201.お父さんの提案

 十五回目のアカバネ祭の時期になった。


 二年生になってから、図書館で本を読むか、トイレを作るかしかしてないような気がする……。


 勿論、毎日誰かと遊んだり、買い物したり、買い食いしたり、平穏な毎日を送っている。


 でも、何処か心に大きな穴が空いているような、ずっとそんな気分だった。


 恐らく、僕の周りの大きな変化があったからだと思う。



 今までなら、何となく家族に会いに行ったり、遊んだりしていたけど、今はそうも行かなくなった。


 ライお兄ちゃんは結婚しているけど、まだブレイン領で訓練をするからと奥様二人と共にブレイン領で生活をしている。


 デイお兄ちゃんはエクシア領に戻り、お父さんの元で騎士として頑張っていた。


 セレナお姉ちゃんは三年生になり、ますます『剣聖』として皆を引っ張っていた。


 ディアナもすっかり人気者になって、今では一年生から三年生まで多くの生徒の訓練を見てくれていた。


 リサは、僕と違って、多くの友人が出来たので、毎日友人達と遊んでいた。


 ナターシャお姉ちゃんは一番忙しくて、毎日何処かの町でイベントだったり、打ち合わせだったり、会議だったりと、大忙し状態だった。


 ダグラスさんとディゼルさんはまだ不安定な帝国支店を見回っている。


 支店四か所の『次元扉』は繋いだので、簡単に行けるようにはなっていた。


 イカリくんとは一番会っていたけど、仕事に付いて間もないので大変そうだった。


 そんな中、僕はというと……本を読んで、トイレ作っての繰り返しだ。



 何だろう。


 僕は今更ながら、何がしたいかを考え始めた。


 皆、それぞれの目標がある。


 僕は既に目標を達成してしまった。


 でも……その後の事なんて、何も考えてなかった。


 ――――僕は、何がしたいのだろう?




 ◇




 ◆アグウス・エクシア◆


 最近三男のクロウが元気がない。


 中々珍しい事だ。


 最近は学園祭も本人なりに頑張っていたけど、あんなに慌てている息子を見るのは初めてだった。


 あれだけの魔法が使えて、既に大金持ちにもなって、生活に何の不自由もしていないはずだ。


 それでも、人には外的要因で満たされないモノが一つだけある。


 それは、『人とのふれあい』だ。


 僕のお父様がまさにそういう方だった。



 不思議と、誰からも見向きもされなかったそうで、その親にすら見捨てられている程だったそうだ。


 でもそんなお父様はお母様と出会う事で、世界が変わったと仰っていた。


 唯一の子供である僕を産んだ後、お母様は旅立ってしまったとの事で、僕が大人になってすぐにフローラと結婚して、お父様は領主を僕に譲り、お母様を追いかけて旅立ってしまった。


 偶に手紙が届いていたけど、今では生きているのかすら分からない。



 そんなお父様を誰よりも近くで見たのが、僕だった。


 お父様を一人の人として、ちゃんと見れたのは、僕とブレイン領主のお義父様くらいなモノだ。


 お父様が他人を前にすると、いつも空笑いをして、相合笑いをして、その目は悲しみに溢れていた。


 そんな目を、まさか自分の息子からも見る事になるなんて思いもしなかった。



 そんなクロウを誘って、二人でアカバネ島の旅館に泊まる事にした。


 最近では二人でお風呂に入る機会も増えた。


 いつもだと、リサが~とか、セレナお姉ちゃんが~とか、ディアナが~とか、嬉しそうに話していたのに、今日は彼女達の名前が一切出てこない。


 何となく、彼女達の事を遠回しに聞いてみたら、学園でとても楽しく過ごしているそうだ。


 恐らく、そこに自分の居場所はないと思っているのかも知れないと思えた。



「なあ、クロウ」


「うん? どうしたの?」


「――――お見合いしようか」


「――!? #$’&$(”$&」


 クロウは言葉にならない言葉で何かを訴えた。


 うん、慌てる所も可愛い息子だ。


「まあ、落ち着いて」


「ふぅふぅ……って! お父さん!? 何を考え――――」


「クロウも後二年もすると大人になる。大人になると言う事は、までの生活は出来ないという事だ」


 クロウは不満そうな表情のまま、静かに聞いている。


「誰も時の流れを停める事は出来ない、人は生きる為、歩み続けなくてはならない。クロウも、クロウの周りの友人も、仲間も、家族も、みんな生きる為に歩み進める。歩んでいれば考えも変わるし、状況も変わる。世界は――――常に変わり続けるんだよ」


 それを聞いたクロウは、思う節があるようで、俯いた。


「今のままでいたいと思うのは、自分の、彼らの進化を阻む事になる。だからクロウも歩み進めなくてはならない」


 僕はクロウの頭を優しく撫でてあげた。


「前に進む事は、時には勇気が要る。でも心配しなくても、クロウなら出来るさ。だからクロウも歩み進めなくちゃね」


 泣きそうな目になったクロウを、僕は優しく見守った。

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