211.西軍の初戦

 ◆連合軍、西軍◆


 ドーン、ドーン、ドーン、ドーン


 西軍の戦場に太鼓の音は響き渡った。


 アーライム帝国軍の進軍の合図だ。



 それに呼応するかのように、連合軍の進軍の音が響いた。


 そして、両軍はぶつかり合った。





「これが……戦争……」


 砦の上から、セレナディアは戦争を見つめていた。


 自分が砦で姿を見せているだけで、味方の士気が上がる為だった。


 西軍の指揮を担当しているのは、テルカイザ共和国のルワイド領主だった。


 元々、帝国に最も近い領で、指揮に秀でた力を持っていた。


「セレナディア殿、帝国軍の右翼と左翼から怪しい動きがあります。一度中央を下げた方が宜しいかと」


「分かりました。見た感じ、左翼の方が手強そうです」


「成程、分かりました。では一度中央を下がらせ、左翼を重点的に攻めましょう」



 ルワイド領主の合図で、連合軍の指揮音が響いた。


 中央で競り合っていた連合軍は少し後退をはじめ、中央の後方にいた軍を左右に別れされた。


 元々左翼一対中央三体右翼一の比率で軍を編成していて、それが均等になるように変更した。


 アーライム帝国は先に左右翼を潰すつもりだったが、連合軍の早い対応に作戦が阻まれてしまった。



「しかし、小競り合いが多いわね……何か別の狙いがある?」


 セレナディアは戦場を見渡した。


 何処か、見逃した場所はいないか。


 ふと、彼女の目に入ったのは、西軍の更に西側に広がっている深い森だった。


 深い森なので、軍は通れない。


 しかし、少し気になった。


 ――――少数精鋭なら通れるかも知れない。


 ふと、それがセレナディアの頭によぎった。



「ルワイド殿、あの森にモンスターはいますか?」


「はい? いいえ、あの森はとても深いので、動物も住めない程です」


「人が通るのも難しそうですね」


「ええ、仮に森に慣れた狩人でも、あの森は難しいでしょうな」


「そうですか――――、ルワイド殿、指揮を頼みます」


「はい? どちらに……?」


 セレナディアは森を指さした。




 ◇




 セレナディアが森の入口に着いた。


 何となく、ここが危険だと思ったからだ。


 ルワイド殿は不思議がっていたけど、『剣聖』の勘なら信じるに値すると、セレナディアを見送った。



 暫くすると、森の奥から全く気配のないが向かってくるのを感じ取れた。


 そこから現れたのは――黒い衣装の者達だった。


がここにいるとはね」


 現れたのは、教皇直属暗殺部隊『鴉』だった。


 彼らはすぐにセレナディアに攻撃を仕掛けた。



 鴉七名は、最初三名でセレナディアに短剣を投げつけた。


 セレナディアは剣を抜く事なく、飛んできた三つの短剣を避けた。


 直後、セレナディアは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、右側を斬った。


 誰もいないはずなのに、斬った場所からは血と共に、鴉が一人倒れた。


 続いて、鴉の三人はセレナディアの後方に移動すると、前後一人ずつ近距離攻撃を仕掛けてきた。



 セレナディアは「剣技、青龍型、神速剣」と呟くと、鴉よりも速い速度で前方の鴉を斬った。


 斬られた鴉より血が噴射する間際に、セレナディアは更に向こうにいる二人の鴉に襲いかかった。


 そのあまりの速さに、鴉達は成す術無く、斬られた。



 その一部始終を見ていた後方の生き残っていた二人の鴉は、森に逃げ込んだ。


 しかし、既にセレナディアの姿はなかった。



 ――逃げていた鴉が一人、そしてまた一人と地面に落とされた。




 ドーン、ドーン、ドーン、ドーン


 遠くでアーライム帝国の進軍を示す音が聞こえた。


「ッ!? まさか!」


 セレナディアは急いで戦場に走った。


 ――しかし。




 戦場は既に連合軍の敗北・・で終わっていた。


 連合軍は砦を捨てて、後退していた。




 そんな砦に、美しい女性が一人、鎧を身に纏い立っていた。

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