戦争編

208.開戦宣言

 ◆アーライム帝国、帝都グランドの広場◆


 現在、帝都グランドの広場には多くの人々が駆けつけていた。


 その理由は――――、


 カイロス神を信仰する教会より、声明を発表されるとの事で集まっていた。



 真っ白い美しいローブと、背高い赤い帽子が特徴の高齢の男性が高台に立った。


 彼が現れただけで、広場は拍手で包まれた。



 カイロス教会の教皇『エデン・デュカリオン』。


 カイロス教の歴史の中で、最も長く教皇を務める人物だ。


 彼は圧倒的なカリスマで、多くの枢機卿を従え、教会をより正しい道に導いた。



 帝国では教会に助けられた命が幾つもあり、教会の信頼は絶大なモノとなっている。


 その頂点にいるのが、現在の教皇だ。



 教皇は両手を上げた。


 彼の行動で、広場が一瞬で静寂になり、彼は続けた。


「我がアーライム帝国が大きな大災害により、痛ましい状況になっている。

 多くの帝国民が命を無くし、生きる場所を奪われた。どうしてなのだ!

 我が神に尋ねた。信仰ある我が帝国民に試練を与えられたのかと。神は違うと仰った。


 では一体誰が我が帝国を脅かしたのか。

 それは他でもなく、グランセイル王国にいる邪悪な『アカバネ大商会』を名乗っている者達だ!


 彼らはあろうことか、大型兵器魔道具を使い、我が帝国領に大災害を起こさせた。

 自分らの土地には一切被害を出さずに!


 そして、彼らはあたかも自分達が助けると言いながら、教会の承認外の『ポーション』まで大量に使っていた。

 あの『ポーション』はまがい物だ!

 既に帝国領の東南部は既にグランセイル王国の町となっている!


 更にあろうことか、彼らは我々の聖女様であるセシリア様を攫っていったのだ!!


 これは許される事ではない!

 帝国民を騙したグランセイル王国とアカバネ大商会を許してはならない!


 私はここに宣言しよう!

 彼らに鉄槌を下す事を!!

 彼らに神罰が下るであろう!!!」



 教皇の演説が終わると、帝都広場には「彼らに鉄槌を! 彼らに神罰を!」と多くの信者達が声を上げていた。



 ――――こうして、グランセイル王国とアーライム帝国の戦争が始まった。




 ◇




 帝都グランドの広場で教皇が演説を行っていた頃。


 グランセイル王国に一通の手紙が届いた。


 アーライム帝国より、アカバネ大商会を使い帝国領を侵害したとして『宣戦布告』の旨が書かれている手紙だった。


 既に予想していたグランセイル王は、取り乱す事は無かった。


 グランセイル王は『特別騎士セレナディア』を呼んだ。


 彼女に手紙を渡すと、彼女は大きく頷き、アカバネ大商会に向かった。




 ◇




 同時刻、帝都グランドの郊外では、一人の女性が黒い衣装の者数十名に追われていた。


 彼女の名前はアヤノ・アカバネ。


 アカバネ大商会のオーナーであるクロウティアの指示により、アーライム帝国内部を偵察していた。


 しかし、アカバネ大商会が通称『鼠』と呼んでいた者達によって、追われていた。


 アヤノの想像以上に強く、数が多かった為、簡単に逃げる事が出来ないでいた。



「くっ、しつこいっ……」


 廃家に隠れたアヤノだったが、見つかるのは時間の問題だった。


 彼女は急いで、アカバネ大商会に緊急連絡を送った。


 送ってすぐ見つかってしまい、再度逃げる事になる。


 しかし、既に周辺には多くの『鼠』がおり、逃げ場は何処にもなかった。



 言葉を発しなくでも、『鼠』達は意思疎通が取れているようで、アヤノを追い詰めていた。


 アヤノは一番薄い所の突破を試みた。



 結果、何とか『鼠』達の包囲から脱したのだが、突破時、彼女は大怪我を負ってしまった。


 無数の傷、そして彼女の左腕は既に存在していなかった。


 彼女の斬られた左腕があった場所には、ソフィアの分体がくっついており、止血をしていた。


 『鼠』達から数秒時間を稼いだアヤノは、漸く繋がったソフィアとソフィアの分体により作られた『次元扉』に逃げ込む事に成功する。


 しかし、『次元扉』は遠くながら、『鼠』達に見られてしまった。


 アヤノが入ってすぐにソフィアにより、『次元扉』は壊されたが、『鼠』達に『次元扉』の存在を知られてしまったのであった。




 ◇




 ◆カイロス教会の教皇の間◆


 教皇こと、エデンがご満悦に教皇の間に座っていた。


 すると、後ろから影が現れ、黒い衣装の者が現れた。


「『からす』か」


「はっ、例の女を追い詰めましたが、最後に不思議な『扉』が現れ、逃げられました」


「『扉』?」


「はっ、遠くでしたが、扉の向こう景色は、ここではない何処か・・・でした」


 エデンは「ほぉ……」と呟くと、顎を撫でた。


「女は既に満身創痍で左腕も斬られており、戦う事は不可能と見られます」


「ふっ、まさか、お前ら強化人間にあそこまで太刀打ち出来る人間がいるとは……儂の見立て不足だったな」


「申し訳ございません、父上・・様」


「よい、お前らから逃げ延びたのなら、寧ろ、そやつを褒めるべきであろう。ふむ。しかし『扉』か……もしや――――」


 考え込んだ教皇は、教会の地下・・に向かった。


 教会にはないはずの地下・・へ。

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