112.昔話
次の日の夜。
今度は皆で旅館にやってきた。
「凄い!! 旅館だ!!!」
リサも興奮していた。
それもそうよね、僕達……旅館初めてよね。
うん、初めて来た時は僕も同じく凄い興奮したからね。
今日は両親も来てくれて八人で泊る事となった。
男子は僕とお父さんだけ、女子はお母さん、セレナお姉ちゃん、ナターシャお姉ちゃん、リサ、セシリアさん、ディアナだ。
◇
◆男子湯◆
「ふあ~やっぱり旅館の湯はいい~」
「ふふっ、クロウ、何かじぃじ臭いぞ?」
「え~、でもここの湯加減が絶妙に良くて~」
「確かに、ここの湯って身体に沁みるよな~」
こんなに広い湯に、たった二人で入るのも、中々ない経験だろうね。
因みに、この旅館に泊るには、僕の許可がないと誰であっても泊まれない事になっている。
僕としては島に来る許可を出した人なら誰でも利用して良いんだけど、アカバネ島的にはそうはいかないらしい。
だから毎月女子会の際も必ず、僕の許可を取っている。
「そう言えば、お父さん?」
「ん~? どうしたんだい?」
「何だか……お父さんと二人っきりで風呂入るの……初めてだね?」
「う~ん、たしかにそうだな? そう言われて見ればそうだな」
まあ、僕としては……前世の事もあって、お父さんと二人きりになるにも、勇気が必要だったから……。
でもアグウスお父さんは今でも大好きだ。
「クロウは気づけば、直ぐに大人びていたからな」
「えっ!? そうなんですか?」
「そうだとも、特に大きかったのは五歳からだね、いつも魔法訓練だとかで訓練所に籠っていると思えば……街に出てたりしているし」
「ううっ……あれはつい出来心で……」
本当はリサを探す手だてを探そうとしたんだけどね……。
お父さんが優しく笑った。
それから露天風呂に行こうと言われたので、露天風呂へと向かった。
涼しい夜風と暖かい露天風呂がまた身体に沁みるようでとても良かった。
「クロウが外に出たのは……あの
あの娘とは……リサの事だろうね。
「はい、僕……普通の
「ああ、それは知っているさ。覚えていないと思うけど、二歳までのクロウは凄かったんだぞ?」
「えっ? 二歳?」
お父さんの表情が少し強張った。
「ああ、クロウはね、生まれてからずっと声もあげなかったんだよ? 生まれたその瞬間ですらね」
「へ、へぇー」
知ってます! 滅茶苦茶知っていますとも……。
本当にその節は苦労を掛けてしまい、すいませんでした……。
「君が生まれる前にね、世界で一番有名な占い師様がいらしたんだよ」
「占い師?」
「ああ、ディグニティ様と言う方なんだけど、占いが当たりすぎて、神託と言われるくらい凄い方なんだよ」
「へぇー、そんな凄い方がいらっしゃるんですね?」
「うむ、そのディグニティ様からね、クロウは生まれる時、死産になると言われたんだよ」
「えええ!?」
「でもね、名前に『クロウ』の字を入れれば、死産にならないと言われてね」
「……、それで
「ああ、丁度、セレナにはセレナディアと言う名前と付けていたから、クロウリットとクロウディアだと何だか語呂が良く無くてねー、フローラと悩んだ挙句、クロウティアと命名したんだ」
遠い目をしたお父さん、懐かしんでいるようだ。
「なあ、クロウ」
「はい?」
「無事に生まれてくれて、そしてうちに残ってくれて、ありがとうな」
「それ――僕が言う事ですよ、お父さん、お母さんはいないけど………産んでくれてありがとうございます、そしてこんな僕をずっと愛してくれてありがとう」
今日、僕は初めてお父さんと本音で話した気がした。
気づけば僕も十二歳となり、お父さんとこういう話しが出来るようになった。
つくづく実感するのは――、僕は優しい家族に囲まれて暮らしているなと言う事だ。
◇
◆女子湯◆
※何度も言いますが、クロウティアの霧属性魔法がかかっており、女子湯は外からは見えません。絶対に!
そこにはこの世の楽園が広がっていた。
グランセイル王国の三大美女、ナターシャ、フローラ、セレナディア。
それに全く引けを取らないセシリア、アリサ、ディアナ。
「ねえねえ、アリサちゃん?」
「はい? ナターシャさん」
「クロウって前世ではどんな子だったの?」
「あー! 私も聞きたい!」×4
全員食い入るようにアリサに向き合った。
「えっ……と、くろにぃは……まず優しいのは勿論だったんですけど……、そうですね、何でも不思議がっていた兄でしたね」
「何でも不思議がっていた?」
「ええ、事ある事にどんな理由があるんだろうと、ずっと考えたり悩んでいましたね、特に前世の父親の事が一番悩んでいました」
そう話すとセシリアの表情がどんと沈んだ。
「何とか良い方向に持っていけないかなと頑張ったんですけど、実はそれが火に油を注ぐ結果になってましたね」
「そっか……前世でとても苦労していたのよね?」
「でも、苦労ばかりでしたけど、悪い事ばかりではなかったんですよ」
「へぇ?」
「実はくろにぃって物凄く頭が良くてですね、例えばちょっと学んだ『将棋』って競技があるんですけど、教わった瞬間から皆バッタバッタと倒してしまったんです」
「あはは~それクロウっぽくて好き~」
セレナが笑顔になった。
「ええ、あの日優勝賞品が欲しくて、参加して皆をボッコボコにしたから、参加者全員泣かせちゃいまして――」
「あはは~凄くクロウらしい!」
聞いていた皆も大きく頷きながら笑った。
「それからその大会を開催した人から、二度と来るなとまで言われましたよ」
「え~、そこはうちに来いとかじゃないんだね?」
「はい、何でも当時無敗の天才少年がいたんですけど、決勝で当たって完膚なきにまでされたらしくて将棋辞めるって泣き出したそうで……」
それを聞いた全員笑いこけた。
余談だが、その時負けた少年は、それから何とか立ち直り、自分の才能に自惚れる事無く、精進しプロになったという。
彼はタイトル保持者になった時、今でもこれからも子供の時に負けたあの一戦程強いと思える相手には会っていないという話で物議をかもした。
相手を馬鹿にしていると勘違いされたが、彼は生涯殆ど負ける事なく、複数のタイトルを保持し歴史に大きくその名を刻んだ。
もし、クロウが前世でそのまま将棋を目指していたら――――。
それはまた別の話だ。
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