162.人助け
会議が終わり、僕は久しぶりにナターシャお姉ちゃんと二人っきりで旅館にやってきた。
旅館には既に多くの男性用服が用意されており、『アカコレ』用の服だという事だった。
前世で言うカジュアルな服から貴族用服まで色んな種類があった。
ナターシャお姉ちゃんに言われるがままに一つ一つ着替えさせられ、時間が過ぎて行った。
その日、ナターシャお姉ちゃんからのお願いで、そのまま旅館で泊まる事になった。
ナターシャお姉ちゃんから一緒にお風呂に入ろうと言われたけど断固反対した。
ナターシャお姉ちゃんの裸…………。
想像するだけで気が飛びそうだ。
お風呂を上がり、僕達は二人で食事を取った。
そして、食事後、ナターシャお姉ちゃんからとある相談をされた。
「ねえ、クロウくん」
「うん? どうしたの?」
「今日、他の商店と共存すると決めたでしょう?」
「うん」
「どうしてなのか、聞いてもいい?」
隣に座るナターシャお姉ちゃんが、僕に近づきとても良い匂いがした。
「僕はずっと前世の妹を探したかった。だから、あまり周りを見る余裕がなかったよ……、だから正直言って、自分の
先日、ウリエルのダンジョンでお姉ちゃんの悲しそうな顔が今でも忘れられない。
僕は家族を信じると口ばかりで……大事な事は何一つ伝えていなかった。
妹を探している事も本当の職能の事も……アカバネ商会の事も。
全て僕が一人勝手にやっていただけ。
そんな僕を……家族の皆はずっと待っていてくれていた。
だから……これからは自分でやれる事を出来る限りやりたい。
ちゃんと向き合いたい。
そして、知りたい。
僕はリサと会うためだけに、この世界に生まれたのか? と。
それは絶対に違うはずだ。
こうして、ナターシャお姉ちゃんやディアナも助ける事が出来たし、アカバネ商会で助けれた命も多いと知った。
だから僕に出来る事を家族と共にやっていきたい。
僕はそう決心したのだから。
「そうか、クロウくんはますますかっこよくなってしまったね」
それを聞いたナターシャお姉ちゃんがからかってきた。
「ぼ……僕なんか全然だよ! でも力はあると思うから、皆と一緒にいたいから頑張る」
ナターシャお姉ちゃんは「ふふっ」と笑って、更に僕に近づいた。
ちょっと!? ナターシャお姉ちゃん!? 近いというか、最早くっついてませんか!?
「ねえ、クロウくん」
「うううう、うん」
うわあああ、自分の心臓の音が聞こえるよ!!
「もしクロウくんさえ良ければだけどさ……」
ナターシャお姉ちゃんの柔らかい感触と良い匂いと――――。
「人助けをしない?」
「ん? 人助け?」
「そうなの、今私が頂いている給金も多すぎて……今日物価低下と言っていたけど、物価が大きく関わるのって、普通の家庭だけだと思うの」
「普通の家庭?」
「うん、例えば、孤児とかそもそも物価に限らず、大変なんだよ」
確かに……孤児って生きるだけでも大変よね。
「中にはね、ちゃんと孤児院に入れた人もいるけど、そうでない子もいるの」
「え!? 孤児院に入れない子供もいるの!?」
「ええ、例えば孤児院がない町とか既にいっぱいいっぱいの孤児院とか……それに孤児だけでなくて、親がいても面倒を見てない人もいるから」
親が……全ての親が優しいとは限らないから……。
「だから、そういう人に物で助ける事は出来ないかな? と思ってるの、例えば、うちの島の料理って凄く美味いでしょう? その食べ物の差し入れとか、服の差し入れなんかもいいし、アカバネ商会で簡単な仕事の斡旋とかもいいわね」
そう語っているナターシャお姉ちゃんが眩しかった。
やっぱり、頑張っている人はキラキラして素敵だ。
「ナターシャお姉ちゃん! 僕も全力で手伝うから手伝わせて欲しい!」
僕はナターシャお姉ちゃんの両手を握り、笑顔でそう答えた。
あれ? ナターシャお姉ちゃんの顔が赤い。
熱でもあるのかな? 取り敢えず『リフレッシュ・ヒーリング』でも掛けておこう。
◇
◆ナターシャ・ミリオン◆
はわああああああ!
反則だわ……。
こんなに可愛いなんて……。
しかも……最近では少し凛々しい雰囲気になり、可愛さの中にかっこよさまであるなんて……。
少し、色仕掛けをしてみたけど、返り討ちにあってしまったわ……。
彼の手……はわあああ。
まだこの手に彼の手の温もりが消えないわ。
今日は寝れそうにない……。
隣の部屋には彼が寝ているのよね。
一緒に寝ましょうと言ったら、拒否されたけど……、多分私の方が寝れなかったかも知れないわね。
最近、彼とはあまり会えないのが寂しかったけど、ちゃんと私の事も見てくれていると思うと自然と微笑みが零れてしまうわ。
明日は
ふふっ。
明日も彼と……会え……しあわ…………。
クロウティアに握られた手を幸せそうに抱き締めて、眠ったナターシャだった。
彼女はきっと幸せな夢を見るに違いない。
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