115.合同練習開始

 遂に僕達の番になった。


 向こうのパーティーと握手を交わして、それぞれの陣地へ戻って行った。


 パーティーは基本的に魔法科のレベルを基準に組まれているようで、相手側のパーティーの魔法使いはクラスメイトだった。


 確か火属性魔法の使い手だったかな?


 前衛は『剣士』『剣士』『斧士』だった。



 教官の合図で訓練が始まった。



 相手の前衛三人がこちらに飛び出してきた。


 僕はすかさず、土属性魔法で1m程の壁を沢山作った。


 何だか周りがわざついている。


 僕のパーティーの皆も何が起きているか分からず、オロオロしていた。


「ピナさん! あの土壁でけん制! ポリスくんはその警護! グリオくんは僕と一緒に向こうの魔法使いを攻めるよ!」


 そう話すと我に返った仲間達は、それぞれ居場所に付いた。


 土壁に辿り着いた相手の前衛をピナさんが長槍でけん制攻撃始めた。


 流石に相手側も土壁を越えれず、回ろうとするがピナさんの長槍が思っていた以上に厄介で足をすくわれていた。



「ピナさんそんな感じ! ポリスくん後は任せたよ! グリオくん行こう!」


「うん!」×3


 飛び出したグリオくんと僕……。


 ってあれ? グリオくん……もうちょっと早く走ろう?


 僕が相手側の魔法使いに近づいた時、彼は慌てて魔法を使おうとするが、僕が足を掛けて転ばせた。


 いやいや……流石に相手の目の前で魔法使うのはダメでしょう!?



 それから相手の魔法使いを倒して、今度は足止めされている前衛に走った。


 相手前衛の後ろにある土壁の裏に隠れた。


「グリオくん、奇襲するよ」


 僕は小さくグリオくんにそう話した。


 しかし返事が返ってこない。


 ん?


 あれ?


 グリオくん、何でまだそこ走っているの?


 もうちょっと早く来てよ。


 まあ、いいか。


 それから僕は雷属性魔法を弱くして相手前衛三名に放った。



「うぎゃあああああ」×3



 相手前衛三人が倒れた。


 あれ? 魔法防具付けてるよね!?


 そして監督だったピグリマ先生が、物凄い勢いで走って来た。


「き……きみたち!! だいじょうぶですか!!!」


 三人から返事がない。


「なっ……こここここれは!?」


「先生? ちょっとシビレさせただけですよ?」

 

 雷属性魔法を弱くする事で使える『スタン』と言う魔法に近い魔法だった。


 だって僕はちゃんとした魔法は使えないからね……。


「クロウティアくん!? これは君がしたのですか?」


「え? はい……僕の『魔法』ですけど……?」


「物凄く危険な魔法ですよこれ? このままだと心臓が止まったままで死んでしまうかも知れません」


 なんだと!!!!


 あれ? 感電させると痺れるだけじゃないの?


 良く見たら確かに彼らは息一つしていない。


 あ……これやり過ぎたかな?


 これは急いで治してあげなくちゃ。


 ピグリマ先生が医務室に向かって走っている隙に、こっそり『ハイヒール』を掛けた。



 数秒して、相手側前衛三人が起き上がった。


「あ……れ? 僕どうしたんだ?」


「ん? 確か……訓練中に……」


「何か、すげぇ痛くて気絶した気がする……」


 あ……ごめんね三人とも……まさかあの魔法がそんなに高威力だと思わなかったから……。


 それから僕が魔法で三人を眠らせたと嘘をついた。


 三人共納得してくれたのでそのまま勝ちになったけど、ピグリマ先生も医務室に向かってしまったから、そのままぼーっと待つ事になった。



「く……クロウくん……はぁはぁ……な……なんで……そんな……はぁはぁ、早く走れ……はぁはぁ」


 あれ? グリオくんがやっと着いた。


 それから集まったピナさんとポリスくんから、


「クロウくん……魔法使いなのに滅茶苦茶早いのね?」


「何か私、動きすら目で追えなかったよ……」


 ……?


「ん? お姉ちゃんよりは早くないと思うけど、これ普通じゃないの?」


「セレナディア様は剣聖だよ!! そりゃ速いに決まってるでしょう!!」


「グリオくんでも、普通より速いんだからね!?」


「はぁはぁ……全然……見えなか……はぁはぁ」


 普通にやるのって難しいね……。




 それを見ていた生徒達も、どうやら僕の動きが全然見えなかったらしい。


 相手の魔法科のクラスメイトからも、気づいたら目の前にいて吃驚したと話していた。



 それからピグリマ先生が回復魔法が使える医務先生を呼んで来たけど、三人が何ともなかったから、医務先生に物凄く怒られていた。


 先生……ごめんなさい。




 ◇




 ◆学園アルテミスの校長室◆


「ピグリマ先生……彼が『雷属性魔法』を使ったのは本当ですか?」


「はい……彼は間違いなく『シビレさせただけ』と話していましたが、あれは間違いなく『雷属性魔法』でも最上級魔法……『スタン』で間違いありません」


「そうですか……『雷属性魔法』使いの先生からそう言うからに本当でしょう」


「はい……」


「しかし、何故試験の時にそれが分からなかったのですかね」


「ええ……担当していた試験官からは、普通の火の玉を使ったと仰っていました」


「なるほど……もしかして隠していた……? しかし隠しているなら何故訓練中使ったのか……」


「それが僕も謎です……『スタン』なんて……Aランクのモンスターすらせる魔法を……」


「これは一大事です、彼の姉上は王国唯一の『剣聖』……もしも彼女の機嫌を損ねたら……」


「分かっております校長、これから彼を説得して……『ロード』クラスに何としても転入させましょう」



 クロウティアの知らない所で、事が大きく動くのであった。

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