202.お見合い
次の日――。
お父さんに言われるまま、僕は急なお見合いをする事になった。
何が何でも一度受けて欲しいとお父さんからお願いされたからだ。
場所は王都の高級レストランの個室で、先に僕とお父さんが待っていた。
飲み物も口を通らないくらい緊張する……。
暫くして、ノックの音と一緒にとある女の子と中年男性が入って来た。
「エクシア辺境伯様、本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、メレイラ子爵殿。お越しくださり、ありがとうございます」
軽く世間話をして、お父さんと子爵様は僕達を残し、部屋を出て行った。
「初めまして、メレイラ子爵家の次女、ハンナ・メレイラと申します」
「は、初めまして、ぼ、僕はクロウティア・エクシアです、よ、よろしくお願いします」
それから彼女と色々話しをしたけど、全く覚えられなかった。
「クロウティア様? テラスに出て見ませんか?」
彼女に誘われテラスに出てみた。
テラスから見える王都の景色は、美しい街並みと活発に行き交う人々が見えた。
眺めを見ていると、ふと、セレナお姉ちゃん、ナターシャお姉ちゃん、リサ、ディアナの顔が浮かんだ。
今頃、彼女達は何をしているんだろうか……。
僕は今、何をしているのだろうか。
でも、こんな事思っているなんて、折角ここに来てくださったハンナさんに申し訳がない。
とそんな事を思っていると――、
「ふふっ、クロウティア様は心ここにあらずな感じですね」
と言われてしまった。
「さっきからずっと上の空ですけど、緊張もあるでしょうけど……きっと、誰かを思っているのではないですか?」
「あ、あう……その……ごめんなさい……」
そんな僕に彼女は安堵したように小さく溜息を吐いた。
「クロウティア様、実は……大変失礼だとは思いますが……私はこの縁談を断わらせて頂きたいのです」
「えっ?」
「申し訳ございません……」
彼女は申し訳なさそうに謝ってきた。
「い、いいえ! さっきからまともに会話も出来なくて……寧ろ、僕の方こそ申し訳ないと言うか……それに……」
実は別な女性の事を思っていた――――なんてとても口に出来なかった。
それでもハンナさんはそれを察していたようで、
「実はわたくし……既に好きな人がいるのです」
と言われた。
彼女は何処か遠くを見つめて、誰かを見つめていた。
きっと、その好きな方なのだろう。
「ですが、彼は貴族ではないので……婚約する事も出来ず、こうしてお父様に縁談を持ち込まれて、ここに来てしまいましたわ……でもやっぱり私は……彼と結ばれたい……」
悲しそうで……でも嬉しそうなその瞳を見て、僕も決心が付いた。
「ハンナさん、ごめんなさい。僕も……別に好きな人が……多分ですけど……いるんだと思います」
「ふふっ、そうですね。わたくし、こう見えても可愛い方なのですよ? そんなわたくしを……一度も女性として見てくださらなかったんですもの」
うっ……ご、ごめんなさい。
「彼女はどんなお方ですか?」
「えっ……と、どうなのだろう……そもそも好きなのかどうかも……」
「でも、彼女の悲しむ顔が浮かんでいるのでしょう?」
「えっ!? どうしてそれを……」
「ふふっ、私も同じだからです」
彼女はまたいたずらっぽく笑った。
「それはきっと、彼女の事が好きだからだと思いますよ? だって、こんな美男子を前に、私ったら別な男性を思い浮かべているのですから」
彼女は僕を見つめていた。
「ですから、ちゃんと彼女の事、大切にしてあげないといけませんよ?」
僕の人生初めてのお見合いは、大失敗に終わった。
元々、やる気があって来た訳ではないけれど……ハンナさんの言葉が耳に残り続けた。
――――人を好きになるって……分からないよ……。
◇
僕は一人、王都支店に帰った。
ハンナさんは馬車で帰るとの事だったので、お見送りだけした。
ハンナさん。
どうか、彼と上手く行きますように。
複雑な感情で、自分が自分でもよく分からないまま、道を歩いた。
お父さんが言っていた「人は生きる為、歩み続けなくてはならない」が頭から離れなかった。
僕の歩んでいる道は――――ずっと、一人、――――。
「クロウ!!!」「くろにぃ!!!」「クロウ様!!!」
王都支店が見え始めた頃、僕を呼ぶ声と共に、お姉ちゃん達が走って来た。
お姉ちゃん達はすぐに僕を抱きしめてくれた。
――――ああ、僕、ここにいてもいいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます