111.アカコレの準備

 急なナターシャお姉ちゃんのファッションショーが終わり、彼女達が戻ってきた。


「えへへ、クロウくん! どうだった?」


 ナターシャお姉ちゃんがいたずらっぽく笑いながら話してきた。


「凄かった! 皆凄く綺麗で別世界にいる気分だったよ!」


「そうか! それなら大成功だね!」


「ナターシャお姉ちゃん! ありがとう」


「いいえ、実はこれ、私が試したかった『服の発表会』に出来ないかなと思ってたから、クロウくんのこの反応なら大丈夫そうね」


「服の発表会?」


「ええ、安い服から高級な服をこうして祭りで紹介すれば、大きな商売になると思ったの」


「ええ!? またとんでもない事を思い付いたね」


「ふふっ、アリサちゃんを見た時に更にビビット来たの」


「えっ!? わ……私? ……何だかファッションショー見たいで楽しかったけども……」


「『ふぁっしょんしょー』?」


「あー、そう言えばね、前世でこうして服を見せる発表会の事を『ファッションショー』って呼んでいたの」


「へぇー! そうなのね! 『ライブ』みたいな感じか……しかしその『ふぁっしょんしょー』だと長すぎるし、言葉にあまり馴染みがないわね……う~ん、名前何にしよう」


 皆悩み始めた。


 中々語呂の良い名前が見つからない。


 そこでセシリアさんが口を開いた。


「前世と言えば……ファッションショーの中でも一番有名なのは、パリという街で開かれていた『パリコレ』ってあったでしょう? それに因んで、『アカコレ』とかはどうかな?」


「『アカコレ』――アカバネ商会のコレクション、うん! 良いんじゃない!?」


「『アカコレ』か~、うん、凄く良い響きだね! セシリアさんありがとう!」


「いえいえ! こちらこそ、ナターシャさんのおかげでこんなに綺麗な娘が見れましたもの」


「ふふふっ……実はこれで終わりではないんですよ」


 ナターシャさんが邪悪な笑みを浮かべていた。




 次回十三回目の『アカバネ祭』では、『ライブ』と『発表会』の間に、通称『アカコレ』が開催される事が急遽決定した。


 ナターシャお姉ちゃんの思い立ったら直ぐ動くことが功を奏した形だ。


 そして、その『アカコレ』では『モデル』と呼ばれる男女が服を着て、観客の前で披露する形となっている。


 勿論披露する服は全て売り物だ。


 派手なドレス系の結婚式や貴族様のパーティー用のモノから始まり、平民用の服から高級な服、特殊なデザインの服などを売りたいそうだ。



 ナターシャお姉ちゃんの目に止まった服の作り手達が、これからしのぎを削って、より良いカッコいい服を作る事になった。


 ちなみに、服も材料さえあれば、ソフィアの『複製』で量産可能だ。


 しかし、モノが多く出回ると価値が下がるので、安価なモノから全て決まった数を作り売る事にするみたいだ。


 仮に売れ残ってもソフィアの力で、元の素材に戻す事も可能だからね。


 本当にうちのソフィアは万能だね!



 後は、『モデル』だったが……。


 これはナターシャお姉ちゃん全任で決まった。


 ナターシャお姉ちゃんのスカウトで今回の『モデル』が決まった。


 ナターシャお姉ちゃん。


 セレナお姉ちゃん。


 ディアナ。


 アリサ。


 セシリアさん。


 フローラお母さん。


 ヘレネさん。


 アグネスお姉さん。


 ミリヤお姉さん。


 サリアお姉さん。


 計十名だった。



 何と言う人選だ……。


 グランセイル王国内の美人全員引っ張り出した感じだ。


 今回初回って事もあり、かなり力を入れたみたい。


 因みに、上記の上から六名は定期契約まで交わされていた。


 定期契約と言っても口約束なんだけどね。


 下四名は仕事もあるので、確約は出来ないが、時間が合えば参加するそうだ。


 それと、今後は従業員達の中や協力店の中からもスカウトする予定だそう。


 ナターシャお姉ちゃん的にはあと数人候補がいるようだけど、今回はこの人数で出るらしい。



 アカバネ商会で買い取りされている素材は既に数年分蓄積されており、使い道に困っていた。


 今回のナターシャお姉ちゃんが服に着目してくれたおかげで、大量に消費する道が出来た。


 しかもこの服システム、何が良いって、服って消耗品だ。


 つまり定期的に売れる。


 寧ろずっと売り続けられる可能性もある。


 資材を使う大チャンスだ。



 ソフィアばかりに大きく負担を掛けてしまうなと心配していたら、


【ご主人様! 私は放置されるより、こうしてずっと頼られた方が凄く嬉しい! 私は一切疲れないし眠くもならないから! ずっと頼って欲しいの! 寧ろ頼ってください! ご主人様! お願いします!】


 と言われた……。


 ああ……うちの子……なんて偉いんだ……。


 何かご褒美が無いか――何でも良いから言ってくれと伝えたら、寝る前に数分でいいのでナデナデしてくれれば良いって言われた。


 そんなんでいいの? ずっと撫でてあげる!


 流石にそれだけではと、今度セレナお姉ちゃんとリサに相談してみよう……。




 それから男性用服の件もあり、男性の『モデル』も決まった。


 男性用服は女性用服よりも半分の数だ。


 元々、アルテナ世界では、女性より男性の方が少ないのもあって、男性用服はあまり売れないと言う。


 なので、男性用は半数でも良いって事らしい。


 男性モデルは――、


 アグウスお父さん。


 ライお兄ちゃん。


 デイお兄ちゃん。


 元デブ、ディオ。


 そして最後に僕になった。


 ええ……何で僕が……恥ずかしい……。


 しかもディオって!? あいつだよね!?


 ナターシャお姉ちゃんに聞いたら、現在は心を入れ替えて、貿易街ホルデニアの良い領主になったそうだ。


 あれ……? ディオって……悪者だったはずでは……?




 そんなこんなで、僕達の初めての『アカコレ』が始まろうとしていた。

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