第61話 制作スライム

 孤児院を後にした僕はその足でアカバネ商会のエドイルラ本店へと向かった。


 本店の店長を任されているのは、ランスさんという方だ。


 元欠損奴隷だけど、実はダグラスさんと同じ珍しい職能があり有望株だ。


 有望過ぎるが故に、嫉妬したライバルから騙され最終的に欠損奴隷にまで堕ちた。


 欠損が回復してから彼はアカバネ商会のために一生懸命に働いてくれて、才もあり本店の店長を任された男だ。



「オーナー、いらっしゃいませ」


「ランスさん、お久しぶりです~」


 少し強面だけど、根はやさしいランスさんが迎えてくれた。


「今日はお願いしたい事がありまして」


「はい。全力で当たらせて頂きます」


 えっ、まだ要件も言ってないのに……ランスさんは既にやる気に満ちた目になっている。


「えっと、『リリー草』を集めるアルバイトを孤児院から雇ってください。値段は出来高で箱一つ分にして集めて貰いたいんです」


「はい。かしこまりました。今日中に何としても契約を結んで参ります」


「あはは、でも強制ではないので向こうがいらないと言うんなら下がってくださいね」


「ははっ」


 ランスさん……その跪くの止めてくださいって何回も言ったのに…………まだ直らないですね。


 何とかお客様の前で跪かなくなかったからいいか。



 その日の夜


 ランスさんから無事、契約を取り付けたと連絡があった。


 決して無理して集める必要はないと話したそうだ。


 あのおばあちゃんシスターがいるなら大丈夫だろう。



 そういえば、『リリー草』だいぶ集まっているんだろうな。


 何となく異次元空間の『リリー草』がどれくらい集まったか覗いてみる。


 しかし、そこには――――――






 『リリー草』綺麗さっぱいなくなっていた。






 えええええ!?


 何で『リリー草』が一つもないの!?


【ご主人様!】


【あ、ソフィアちゃん! 『リリー草』が全部なくなってるの!】


【うん! だって私が全部食べたもの!】


 なん……だ……と、全部……食べた…………?


 そうか……ソフィアが食べたかったんなら仕方ないか……うん……。


【ご主人様? だってあの草で『ポーション』を作るんでしょう?】


【ん? そのつもりだったね】


【はい、これ!】


 そうやって彼女が指定してくれた異次元空間を見た。



 『ポーション』の名前のスペースが出来ており、


 そこには――――。





 一面に淡い緑色の水が広がっていた。


【折角だから全部『ポーション』に変えておいたの!】


【ええええ!? ソフィアちゃんが全部!?】


【うん!】


 そう言うソフィアは褒めて欲しそうに身体を震わせてきた。


 もちろん言うまでもなく数十分は撫でてあげた。




 ◇




 次の日


 作られた『ポーション』を試してみる。


 まずこの『ポーション』の効能は『ポーション』類では最高品質だった。


 最高品質ともなると欠損部位まで回復出来る。


 僕には技『エリクサー』があるが、それは僕だけの力で、世界ではこの『ポーション』こそが唯一無二の完全回復薬だ。


 ダグラスさんに相談した結果、問題が三つあった。




「オーナー、『最高品質ポーション』の値段をご存じですか?」


「ん……大銀貨1枚とか?」


「白金貨1枚です…………」


「へ!?」


 最近間抜けな声を出す事が多くなった気がする……。


 『ポーション』ってそんなに高いの!?


「因みに金銭感覚的な話ですが、この白金貨1枚って王家や辺境伯クラスじゃないと、まず買えませんよ?」


 そうだったのか! 白金貨ってそんなに価値あったんだ…………えっ? 金貨100枚を簡単に稼いだ商人が近くにいたような?


「自慢ではありませんが、俺は商人単体で最も稼いだ商人歴代1位だと思われます」


 す、すごいぃぃぃ! さすがダグラスさん!


「いえ、これも全てオーナーの力があってのこそですから」


 でもダグラスさんの力が無ければ僕だけでは無理だったからね。


「それでその『最高品質ポーション』をそのまま出しますと、誰も買えず、結果売れない事態になりかねます」


 高額商品は品質は良いが、買いたくても買えないんじゃ売りようがないという話だ。


「ですので、その『最高品質ポーション』を『錬金水』で割って、効能を下げる代わりに大量生産して販売する手があります」


「ん? 『錬金水』ってなんですか?」


「はい? 『錬金水』ってその『最高品質ポーション』を作られた時に使用しませんでしたか? そもそも『ポーション』って『錬金水』が必要だと思っていたんですが……」


 そもそも『ポーション』って『リリー草』と『綺麗な水』で作るんだよね?


 …………。


『錬金水』ってもしかして……『綺麗な水』の事かな?


 うん、あれならたくさんあるから大丈夫だね……というかうちの『水が出る魔道具』押したらいっぱい出るし……。


「えええええ!? オーナー!? あの『水が出る魔道具』って水じゃなくて『錬金水』だったんですか!? あれ全部ですか!?」


 はい……というか、ダグラスさんの驚いた声久しぶりに聞いた。


「そりゃ……飲んだらあんなに美味い訳ですね……」


 ほら、あの水ただで作れるから。


「えええええ!? 『錬金水』をただで作れ……はぁ……オーナーですから何でもありです」


 う……うん……。


「次の問題ですが……それは容器ですね」


「容器……ですか?」


「はい、『ポーション』は完成してから徐々に劣化していきます。ですので劣化を防ぐ『ポーション瓶』が必要なんです」


「へぇー、それは知りませんでした」


「ですので『瓶』を作る工場を作った方が良いですね、それと『ポーション』を詰めるのも大変な作業ですから」


 ん? 瓶に詰めるのはソフィアがやってくれる? じゃあ瓶だけ作れば問題ないのね。


「詰める必要はない……ですか? まず『瓶工場』だけで良い……と、かしこまりました」


 ソフィアが薄めるのも出来ると言うので、本当に『瓶』さえあれば何とかなりそうだ。


「では、最後の問題です、これが一番厄介だと思いますが……それは教会です」


「教会??」


「はい、現在『ポーション』を作って良いとされてるのは教会のみなのです」


「作って良い? どういう事ですか?」


「はい、基本回復の事となりますと、教会が大きく関わってきます。回復魔法もそうですね。しかしエクシア領だけ特別に教会が存在しないので、治療院というものがあります。大陸で唯一回復魔法が教会以外で許可された場所なんです」


「あ~あの何とかの事件ですか」


「はい、その事件でエクシア領では教会が全てなくなり、回復魔法が間接的に許される治療院があるのです」


「では、仮にアカバネ商会で治療を行うとどうなりますか?」


「教会から許可なく回復の行為を行ったと、異端審問にかけられます」


「異端って……」


「実は私の情報ですと現在教会の腐敗は凄まじく、現教皇も金に目がないそうです、汚職放題だとの事でした。そして……もしエクシア領の治療院以外で回復魔法や薬の販売を見つけたら……自分達の収入が減りますから、それはもう何が何でも異端審問に掛けるでしょう」


「なんて……最低な……」


「はい、ですのでまず『ポーション』を作ったとしてもすぐ売るのは控えた方が宜しいかと」


「分かりました、ですが『瓶』の事は進めてください、売らなくてもまず作っておいて損はないと思いますから」


「かしこまりました」

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