118.アリサの憂鬱

 ◆アリサ◆


 うわ……なにこのイケメン。


 私の前世の兄。


 黒斗お兄ちゃん。


 今はクロウティア・エクシア様。


 大貴族の三男で、血統は最高で、容姿なんてアグウスさんとフローラさんの子供なだけあって滅茶苦茶美男子……美女子?


 しかも、実は物凄く強くて、大陸最上位商会のオーナー様で王国一番の金持ちとの噂が……。


 なのに――。


 なのになんでこの兄、こんなに優しいの!?


 いや、私のお兄ちゃんだから優しくて当たり前ですけど!


 本当に味方に対しては優しくて、その優しさも相まってモテモテなんだから!




「君が僕を守ってくれるように、僕も君を守るから、心配しなくても大丈夫だよ」




 ってなによそれ!!


 そんな言葉を言われて惚れない女の子はいないでしょう……!


 ほら見て! ディアナちゃん凄く喜んでる!


 普段クールビューティーなのに顔真っ赤で、尻尾までブンブン揺らしてるよ!


 隣で一緒に待っていた私……なんか惨めに思えるじゃない!


 私もあんな言葉言ってくれる王子様いないかしら……。


 違う、王子様はいらない……お兄ちゃんが良い……。



 何となく寂しそうな顔をしていたら、くろにぃが頭を撫でてくれた。


 はぁ~、くろにぃの隣にいたら、他の男なんて全く目に入らないから無理ね……。


 これならあの大天使ナターシャさんが惚れるのも納得するかな。


 今では世界を代表する美女だし、アカバネ商会で実施した『美女ランキング』ではぶっちぎり一位だったし。


 そんなモテモテなのに、誰一人からも好意だと思ってない所がまた腹立たしい!


 どれだけ鈍感な兄なのよ!




 それから……、クラスメイトの女子達に物凄く睨まれてる……。


 うん、分かっているよ? 大貴族のくろにぃに簡単に近づくな的なあれでしょう?


 でも私の兄だし……、はぁ、でも現世だと只の同級生なんだよね。


 どうしてあの神様はこの世界でもくろにぃと兄妹にしてくれなかったのかしら……。




 ◇




 あれから魔法科Aクラスに戻ると共に、Aクラスの女子達が迫って来た。


 ああ……あれだ、前世んときと一緒だわ。


 ここから罵倒や誹謗中傷が始まるのだろうね……。


 でも折角、くろにぃと会えたんだから、それだけは譲れない。



 Aクラスのリーダー的な存在のハイエラ・プノルス子爵嬢様だった。


「ご、ごきげんよう、アリサさん」


「ハイエラ様、ごきげんよう」


「えっと、お聞きしたい事があるのだけれど、よろしくて?」


「ええ、どうぞ」


 うう……始まる……学校のこういう所が凄く嫌なんだよね。


「え、えっと、アリサさんは、その……、クロウティア様とはお親しいのかしら?」


「くろに……ごほん、クロウティア様とは親しくさせて頂いてます」


 周りの取り巻き女子達から「おぉ~」って歓声が上がった。


 あれ? 何で歓声が……?


「そ、その……ま、毎日一緒に……ご登校なさっているとか?」


「あ、はい。クロウティア様の所でお世話になっておりますので……」


 また周りから「おお~」って歓声が上がった。


「ああああ、あの! アリサさん!」


「へ? は、はい?」


「もももも、もし、宜しければ、おととと、友達になってくださいませんか」


 周りの女子達も大きく頷いていた。


 えぇぇぇぇ!? どうしたの!? 皆私を罵倒しに来たんじゃないの!?


「へ? ……????」


 もう混乱して、何が起こっているか理解できないよ。


「実は私達……、クロウティア様の愛好家ですの!」


 皆さんもうんうんと頷いている。


 え? 愛好家って何?


 ……??


 …………、ああ、あれか、ファン的な。


「それで、もしよろしければ……その、クロウティア様の事……」


 ああ……あわよくば、くろにぃと……って感じかしらね。


「武勇伝をお聞きしたいですの!」


 ……


 …………


 えええええ!? ちょっと!? そこは「紹介してください!」とか「一緒に挨拶させてください」とか、そう言う事押し付けて来るんじゃないの!?


 皆さんの目がキラキラしていた。


 もう――、皆さん嘘一つない笑顔でうきうきしているじゃない!


 これだと、断れないじゃない。


 ……はぁ、どうしてこうなった。




 ◇




「だから、そう言う事だから……ね? お願いっ! この通り! 少しだけでいいから時間を貸してください!」


 こうして私は――今、ディアナちゃんに土下座をしている。


 何でかって?


 折角、出来た友人達に実は最近知り合ったので、武勇伝を全然知らないと話したら、物凄く落ち込んで見てられなかったの。


 でも、くろにぃの武勇伝を語り尽くせる存在を知っていると話したら、皆さん歓喜していた。


 だから、くろにぃの武勇伝を一番良く知っていそうな、ディアナちゃんに頼む事にした。


「この世界でくろにぃの武勇伝を語らせたら、右に出る者はディアナちゃんしかいないの!」


 あ、ディアナちゃんの尻尾が揺れ始めた。


 もう少しのダメ押しかな。


「くろにぃの偉大さを! 学園中に知らしめるチャンスなの!」


 ディアナちゃんの尻尾が真っ直ぐ立ち上がった。


 ふっ、これは陥落したな。


「え、えぇ、分かりました、私如きにクロウ様を語る何て申し訳ありませんが、クロウ様の偉大さを伝えられるならやり遂げて見せましょう!」


 うん、ディアナちゃん、いつもクールでカッコいいのに、くろにぃの事になるとちょっと残念になるよね。


 でもとても楽しみだ。


 だって――。




 私もくろにぃの武勇伝、凄く聞きたいんだもん。

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