116.無自覚

 ◆セレナディア・エクシア◆


 今日は弟の合同練習の日だ。


 あの弟が魔法科Cクラスだと聞いた時は耳を疑った。


 なので、弟の合同練習の様子を見ている。




 弟の出番になった。


 ―――、土壁を作った。


 それを見た他の生徒も、当事者達も皆、狼狽えている。


 弟が何か指示を出すと漸く動き出した。



 ―――、相手が攻めて来たのに、長槍を持った女の子が土壁からけん制攻撃して相手を翻弄している。


 もう一人の男の子が一緒にけん制しつつ、相手三人を完全に翻弄している。


 リーチを利用した良い作戦に見える。



 ―――、その隙に弟ともう一人の子で相手の魔法使いの子へ走った。


 あ……クロウ……そんな一瞬で相手側に走ったら誰も追いつけないよ?


 あ……ほら、相手も驚いているし、味方の子も遥か遠くに……。


 慌てて魔法を唱えている彼に足払いしてる……。


 うん、勝負あったかな?



 ―――、魔法使いを止めると今度は相手前衛三人へ走ったね。


 ああ……クロウ……そんなに早く走ると味方の子がまた……置いてけぼりになっているじゃない。



 さて……これからどうするのかな?


 ん……? あれ魔法かな? 一瞬で相手三人が倒れた。



 へ? 担任先生があんなに急いで駆けつけて……凄く驚いている。


 相手を一瞬で倒したあの魔法って……遠くから見た感じ、雷属性魔法かしら?



 ―――、あ、こっそり回復魔法を掛けてあげてる。


 うちの弟って……手加減苦手そうだもんね。






 あれから暫くして、弟の担任のピグリマ先生と校長先生が訪れて来た。


「セレナディア様、忙しい中、ありがとうございます」


 私が最上級職能のため、学生であっても既に校長先生より偉いとの事だったので、こういう扱いを受けている。


「校長先生、わざわざいらっしゃらなくとも、呼んでくだされば、私の方から伺いましたのに――」


「いえいえ、今日はお願いもあっての事ですから」


「お願い――ですか?」


 校長先生とピグリマ先生は真剣な顔で話して来た。


「実は……セレナディア様の弟君でありますクロウティア様についてですが……、どうやら『雷属性魔法』を使っていたようです」


「私も中級魔法使いで『雷属性魔法』が使えますので、間違いはないと……」


 う~ん、弟が『賢者』である事を、私から言うのは出来ないからどうしようかしら……。


「それで、クロウティア様には『ロード』クラスに編入をお願いしたいと思っております」


「え? 『雷属性魔法』を使えただけで『ロード』クラスに編入ですか?」


 幾ら『雷属性魔法』を使えたとしても、中級魔法使いでは『ロード』クラスに入るのは難しいと思うけど……。


「私はあの訓練を見ておりませんが、こちらのピグリマ先生から全て聞いております……目にも止まらぬ速さで動いていたと……」


「はい……本当に彼は魔法使いなのか疑う程でした、どちらかと言えば戦士科の方が良かったのではと思えるくらいです」


 クロウ……、補助魔法掛けているから、戦士科の子達より戦士能力高そうだものね。


「申し訳ありませんが、弟の件に関して、私は何も言えません、全ては弟が決める事ですので」


「そうですか……ではセレナディア様はクロウティア様が『ロード』クラスに編入・・しても問題ないと言う事で宜しいんですね?」


 恐らく、現在唯一『ロード』クラスに入っている私が納得するか、しないかが大事なのでしょう。


「ええ、私としては全く問題ありません」


「ありがとうございます、セレナディア様」


「いいえ、こちらこそ、弟を宜しくお願いします」


 校長先生達が去って行った。


 しかし、クロウって目立ちたくないのか、目立ちたいのかどっちなのだろう?




 ◇




 ◆アリサ◆


 くろにぃが暴れた。


 うん、暴れた。


 私も特殊職能だからステータスやスキル等、恐らく人より数倍……ううん、数十倍高いと思う。


 でもくろにぃ……それは最早、反則級の強さだよ……



 先日くろにぃにレベルを尋ねてたら「レベル? まだ五十しかないよ」と言われた。


 え? まだ・・五十ってどういう事なの?


 お母さん曰く、レベル五十って世界でも上位者レベルで、まだ成人もしていない子供がレベル五十って、聞いた事もないって言うの。



 この世界でレベルを上げる方法は三つ。


 一つ、自分のレベルよりレベルが高いモンスターを倒す事。


 二つ、スキルを沢山使う事だけど、スキルを使うにもMPを使ったり、ステータスに表記はないけど、精神力を使うから連発も出来ないし、上がる速度も遅いから狙って上げられる事も出来ない。


 三つ、魔石を食べる事。でもこの方法って物凄く特殊で、これはまだ・・知られていないはず……、私のスキル『瘴気浄化』と言うスキルを覚えた時に知った事だから……。


 しかも魔石でレベル経験値を上げた場合、体内に瘴気が溜まり、魔人化していくから一目で分かるんだよね、私のスキル『聖女の聖眼』は意識してなくても、瘴気を見分けられるから直ぐに分かるはず。


 くろにぃってどうやってレベルを上げたんだろうか……?




 あ、それはそうと合同練習でくろにぃ、本気出したんだったね。


 戦士科Aクラスのエレンくんだったかな? あの子から何故か凄く恨まれているからイライラしていたのかしら。


 ここにいる先生含め、誰よりも動きが速かった。


 くろにぃ魔法使わなくても素であんなに速く動けるのね~、素早さのステータスが凄く高そう。



 あ~、訓練終わった……。


 相手側の前衛三人大丈夫かな?


 パチって光って一瞬で全員倒れたけど……あれが瞬殺ってやつだね、うんうん。



 あ~、またコッソリ回復魔法使ってあげてる。


 私でも無理なのに、くろにぃって回復魔法も『無詠唱』で使えるだなんて凄いね。

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