196.ケーキの想い
◆アリサ◆
くろにぃの頼みで、学園祭用の飲食の準備でお母さんが毎日忙しく研究に没頭していた。
数日後に私達も呼ばれて、学園祭で出す紅茶やケーキの試食を頼まれた。
紅茶はお母さんが発案した高級紅茶『アルグレーイ』に『ミロミルク』をたっぷり入れた『ロイヤル紅茶』というモノになったそうだ。
高級紅茶『アルグレーイ』でも『ミロミルク』で多く割るので、値段的にも安くなるそうだ。
『ミロミルク』って……水より安いが謳い文句だっけ。
そして、ケーキが五点程、出された。
一番目から三番目のケーキは、良く食べるケーキで、どれも文句なしに美味しかった。
集まった女性陣全員からも好評だった。
しかし、四番目と五番目のケーキは初めてみるケーキだった。
どうやら、『カステラ』というケーキと『ホットケーキ』というケーキだそうだ。
初めて食べるケーキ。
その美味しさに驚いてしまった。
私はその味に一つ違和感を覚えた。
このケーキって――――もしかして。
お母さんも見つめると、お母さんが優しく笑顔で頷いてくれた。
――やっぱり、これって向こうのケーキだったのね。
くろにぃはどうやら『ホットケーキ』がとてもお気に入りなようで、素朴な味で、何故か食べてると笑顔になるって喜んでいた。
このケーキ、食べていると不思議と笑顔になれた。
それからお母さん提案で、誰でも簡単に作れるからと、『ホットケーキ』作りに挑戦してみた。
私が作ったケーキは、何故か焼いてるうちにまん丸にならなくて、変な花丸の形になっていた。
フライパンを揺らしただけなのに……。
私達が作った初めての『ホットケーキ』はもちろん、くろにぃに食べて貰った。
美味しそうに食べてくれるくろにぃを見ていると、何だか守ってあげたくなった。
◇
「あ、お母さん。お帰りなさい」
「アリサちゃん、ただいま」
私達はくろにぃの屋敷の一室を借りていた。
広々とした部屋で、頼めばどんな家具でも魔道具でも用意してくれた。
贅沢な生活をするつもりはないけど、快適な生活が出来て、とても住みやすい。
「お母さん、あのホットケーキがくろにぃに受けが良くて良かったね」
そう言うと、お母さんが驚いた。
「う、うん……そうね。ありがとう、アリサ」
お母さん、泣きそうな顔を我慢していた。
「私も凄く美味しかったよ」
「う、うん……」
私はお母さんを抱きしめた。
「お母さん」
「ううっ――アリサ――ごめんなさい」
お母さんは私にすがり泣き始めた。
暫くして、お母さんが泣き止んだ。
「前世では、二人に、作ってあげれなかったから……」
「うん。何となくそう思ったよ。だからくろにぃも食べてるとき、ずっと笑顔になっていたと思う」
お母さんは元々料理が得意で、ああいうスイーツもよく作ってくれていた。
ホットケーキとカステラは初めて作ってくれたけど、これはきっと
「ねえ、お母さん?」
「うん?」
「あの『ホットケーキ』、名前変えてもいいかな?」
「名前を……変える?」
「うん。私にとても良い案があるの」
「どんな名前なの?」
「それはね、――――――」
私の提案を聞いたお母さんは、満面の笑顔で頷いて了承してくれた。
◇
あれから一か月が経ち、遂に、学園アルテミスの学園祭の日がやってきた。
学園アルテミスの学園祭は王国内でもとても有名で、色んな人が遊びに来てくれるイベントみたい。
元々、この世界では娯楽というモノが非常に少ない。
それは一部の力がある有力者達の所為でもあるんだけど……その中で、数少ないイベントの一つだ。
多くの学生が、お客様を楽しませようと、あれもこれもと準備している。
その中でも一際、凄い光景が既に入り口に見えていた。
他でもない――。
くろにぃだった。
今では学園中、最も有名な一人だ。
そんなくろにぃは、元のクラスである魔法科Cクラスの共同催し物の『魔法使いと喫茶店』に参加していた。
出される料理も、アカバネ商会の協力を掲げ、安価で『絶品ケーキと絶品紅茶』のセットを出す事になっている。
その
その看板には、喫茶店の詳細や値段、場所等が書かれていた。
――しかし、あの格好をしているくろにぃは…………とても可愛いわね。
まだ学園祭は始まってないが、開幕したら多くのお客様がこの門を通るはずだ。
多くの宣伝用看板が並んでいるけど、やっぱりくろにぃだけ良い意味で、物凄く目立ってる。
『アカコレ』のおかげで、既に女神クロウティア教まで発足したらしいし……。
門の外で、くろにぃをチラチラ見ているお客さんの目線。
うん。
やっぱりみんな、くろにぃに向いてるよね。
カ――ンコ――ン、カ――ンコ――ン。
開幕を知らせるベルが鳴った。
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