234.終戦の裏で
◆フローラ・エクシア◆
――「クロウは私が守ります。アリサちゃんと婚約は絶対守ります。だから、帝国の戦争の理由を、私がアリサちゃんたちを拉致した事にでっち上げたいんです」
あの日、娘のセレナディアから言われた言葉だった。
昔から娘は弟を誰よりも愛していた。
剣を握った理由も、挫けそうになっても何度も何度も立ち上がった理由も、その傍らちゃんと女性としての事をこなしてきた理由も、全て最愛の弟を守る為だった。
――「もし、クロウを守る為、政略結婚をしなくちゃならないから、女性としての魅力を鍛える方法を教えてください。お母様」
あの時の言葉には衝撃を受けたわ……。
まさか、男性に一切の興味も示していなかった娘に
秘密裏に、私達はグランセイル王、アカバネ大商会総帥様と共に、帝国の皇帝と会談となった。
結論として、今のままでは帝国が内戦状態になりかねない事が分かった。
元々、内戦が多かった帝国。
この機を逃すはずはないはずだという。
そこで、表には出さない、裏での調停が決まった。
一つ、帝国の戦争の理由として、『聖女様』であるアリサさんを、エクシア家の『セレナディア』が拉致した事にする。
そうする事によって、多くの帝国民には「帝国は平和の為に戦争を起こした」と言えるからだ。
勿論、それには大きな損害を伴う。
私の娘、セレナちゃんには……家と国の追放をしなければならないからだ。
この決定に、私と旦那は、一晩中泣いた。
でも、娘がそうしたいと頑なに変えなかった。
二つ、帝都の教会崩壊及び、ホフヌグ町の消滅の件は『魔族の仕業』という事にする。
そもそも、事実なんだけど、証拠が無ければ、納得させられない。
幸い、多くの帝国民が帝都内で魔族の姿を目撃していた。
これで元々悪と言われていたアカバネ大商会の容疑を晴らした。
三つ、アカバネ大商会をアーライム帝国の『国商会』にする事。
これはアカバネ大商会の知名度が知れ渡ってからの発表となる。
なので、それまでアカバネ大商会は無償でアーライム帝国内の戦国被害処理をしてくれる事となった。
四つ、アーライム帝国は秘密裏に戦争賠償を支払う。
これは皇帝自らの打診だった。
帝国も被害国ではあるが、戦争に判子を押したのは、皇帝だ。
皇帝なりのケジメだそうだ。
でも、既にアカバネ大商会が戦後の被害処理を名乗っているので、問題ないとの事だ。
実は、この戦争賠償金は全てアカバネ大商会に流れるようになっている。
あくまで、形だけ帝国から王国に支払う事にした。
五つ、戦争の再発を防止する為、帝国から
その人質は、皇帝から迷いない言葉で、皇女と決まった。
愛する娘を手放す親の目をしていた皇帝を、私も同じ気持ちで見つめていた。
六つ、『教会』の本部の移送が決まった。
『教会』は、どの国にも属さないようにする為、ホフヌグ町が消滅したアーライム帝国領南東部に移送が決まった。
かの地を、我々は
その地は、どの国にも属さず、全ての人々が自由に出入り出来る地となる予定だ。
自由と言ってもあくまで出入りだけで、何でも出来る地ではなく、あくまで『教会本部』がある地となる。
その地は、カイロス教会から名前を改め、『女神教会』となる。
先日、人界に降臨なさった『女神クロティア』様を崇める教会になるとの事だ。
それにしても……この女神様の名前、何処かで良く見ている名前に似てるのが気になるわね。
噂によれば、それは美しい女神様で、羽も生えてて、女性
うちのは……一応男だし……違うよね? 今度アリサさんに聞いてみよう。
七つ、その女神教会は、全てアカバネ大商会が管理する事となった。
最も大きい理由が、『ポーション』だ。
今までは教会が独占していた『ポーション』。
それを覆す為、『アカバネポーション』を大々的に売り出す。
その為には、世界に認められる必要がある。
『女神教会』を全面的に支援するアカバネ大商会が『女神教会』より授かり、売り出す方式になった。
その名も『女神ポーション』だそうだ。
余談だけど、今まで全ての町にあったカイロス教会も、全て名前を変えて『女神教会』となる。
更に、今までの礼拝は必ず『寄付』をしなくちゃいけなくて、その額も割りと高めに強要されていた。
それも一切封印して、『寄付』というモノを完全に撤廃した。
では、人々はどうやって
それは一切合切、『女神ポーション』を買う事で積めると宣伝する事にした。
『女神ポーション』が世の中に回れば、怪我で苦しむ人々も治りやすいので、お互いに良い事尽くしだ。
アカバネ大商会に入ったその金は、そのまま孤児院や貧困層の助けとなる。
多くの人が、今のアカバネ大商会の慈善事業の事も知っているので、『女神ポーション』が大陸中に浸透するのには、そう時間も掛らなかった。
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