161.経済会議(後)

 僕は息を飲み込んだ。


「まず物価低下が必ずしも悪い事ではない事だけ話しておきましょう」


 そしてダグラスさんが一枚の紙を渡してくれた。


 商会設立から六年間の収入のデータだった。


 勿論、一年目より六年目の収入の方が高いし、現在七年目も恐らく大きく増えるだろうと予想出来る。



「まず、大きな原因は、アカバネ商会での買い物だけで完結してしまう事にあります」


「うちだけで完結?」


「はい、折角なのでこれから事業化する服について話しましょう。まず普通の服がいたとします。そして本来なら服は消耗品として定期的に買われます。

 ですが、アカバネ商会は古着・・を買っては、それを修復させて売っていますね?」


 確か、ソフィアが古着と布を食べて新しい服に直してくれるので、それを売っていたはずだ。


「そこで問題なのが売値です。オーナーは覚えていらっしゃるか分かりませんが……『出来る限り安く提供するように』と仰ったのを覚えていますか?」


「はい、勿論覚えています。買取や魔道具系列の売り物で多くの利益が出ていたので、雑貨は出来る限り安く提供した方が良いと思っていますから」


「はい、そしてその指示通り、この新しくなった古着・・を格安で売りました。そして……この服が売れないはずがないのです。出せば即完売です」


 うん、その報告も聞いていた。


「ではそれで一体誰が困るのか……それは他の服屋です。他の服屋の服は、今まで売れていた量が売れなくなりました。そして、最初にしたのはその利益を取り返そうと高く売りまして、うちの値段とどんどん差が広がってしまいまして……結果、一切売れなくなりました」


 ひぃ!? そんな事があったのか……。


「最初はそれでも売れると思っていたのですが、買い手は「アカバネ商会で定期的に売っているから、それまで我慢しよう」と一切買わなくなったそうです。それで一番困るのは……現状の服屋でございます」


 確かに……全然売れなくなってしまったからね……。


「そして彼らは泣く泣く値段を崩し、どんどん安くする事で何とか売れるようになりました。これが物価低下の始まりです。お店側が値段を下げないと物が売れない……しかも買い手は常に定期的に売られているアカバネ商会があるので現状の服屋を選び放題なんです」


 ううっ……なんかうちって……商会界の敵みたいに……なってないよね?


「あの後、そういった服屋がどうなったか……知りたいですか?」


 僕が大きく唾を飲み込んだ


「多くの服屋が、一斉に全ての服や布をうちに全部売ってきたんです」


「えええええ!? 全然想像の斜めの行動を!?」


「ふふっ、彼らはうちに売る事で、うちが作業難になってしまい、服業界から撤退させるつもりだったようです……が、我々にはソフィア殿がいるので、全く効きませんでした」


 あ……そっか……ソフィアありがとう、後でもっとナデナデしてあげなきゃ。


「それが数か月前の事でした。そして、ナターシャ嬢の案で今はその服屋全てで『アカコレ』の服を作って貰っております」


「ふう、それは本当に良かったです。ダグラスさんありがとう」


「いいえ、これも我が商会のための事です。ですがこれで終わりではありません。今服業界だけ説明しましたが……実はその他にも服業界化した業界が多くいます」


 そうか、うちって一応何でも買って売るもんね。


「それでオーナーに二つの案がございます。勿論その他の案があれば、それでも良いかも知れませんが……まずはこの先の商会の方向性・・・を決めて頂きたいのです」


 この場の全員が息をのんだ。



「まず一つ目は――、このまま全ての商会を敵視して、この状態のまま貫く方です」


 このままだと全ての商会が敵になりかねないよね……。


「そして二つ目は――、今回服業界のように他の店と共闘・・する方です」


「ん? 共闘ですか? もう少し詳しく教えてください」


 それを聞いたダグラスさんがニヤリと笑った。


 僕が食いつくのも想定済みなのだろう……。


 そして、ダグラスさんから素早く一枚の紙を渡された。




 ダグラスさんの説明によると、


 ①アカバネ商会と提携形体になって貰い、『プラチナエンジェル印』と似た状態になって貰う


 ②全ての店はアカバネ商会からのみ仕入れをする


 ③全ての商品の値段と売り量は、アカバネ商会の指示に従って貰う。が、アカバネ商会は各店が損する値段と量には絶対にしない事


 ④全ての店舗で差を付けず、売上による評価もなしで平等に扱う


 ⑤アカバネ商会の指示の量で、売れ残った分は全てアカバネ商会で買い取る


 ⑥但し、商売の努力が見えない店舗に関しては、契約を破棄する


 以上だった。



「凄い! ダグラスさん、僕は確かに他人がどうなろうが知らないと思っています。ですが、お父さんやお母さんは領民のために一生懸命ですから、僕も従業員達だけでなく助けられる所があるならば……助けたいと思えるようになりました。だからこの件、二つ目の共闘・・する方でお願い出来ますか?」


 それを聞いた皆さんは全員嬉しそうに笑ってくれた。


 後からナターシャお姉ちゃんに聞いたのだけれど、どうやら僕が他人を拒絶する方を選ぶかも知れないから、その時はナターシャお姉ちゃんが説得係になる予定だったそうだ。


 えええええ!? 僕ってそんな血も涙もないように……見え…………。


 あ……色々そう思えるような事して来たかも知れない……。






 この会議でアカバネ商会は、長年他商店との戦いの姿勢から一変して、アカバネ商会から歩み寄る事になった。


 何故アカバネ商会が急に方針転換をしたのか定かではないが、これを機にアカバネ商会は業界から『悪の商会』から『救済の商会』と呼ばれるようになるのであった。

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