235.仮面の騎士

 ◆アグウス・エクシア◆


 いや~酷い目にあった。


 奥さんと一緒にね。


 罵声は凄いし、物は投げつけられるし……中に銀貨投げた人いたけど、流石にお金はやめよう。


 ――、一番きつかったのは、子供。


 ひたすら泣きながら、僕達を睨んでいた。


 ――僕達の娘がこんなに愛されて、親としてはとても嬉しく思う。




 ◇




 身だしなみを整え、僕達はアカバネ島にやってきた。


 最大の敵……、いや、最大の問題の三男の非難をどう耐えるべきか悩みながら。




 ――――なのに!


 クロウ!


 どうして君はそんな幸せそうしているんだ!!


 え!?


 奥さんが……四人?


 四人???


 一体何を言っているんだ?


 先日、アリサさんに求婚したばかりじゃ……。


 え?


 新しく、三人増えた?


 だから、そんなだらしない顔をしていたのね。


 三人増えたのは良い事だよ?


 それは、親である僕達も嬉しい。


 でもね、クロウ。


 幾ら、自分の未来の奥さんが四人になって嬉しいとは言え、自分の姉がああなっているのに……。


 え?


 紹介するって?


 今?



 あ……君は、ディアナちゃんじゃないか。


 そうか、一人は君だったのか。


 先日、『英傑』と呼ばれるようになった素晴らしい女性だね。



 えっと、二人目は……。


 えええええ!?


 ナターシャさん!?


 クロウ。


 ナターシャさんは今では世界で最も有名で美人さんだぞ!?


 え?


 五歳の時から既にクロウくんに一目ぼれしていた?


 ?????


 あ………ナターシャさんを助けたと言っていたね。


 そうか……うちの息子は世界一美人さんを奥さんに……。



 え? 最後の一人?


 ……


 …………


 ………………


 その変な仮面。


 短いけど、何処かでよく見かけた事がある美しい黒髪。


 変な仮面越しに見える碧眼。


 あ~何か、何処かでよく見ていた人に、そっくりだね。


 偶々かな。






「せ、セナと申します。めまして、お父様……お母様……」


「あら、こちらの新しいお嫁さんもとても可愛らしいわね? 仮面もとても似合っているわ。うちの息子に奥さんが多くて大変だとは思いますが、宜しくお願いしますね? セナ・・ちゃん、エクシア家歓迎しますわ」






 あとで、クロウに一言、言ってやらねばならないな――――「奥さん達を大切にするんだよ」って。




 ◇




 ◆グランセイル王国の王都、王城の前◆


 王城前には多くの人達が集まった。


 今回の戦争で活躍した将達の披露宴の為だった。


 多くの人達が集まっていたが、彼らの心には一つ大きな傷が残っていた。


 ――『英雄』セレナディア。


 その名前は、今ではグランセイル王国内で最も有名となっていた。


 多くの王国民が見守る中、披露宴は始まった。


 いつものように音楽隊から――――と思っていた多くの国民が驚いた。


 響いた音楽がいつものとは違い、アカバネ大商会の『拡音魔道具マイク』によるモノだったからである。



 そして、音楽と共に、此度の戦争の活躍者達が登壇した。


 一人一人、名前が呼ばれ、アカバネ大商会の魔道具のおかげで、名前がしっかり広場に広がっていた。


 昔なら考えもしなかった一人一人の活躍した事への説明がなされたので、多くの王国民が歓声を上げた。



 そして、十数人が紹介された。


 最後と『英傑』ディアナが紹介された。


 グランセイル王国の長い歴史の中で、獣人族が表彰されるのは初めての事だった。


 しかし、アカバネ大商会の出現により、今ではグランセイル王国内で獣人族も人族と同じくらい人権を確立していた。


 その矢先の出来事である。


 『英傑』ディアナの名前は、獣人族だけでなく、ほかの蔑まれて来た人達にも希望となった。


 『英雄』の名を忘れる程の熱狂だった。



 それで終わりと思われた。


 しかし、もう一人、紹介される事となった。


 彼女が戦争でどういう活躍をしたのか、一切説明はなかった。


 司会者の紹介は――――、











たな『特別騎士』である仮面の騎士、セナ!」


 美しい短髪の黒髪に、顔の上部を隠している黒い花びらのような仮面の隙間から見える碧眼。


 左手の薬指に美しい指輪をしていた彼女。


 王国民の誰しもが歓喜した瞬間だった。



 セレナディア・エクシアはエクシア家と王国から追放となった。


 ――しかし、新たな英雄として『仮面の騎士セナ』がその抜けた穴を埋めたのだ。


 彼女の振り上げた一振りの剣。


 ――『剣聖』の剣によって。

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