219.潜入開始

 僕はリサを抱えて、セシリアさんはソフィアをくっつけて、空を飛んでいた。


 とにかく急いで、帝都グランドに向かおう。


 帝都グランドに逆戻りになる二人はどんな心境なんだろうか……。




 ◇




 あれから暫く飛んで、遂には帝都グランドが見えた。


 帝都は遠目からでも、殺伐とした雰囲気だった。


 僕達が遠くから眺めていると、ソフィアが付いて来て欲しいと、森の奥に案内された。


 その森の奥で待っていたのは、アヤノさんだった。



「アヤノさん!」


「クロウ様、お待ちしておりました」


 先日、『鼠』に酷くやられた彼女だったが、今ではすっかり元通りになっていた。


 そのアヤノさんは復活してからすぐに、再度帝都グランドに潜りたいと、自ら志願した。


 最初は断ろうとしたけど、ダグラスさんからもお願いされていた。


 念のため、アヤノさんにも『神々の楽園アヴァロン』を出来る限り掛けていた。


 今回は無事に調査出来たようだ。


「それで、アヤノさん。例の件は?」


「はい、やはり、この戦争の裏にあるのは『教皇』でした。そして、皇帝はどうやら都城からは動いておりません。更に、我々が『鼠』と呼んでいる者達は教皇直属の暗殺集団『からす』というそうです」


「そうですか……やはり、暗殺集団でしたか」


「それと七人の枢機卿のうち、五人が……その『鴉』と通じておりました。恐らく、同類・・かと」


「分かりました。残り二人の枢機卿はですか?」


 白とは、教皇側の人間ではない事を示す。


「はい、白だと思います。ブリュンヒルド枢機卿とサテラ枢機卿です」


「分かりました。ありがとうございます。アヤノさんは念のため、郊外で待機していてください」


「かしこまりました。どうかご武運を」



 僕達は深いローブを被り、帝都グランドに入った。




 ◇




 帝都グランドの中は殺伐としていたけど、至って大きな問題なく、過ごしているようだった。


 気になるのは、道に建てられている神様の像に祈りを捧げている者が多かった。


 彼らはみな口を揃えて「グランセイル王国とアカバネ大商会に天罰を」と祈っていた。



 そんな中、僕達の前を衛兵が塞いだ。


「おい、お前ら、怪しいな」


「衛兵様……僕達は決して怪しい者ではないです……郊外・・の者でございます……」


「ッ、郊外の者か……」


 そして僕は少しフードを抜いた。


 その中に見えたのは……醜く崩れている顔だった。


「わ、分かった。悪かった」


 衛兵は謝って僕達から離れて行った。



 実は郊外には病人の集落があり、僕の霧属性魔法で幻覚を見せたのだった。


 今は僕達は誰が見ても病人のはずだ。




 少し帝都グランド内を歩き回ったが、道端の祈り以外は特に何も無く、僕達は教会本部に向かおうとした。


 ――その時。



 - 『魔眼』を受けました。スキル『対魔眼封じ』により、相手の『魔眼』を封印しました。-



 天の声さんの声がした。


 魔眼?


 何処だ?


【クロウくん、相手まで案内するよ】


「分かった、リサとシリアさんは向こうで待ってて」


 念のため、町では本名では呼ばない事にしていた。


 彼女達は頷き、路地裏に入っていった。



 僕はメティスの案内で、先程僕に『魔眼』を使った者に向かった。




 ◇




 そこには若い女性が一人、血の涙を流していて、目が外からでも分かるように何物かで『烙印』を押されたようになっていた。


 そして、隣には若い男性が慌てていた。



「初めまして」


「ッ!?」


 僕の出現により、男性は裾の中から両手に剣を取り出した。


「それで、僕に『魔眼』を使ったのは、そちらの女性ですか?」


「なっ!? まさか……お前が魔眼返しを??」


「理由によっては、ここから――――」


「お待ちください。私の名前はセリスと申します。『分析の魔眼』を持っております」


「セリス!?」


「ルリオ、今はこの方の言葉に従いましょう」


 それを聞いた男性は驚くも、剣を収めた。


「それで、僕を『分析』したのはどうして?」


「はい、私はこの町に来ているかも知れない、とある方を探しておりました」


「それは誰なのです?」


 彼女は見えない目で、僕を向いて口を開いた。


「はい、セシリア様という方でございます」




 ◇




「セリスちゃん!?」


 彼女の言葉に嘘のようには見えず、敵意も一切なかったので、リサとセシリアさんを連れて来た。


 どうやら、セシリアさんの知り合いのようだ。


「この声は!? セシリア様!?」


「ああ、その目……何て痛々しい……」


「いいえ、これは私が勝手に覗き見た罰でございます……」


 セシリアさんが悲しそうに彼女を見つめていた。


「セシリア様、どうか……サテラ様にお会いになってください、このままでは……教皇が……」


 ああ、アヤノさんの情報でもあった枢機卿の一人で、教皇側の枢機卿ではない方の名前だ。


「分かったわ。案内してくれる?」


「はい、ルシオくん、悪いけどお願いしていいかな?」


「ああ、任せてくれ」



 僕達はルシオさんに案内され、枢機卿の一人、サテラさんと会う事になった。



 ――――本陣衝突まで、あと6時間。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る