮面を取ったお姉ちゃんを見たレイラさんは――――。


「セレナ様!? 仮面の騎士様はセレナ様でしたの!?」


 と驚いていた。


 …………本当に気づいてなかったんだね。




 ◇




 レイラさんの歓迎会をする事になった。


 歓迎会と言っても、未来の奥さん達との食事会なんだけどね。


 奥さん達が食事を準備してくれている間、レイラさんが僕の方に来てくれた。


「クロウくん・・


「レイラお姉さん、どうしたの?」


 レイラさんからの提案で、様呼びはしない事になった。


 実はレイラさんの歳は、セナお姉ちゃんより一つ上らしい。


 気づけば、既に呼び方も普通になっていた。


「ふふっ」


 僕を見つめてニヤける彼女が、時折怖い……。


「実はクロウくん。私と初めましてじゃないんだよ?」


「ええええ!? そうなの? ――――むむっ……思い出せない……」


 レイラお姉さん……そんな期待を込めた目線で僕を見ないで……ええっと……いつだろう……。


「そっか――――でも、クロウくんにはこんなに沢山の美人さん達に囲まれているし、覚えてないのも無理はないよね」


 ううっ、反論……出来ない。


「もう八年前になるかな? 私、三年くらい病気で、もう生きられない身体になっていたの、その時、かが、私を治してくれたの……伯爵・・様は教えてくれなかってけど――あれはきっと、クロウくんなのよね?」


 八年前。


 病気……薄紫髪……。


 伯爵。


「あ! もしかして、あの時、寝ていた女の子か!」


 それを聞いたレイラお姉さんは満面の笑顔になった。


「クロウくんから、あの時の優しい匂いがしたから。セレナ様と初めてお会いした時、セレナ様から微かに香りがしていた気がしたの。だからこうして確認に来て確信出来たよ」




「遅くなってしまったけど、クロウくん。私を助けてくれて、本当にありがとうね」

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