209.宣戦布告
「エクスヒーリング!!」
僕は急いで『エリクサー』と『ソーマ』の合体技をアヤノさんに掛けてあげた。
疲弊していたアヤノさんの顔には生気が戻り、斬られていた左腕も無事、元通りとなった。
「アヤノ……どうだ? 大丈夫か?」
ダグラスさんの腕の中にアヤノさんが弱々しく抱きかかえられていた。
「ごめんなさい……しくじってしまったわ……」
「寧ろよく生きて帰ってくれた…………ありがとう」
ダグラスさんの言葉にアヤノさんは大きな涙の粒を流した。
暫くして、アヤノさんが落ち着いたので、休むよう伝えた。
「待ってください……、私より、報告の方が……大事です」
既に身体は治っているけれど、精神的に疲れ果てているアヤノさんは、それでも先に報告をしたいと話した。
ダグラスさんからも、報告を先にさせてくださいとお願いされた。
それから、アヤノさんは帝都グランドであった事を全て話してくれた。
いつか、来るかも知れないと思っていた宣戦布告が、遂に来たんだと思い知った。
一先ず、アヤノさんには休んで貰う事にした。
◇
「貴方……ごめんなさい」
「何度も謝るな、お前が生きて帰って来てくれただけで、俺は嬉しい」
腕の中に今まで見た事もないような弱々しい自分の奥さんだった。
彼女をベッドに寝かせると、彼女は続けた。
「左腕……無くしてしまって……貴方との……指輪も無くして……ごめんなさい」
「ッ!? アヤノ! 指輪なら俺が百個でも二百個でも買ってあげるから! だから気にするな! 確かに……我々に取っては思い出の品かも知れない。でもお前の命の方が一番大切なんだ」
「貴方……ありがとう、ううっ……折角……クロウ様が……祝ってくださった……指輪……」
そして、彼女は気を失った。
自分と奥さんが最も大切にしていた指輪。
自分達の命よりも大切な方から祝福された指輪を失った。
きっと、それが彼女に取って大きな悲しみになっているのだと、ダグラスは知っていた。
そんな中、ダグラスの前にソフィアが現れた。
「ッ!? ソフィア殿、どうしました?」
ソフィアとは言葉を交わす事は出来ない。
彼女の動きで何とか察するしかないのだが――――
彼女はダグラスの左手の指にかぶりついた。
「ッ!?」
最も信頼している仲間の一人なので、かぶりつかれても、ダグラスは拒まなかった。
数秒でダグラスの指輪が消えてしまった。
そして、数秒後、ソフィアから元々ダグラスが嵌めていた
「ソフィア殿! 感謝致します……!!」
ダグラスは嬉しい涙を流した。
◇
アヤノさんから緊急連絡が来た時点で、帝国支店から全ての従業員達を引き上げさせていた。
以前から避難訓練はしていたので、スムーズに撤退出来ていた。
アヤノさんの件もあったので、向こうの『次元扉』は全て壊した。
今の帝国内アカバネ大商会支店全ては、もぬけの殻状態になっているはずだ。
一旦落ち着いたので、僕は一度帝国を偵察に行こうとした。
――――しかし。
帝国には
【クロウくん! 帝国に『転移の結界』が張られているわ!】
「え!? 『転移の結界』??」
【ええ、結界内部には『転移』が行えないわ。勿論、内から外にも行けないわ】
『転移の結界』なんてモノが存在していた事に驚いた。
考えられる事は一つ。
『次元扉』を見た『鼠』達が、『転移』の事を嗅ぎつけた。
『転移』が使えるだけで、戦争には大きな力となる。
寧ろ、唯一無二の強さになるはずだ。
だから、それを防いだ事だろう。
でもどうやってその結界を?
そう易々と使えるはずでは……ましてや帝国
【恐らく、今のクロウくんでも大変だと思うわ】
メティスの目立てだと、難しいみたいだ。
では一体どうやって……?
そんな事を考えていると、アカバネ大商会にセレナお姉ちゃんが訪れたと連絡があった。
そのまま、『次元扉』で島に来て貰った。
◇
いつもよりも、ずっと凛々しい姿のセレナお姉ちゃんがいた。
グランセイル王国の唯一の『特別騎士』となったお姉ちゃん。
半年程経ってるけど、まるで別人のように見えた。
「クロウ。本日はグランセイル王様より、報告に来たわ」
「うん」
「既に知っているとは思うけど、アーライム帝国がグランセイル王国に宣戦布告をしたわ。これがその手紙」
セレナお姉ちゃんが見せてくれた手紙を見た。
確かにアーライム帝国からグランセイル王国に宣戦布告する旨が書かれた手紙だった。
「グランセイル王様から伝言よ。王国はアカバネ大商会を全面的に
アーライム帝国がグランセイル王国に宣戦布告した理由。
それは――――「アカバネ大商会を差し出せ」だった。
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