117.初めての決闘

 合同練習が途中で中止となった。


 原因は僕にあった。


 僕が相手の三人を倒したのが、良くなかったみたい。


 何でも魔法防具を貫いたとか、心臓ごと麻痺させたとか……。


 えっと……、決してそんなつもりでやった訳では……。


 ダンジョンでモンスターにあの『スタン』もどき魔法を使った時は死ななかったんだけどな……。



 先生もどっか行ってしまって、やる事も無くなった僕達は自分達の席へと戻った。


 いや戻ろうとした。


 でも戻れなかった。


 何でかって、目の前にあのエレンくんが立ちふさがって来たからだ。



「おい貴様! 何かズルしたんだろう!」


 何でこの子って僕ばかりに……。


「ちょっと魔法使っただけ……だけど?」


「は? 貴様みたいな役立たずエクシア家のが学園の魔法防具を貫くとか、イカサマでもしたんだろう! あん!?」


 えぇぇ……本当にただ魔法を使っただけなのに……。


「そんな貴様の実力を俺様が見てやる、決闘だ!」


「え!? 決闘!? 何でそうなるの!」


「ふん! 貴様のイカサマのせいで合同練習が中断されたのだ。生徒達に迷惑掛けたんだろう」


「まあ……たしかにそうだけど……」


 うう……反論できない……。



 そうして僕はエレンくんに連れられ、合同練習場のグラウンドに連れて行かれた。


「おい、役立たず! 俺様が勝ったら……、ディアナさ……ごほん、ディアナを俺に寄越せ」


「え!? 何でそこでディアナで出てくるんだよ?」


 心配したディアナがこちらに向かって来ようとしたので先に止めておいた。


 しかし、この子は何故、いきなりディアナの事を口にしたのだろう。


「ふん、貴様みたいな役立たずに勿体ないだろう、俺様が使ってやるから寄越せ!」


 くっ……前回は色々あって気が気でなかったから、何も出来なかったけど、ディアナの主人は僕だ。


 僕がここで頑張らないと主人として顔向け出来ない。


「……、分かった。その申し出を受けたよ。でも一つ聞いていい?」


「あん? 何だ? 冥土の土産の代わりに答えてやる」


「えっと……さっきからその役立たず・・・・ってどういう事なの?」


 そう、以前からこの子、僕の事をずっと役立たずって言っているから気になっていた。


「はん、そんな事も知らなかったのか。いいだろう。教えてやる」


 エレンくんはドヤ顔で語った。




「貴様は大貴族として生まれた癖に、病気を理由に貴族として・・・の責務もまっとう出来ていない、それはエクシア家の役に立たない奴と言う事だ。つまり貴様はエクシア家の役立たずだ!」




 ああ、そうか……。


 入学してから、周りの人達からも「お会い出来光栄です」と良く言われたっけ。


 僕はエクシア家に生まれたけど……ずっと『赤羽黒斗アカバネ クロト』でいたんだ。


 だからエクシア家の『責務』には目もくれなかった。


 僕は一度たりとも『貴族会』や『お茶会』にも出た事がない。


 両親は僕を自由にするために、病気だと嘘をついてくれたけど、それにずっと甘えていたんだ。



 あの日、お姉ちゃんと両親に救われたあの日……僕は生まれ変わったはずなのに。


 どうして、その事に今まで気づかなかったのだろう。



「ではこれで貴様を思う存分ぶちのめしてやるよ! ディアナは俺様が貰った!!」


 合図もなく、エレンくんは僕に木剣を仕掛けてきた。


【クロウ様!!!】


 ディアナの遠話が聞こえた。


 ディアナ、うん、大丈夫だから。


 僕はもう迷わないよ。


 だって、この世界に来てもちゃんと妹と会えたし、前世のお母さんとも会えたんだ。


 これからはエクシア家の家族にもちゃんと目を向けなくちゃね。


 ディアナもこんな頼りない僕にいつも傍にいてくれてありがとう。




 エレンくんの木剣が迷わず僕の頭に降りかかった。


 が、一瞬で消えた僕にその木剣が当たる事はなかった。


「は!? き……消え……た?」


 エレンくんは驚いている。


 きっと当たったと確信していたのだろう。


「消えてないよ? 君の後ろだよ、エレンくん」


「ッ!?」


 エレンくんが僕の声に反応して直ぐ僕の方を向いた。


 ちゃんと木剣を構えている所は偉い。


 この子、言葉使いは荒いけど、しっかり鍛えている。


 驚いた顔から直ぐに持ち直し、また木剣を嗾けて来た。


「どんな手品か知らんが、もう油断しねぇ!」


 彼の鋭い剣捌きが僕を襲った。


 でも、全て躱した。


 一合、二合――――。


「くっ!? 何故当たらない!?」


 少しずつ焦ってきたエレンくんだった。


「そろそろ、僕の番でいいかな?」


「は?」


 僕は持っていた木剣で彼を襲った。


 僕の剣捌きは大した事がない、剣系スキルは一つもないから。


 でもステータスだけならお姉ちゃんよりも上だ。


 僕の一撃一撃にエレンくんの顔が崩れていった。


「確かに、僕はエクシア家の役立たずかも知れない。でもね、それでも僕はお姉ちゃんに助けて貰ったし、今まで役立たずでも――これから役に立ちたいから」


「はぁはぁ……あ? ……はぁはぁ」


「それと、ディアナは僕の護衛だよ。彼女を渡すとか、彼女から辞めるなら、仕方ないけど、僕から辞めさせるのは今まで彼女の努力を蔑ろにするモノだからね」


「はぁはぁ……くっ、はぁはぁ」


 エレンくんはそろそろ限界みたいだ。


「エレンくん、知ってる? ディアナって僕の護衛になるためにね」


 最後に僕の一撃がエレンくんの木剣ごと吹っ飛ばした。


「手が豆だらけになるまで、毎日稽古頑張ったんだよ。僕は彼女を見捨てたりなんかしないよ? 絶対に」


 そう言い残し、僕は彼から離れた。


 エレンくんはもう起きる気力すらないだろう。


 練習場の席へ戻ろうとすると、ディアナとアリサが待ってくれていた。


「クロウ様、お怪我は……、いえ、クロウ様に限って、傷一つ付けられないのは分かっておりますが――」


 ディアナ、そんなに僕の心配してくれてたのか。


 そんな彼女の頭を撫でてあげた。




「君が僕を守ってくれるように、僕も君を守るから、心配しなくても大丈夫だよ」

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