197.ケーキ、その名を

 ――「いらっしゃいませ! うちの屋台美味しいですよ!!」


 ――「向こうで講演会をしてますよ!! 是非見に来てください!!」



 ガヤガヤと周りの学生さん達が一生懸命に宣伝していた。


 僕はというと――――――。



 何で僕が宣伝係なんだよぉぉぉぉ!!



 こんな大きい看板持って、立ってるだけだけど……なんか、僕の周りだけ人多くない?


 皆さんの目が怖いよぉぉぉ。


 その中に知人を見つけた。


「あっ! ギムレットさん!」


 僕の声に反応したギムレットさんがばつが悪そうに笑って手を振ってくれた。


 どうやら奥様と一緒に来たようだけど……隣には裕福そうな衣装の連れの方達もいた。


 ご友人だろうか?


 あれ? ご友人様達が泣き出したよ? どうしたんだろう?



 それから僕は一生懸命「二番棟の一階の『魔法使いと喫茶店』をお願いします~」と宣伝を頑張った。




 ◇




 ◆二番棟、一階の『魔法使いと喫茶店』◆


 魔法科Cクラスが出店した喫茶店。


 大盛況となっていた。


 この喫茶店は、普段着る事がない魔法使いの格好であるローブととんがり帽子を入口で渡される。


 それを着用したら、席に着くと美味しいケーキと紅茶が届く、という仕組みになっていた。


 本来ならお客さんには、魔法使いの格好をして、ゆっくりケーキと紅茶を楽しんで貰いたかった。


 ――しかし。


 現在、喫茶店はそれどころの騒ぎではなかった。


 廊下に見えるのは――――、列、列、そして列。


 廊下の向こうの建物の外まで続いていた。



 それでも、何故か店内は落ち着いていた。


 何故なら、店内は時間制限はあるものの、それまでゆっくりしているので、そもそも接客もあまり必要なかったからだ。


 それぞれのテーブルには、セシリア考案の『ロイヤル紅茶』と『ホットケーキ』が運ばれた。



「わあ! これがクロウティア様が仰っていた絶品紅茶とケーキね!」


 多くの人が、入口で宣伝しているクロウティアの宣伝を目撃した。


 ――「絶品のケーキと紅茶も飲めますよ~!」と懸命に宣伝していたので、クロウティアを横目に最も早く店に辿り着いたのが、今座っている一巡目のお客さん達だった。


 そして、彼女達は紅茶とケーキを口に運んだ。


「んんん!? こんな美味しい紅茶があるなんて!」


「このケーキもとっても美味しいわよ! 素朴な味の中に、深く優しい甘さが広がるわ!」


 ケーキと紅茶を口にしたお客さん達は、みな笑顔になっていた。




「この『スマイル笑顔ケーキ』と『ロイヤル紅茶』、とっても美味しいわ! ああ、幸せ!」




 そこにある『ホットケーキ』には、トロトロの甘い黒ハチミツで笑顔が描かれており、ケーキの美味しさも相まって、誰もが口にしては笑顔・・になっていた。




 ◇




 学園祭が無事終わった。


 『魔法使いと喫茶店』が圧倒的な人気を誇っていたが、入れるまで時間がかかり過ぎて、途中で多くの者が諦めた。


 催し物は喫茶店だけではないからである。



 セレナディアが参加していた演劇もとても評判が良かった。


 『勇者セーナの旅』という演目で、勇者セーナが成長してゆき、魔王を倒す物語だった。


 セレナディアの演技も上手く、多くの人達に感動を与えた。



 もう一方では、女神クロウティアの相棒として有名になった、天使アリサの方も人気だった。


 彼女が開いたのは、なんと、『託児所』だった。


 学園アルテミスの学園祭は多くの者が見に来るけど、その中には多くの子供達もいた。


 自分で歩ける子供ならば良いが、まだ職能開花もしていない子供には、人混みが大変だった。



 そこで、アリサ提案でそういった子供達を見てくれる『託児所』を催し物として行った。


 それがまた大盛況で、寧ろ多くの子供達が天使アリサと遊べると『託児所』で遊びたいと言い出した。


 『託児所』にはアリサの母親セシリアの案で、子供達のための多くの遊具が設置されていた。


 そういった遊具で遊んだ事がない子供達は、夢中で飛びついた。


 その中では、貴族や平民関係なく、全ての子供達が平等に遊んでいた。


 その姿を見た多くの者は、心を打たれ、天使アリサとその学友達、そして、『託児所』を全面的に支援した『アカバネ商会』に良い感情を抱くのであった。


 その『託児所』で出されたまん丸くて黄色くて、とびっきりの笑顔が描かれているケーキが出された。


 子供達はそのケーキを食べる度に幸せに笑うのであった。




 ――それは、大陸で最も子供達が食べたいと思う一番人気のお菓子『スマイルケーキ』が初めて登場した瞬間だった。


 天使アリサが、食べた人が笑顔になれる美味しいケーキから着目して命名した『スマイルケーキ』。


 考案したアリサの母であるセシリアの想いが込められているようであった。

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