212.出陣

 ◆連合軍、西軍◆


 セレナディアは急いで連合軍に合流した。


 幸い、素早い判断で砦を放棄したルワイド領主のおかげで、殆ど被害は負っていなかった。


 ただ、西軍の士気は下がっている。



「ルワイド殿、申し訳ない。まさか、森の方が罠だったとは……」


「セレナディア殿、いいえ、寧ろ砦を守り切れず、申し訳ありません」


「いえいえ、早い判断で犠牲は大きくならずに済みました。ありがとうございます。それで、あの後どういう事が起こって?」


「はい――――」




 ◇




 セレナディアが前線を離れた頃。


 ルワイド領主は前線全体を見ていて、違和感を感じた。


 先程、セレナディアから左翼の方が手強そうと言われた。


 しかし、見た感じではあまりにも真逆だった。



 だが、長年、軍の指揮に長けていたルワイド領主は彼女の勘の方が、自分より優れている事を認めていた。


 だから、彼女の予想が的中すると信じていた。



 だから軍を左翼の側に寄せた。



 ――そして、事は起こる。


 左翼の方で大きな爆発が起きた。


 いや、爆発ではない。


 大きな爆風が起きたのた。



 その爆風を見たルワイド領主は迷わず退却の指示を出した。


 ――あの爆風は普通ではない。


 セレナディアが前線を離れたこの瞬間に、爆風が起きたのがその理由でもあった。


 素早い退却指示で、連合軍は最小限の被害で撤退出来た。



 そして、遠目で爆風の正体を知った。


 一人の美しい女性だった。


 美しい紫色の長い髪が風に揺れていた。


 ルワイド領主は彼女を見て、一つ確信した事があった。


 ――セレナディア殿に似た強者の雰囲気があった。


 間違いなく、撤退して良かったと安堵するルワイド領主だった。




 ◇




「紫髪の女性……はい、私も砦の上にいる彼女を目撃しました」


「恐らく、あの爆風は彼女だと思われます」


「ふむ……一度に数十人規模の爆風………『爆裂剣』に似てますね」


「『爆裂剣』?」


「はい、剣技の一つですね。彼女も剣を掲げていましたから……恐らくは」


「ふむ、聞いた事がない剣技ですが……とにかく、次の手を考えましょう」


「はい、まずは砦を奪い返さないと……」


 砦の次はテルカイザ共和国のルワイド領の町になる。


 町が戦場になると、重大な被害が起きる事が目に見えているので、何として砦を取り戻したいセレナディアだった。




 ◇




 一方、その頃、連合軍東軍では、


 フルート王国の『先見の賢者』フェルメールとグランセイル王国の『破滅の騎士』ジョゼフによって、アーライム帝国を圧倒していた。



「フェルメール殿、儂はいつ出して貰えるんじゃ?」


「ふふっ、ジョゼフ殿は相変わらずですね。それに……以前より元気になっておりませんか?」


「ガーハハハハッ、可愛い孫に会ってから、元気になってのう、今では全盛期頃より戦える気がするわい」


「それは恐ろしいですね~、しかし……本当に元気になられたようで、嬉しいです」



 二人が他愛無い事と話しているのも、アーライム帝国を圧倒しているからであった。


 既に連合軍は戦争の準備をしており、東軍に関しては長年戦いに身を投じていたジョゼフ・ブレインとフェルメール・セージミストの連携は大陸屈指の強さを誇った。



 ――そんな中。


 アーライム帝国軍側から凄まじい殺気を感じ取った。


 その殺気は、ジョゼフとフェルメールだけでなく、全ての兵士達が恐怖する程だった。


 連合軍だけではない。


 帝国軍の兵士達もその殺気に恐怖していた。



「遂に来たか……」


「ええ、覚悟はしていましたが……やはり……」


 二人の見つめる先に、殺気の正体があった。



 鍛え抜かれた身体。


 最上級の鎧。


 禍々しい黒いオーラが立ち上っている斧。



「相変わらず、アイツはとんでもないのぉ……」


「『破滅の騎士』様でもそう思いますか?」


「そりゃ……、しかも、あいつ、昔より数段・・強くなってそうじゃのう」


「ええ……ジョゼフ殿には申し訳ありませんが、彼の相手は一人ではさせてあげられませんからね?」


「ガハハハッ、儂も馬鹿ではないわ。あんなの一人で勝てると思わんよ、フェルメール殿、頼んだわい」


「頼まれましたわ、さて、この老体も鞭を打って出ますか」


 二人は禍々しいオーラを放っている者がいるアーライム帝国軍に向かって歩き出した。




 ――そして、三人は対峙する。


「久しぶりに血が滾るのぉ……そう思わんか? 『戦慄の伯爵』よ」

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