210.前線

 アーライム帝国の宣戦布告から三日経った。


 既にアーライム帝国は前線を張っていた。


 だが、グランセイル王国も秘密裏で戦争の準備を進めていた。


 隣国のテルカイザ共和国とフルート王国。


 かの二国はどちらに付くかを決めなければならなかった。


 しかし、それは既に決まっていた。


 帝国が暗躍していた頃から、既に二国はグランセイル王国……いや、アカバネ大商会と共に歩む事を決めていた。


 その最も大きな原因となったのが『ポーション』だ。


 今まで回復は全て教会が賄っていた。


 しかし、教会も無料でおこなってくれる訳ではない。


 多額の……それも国が傾く程に多額の寄付金を要求し続けていた。


 これは二国……いや、全ての国が悩んでいた事だった。



 それを解決したのが、他でもない『アカバネ大商会』だった。


 数々の奇抜な魔道具を生み出してきた。


 しかし、今回彼らが提示したモノ、『アカバネポーション』は今までのどんな発明よりも、どんな商品よりも素晴らしい事だった。


 効果も教会の正規ポーションと段違いで高く、そして、遥かに安かった。


 両国及びグランセイル王国は教会よりも、彼らを信じる事を決めたのだ。




 ◇




 グランセイル王国の素早い対応で、既に前線では、アーライム帝国軍とグランセイル王国軍を中心とする連合軍が睨み合っていた。


 アーライム帝国は二手に分かれて攻めてきた。


 東南部からフルート王国を経由して攻める方。


 西南部からテルカイザ共和国を経由して攻める方だった。


 グランセイル王国は直接アーライム帝国領と面していないので、軍を二国に派遣していた。


 西南部前線には『特別騎士』セレナディア・エクシアを中心とする西軍。


 東南部前線には『壊滅の騎士』ジョゼフ・ブレインを中心とする東軍で構成されていた。



 いよいよ、戦いの時が近づいていた。


 両軍は戦いの緊張感に闘志を燃やした。


 己らの正しいと思う道を進む為に。




 ◇




 クロウティアは現在、アカバネ島の屋敷にいた。


 落ち着かないように、戦争の様子を、上空に設置した遠距離ライブ観戦装置ライブビューイングで見ていた。


 クロウティアは、本来ならこの戦争に参加しようとしていた。


 しかし、参加出来ずにいた。


 理由は一つ。


 実姉、セレナディアから戦争に参加しないて欲しいと言われたからである。



 あまりにも脅威的な力を持っているクロウティア。


 彼のたった一回の詠唱で、帝国軍を殲滅出来てしまう。


 セレナディアはそれを懸念していた。


 あまりにも強い力は、時には人々の恐怖になりえる。


 だからクロウティアの参戦を良しとしなかった。



 多くの知人を見守るクロウティア。


 しかし、この時、クロウティアは大切な事を気づかずにいた。


 もし、この時、クロウティアがそれに気づけていれば――――。


 失わずに済んでいたかも知れない事を、今の彼は知る由もなかった。




 ◇




 三日ぶりに目を覚ましたアヤノは自分の左手指に同じ・・指輪がある事に気がついた。


 無くしたはずの指輪。



 アヤノはすぐにダグラスの元に向かった。


 そして、ソフィアから同じモノを複製して貰った事を聞いて、大いに喜んだ。



 彼女はすぐに、ダグラスにある提案をする。


 ダグラスは一度の反対もなく、彼女の提案を受け入れた。



 アヤノはその足で、再度、アーライム帝国の帝都グランドに向かった。




 ◇




 ◆???◆


 人はまた同じ過ちを繰り返している。


 戦争は悲劇しか生まないというのに……。


 どうして人の子らはこうも戦いたがるのか……。


 貴方達が見限った子ども達は、今でも戦い続けているわ……。


 私はどうしたらいいのだろう……。


 私に何が出来るのだろう……。


 教えて……ラス……シス……。

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