第60話 孤児院

 ナターシャお姉ちゃんにソフィアちゃんを紹介してから、久しぶりに屋敷の召使い達に会いにきた。


 みんな5人ずつパーティーを組み、今では2箱分の仕事をしてくれていた。


 彼らは頂いてる給金と見合わない仕事で申し訳ないからと、2箱分運びますって事らしい、全く知らなかった。



 そんな彼らを激励するため、巷で有名な例の『聖水』を渡してみた。


 想像以上に大反響で、中には泣きながら感謝する子もいるほどだ。


 意外にもナターシャお姉ちゃんの噂って、うちの街にも響いているから驚きだ。



 そんな中、とある女の子が申し訳なさそうに近づいてきた。


「あ、あの……クロウ様…………ご無礼だとは思いますが……」


 実はサディスさんの教育で余程の事がない限り、屋敷の主人達に声を掛けるのは無礼と教わっているはずだ。


 それを知っているはずだから余程の事なのだろう。


「うん? どうしたんだい?」


「は、はい、実は……孤児院の子供達にも、仕事をさせてくださいませんか?」


「孤児院の子供達?」


「はい…………実は召使いの仕事は孤児院の子達は……受けられないので、『リリー草』集めなら孤児院の子供達も出来ますし、みんなも喜ぶと思って……あの……すいませんでした……」


 ん~そういえばまだ孤児院には行った事がなかったな。


「分かった。その意見はしかと受け取ったよ。だから君は君の仕事をこれからも頑張って欲しい」


 そう言うと笑顔になった、やっぱり女の子は笑顔が良いね。女も男も関係ないか。


「あ、ありがとうございます!!」


 彼女は満面の笑みで足早に仲間のところへ向かった。



「お坊ちゃま、大変失礼致しました」


「ん? 先の女の子の事ですか?」


 サディスさんが申し訳なさそうに話す。


「余程の事がない限り、声を掛けてはならないと教えていたのですが……」


「ううん、問題ないですよ。それと、多分あれは彼女に取っては余程の事だったんじゃないかなと思います。ではサディスさん! 孤児院まで案内してください!」


 少し誇らしげな笑顔になったサディスさんだ。


「はい、かしこまりました」




 それからすぐに馬車で孤児院に向う。


 向う途中、女の子達が『プラチナエンジェル』の人形で遊んでるのを見てさらに驚いた。


「あれは最近人気になっております『プラチナエンジェル』と言う人形のようです。最近急激に勢力を増やしている『アカバネ商会』とやらの看板商品だそうです」


 あ……うん……サディスさんごめん。僕が作りました……ごめんなさい……。




 少しして孤児院の前に着いた。


 あとは目立つからとサディスさんには帰って貰うことに。


 早速、孤児院に入ってみた。


「てきだ!!」


 そんな声と共に男の子3人が木の枝を持って僕の前に立った。


「ここはえどいりゅらこじいんだぞー」


「なんのようかいわないとぼくたちがやっつけるぞ!」


「だぞー!」


 元気いっぱいの少年達だ。


 ちょっと対応に困っていると、奥から10歳程の元気そうな女の子が走って来た。


「こら!!! ハッシュ! リク! モロイ! 止めなさい!!」


「う、うわぁぁぁあくまのしゃーねえちゃんだーみんなにげろぉぉ」


 と、3人は走り逃げてく。


「まったく! 誰が悪魔よ! ふーんだ!」


 赤い髪を一つにまとめて、飾りっけない純粋な顔はお姉ちゃん達程ではないけど、十分美人と言えると思う。


「こ、こんにちは?」


「ん? 君は何しに来たの?」


「えっと、少し孤児院を見たくて」


「は? 身なりは平民っぽいけど……孤児院を見てどうするのよ?」


「あはは……どうするかは見てから決めようかな? と」


「ふ~ん、あんた、男だよね?」


「へ?」


「あんた顔が可愛いから女の子かもって思ってさ」


 しゃーねえちゃん? が少し顔が赤くなった。


「僕は男ですよ~」


「ふ~ん…………取り敢えず見るだけなら良いけど、お茶も何も出さないし、ご飯もないからね?」


「えぇ、お気になさらず」



 それからしゃーねえちゃんの案内で孤児院を見て回る。


「あら? お客様ですか?」


 おばあちゃんシスターさんだった。


 若い頃はそれはもうモテてそうな雰囲気のおばあちゃんシスターだ。


「シスターアングレラ、この子が孤児院を見たいと言いまして」


「はて……おや? 貴方様は……?」


「あはは……僕、クロウって言います、アカバネ商会の依頼で見学に来ました」


 何となくこのおばあちゃんシスターには身分がバレそうだったので咄嗟に嘘をつく。


「あぁ、あの商会ですか……そうですか、では存分に見てくださいませ」


「あれ? 大丈夫ですか?」


「本来ならここに他人を入れてはいけませんが……貴方様なら問題ないでしょう。是非見て回ってください」


 そういうと慈悲深そうな笑顔でおばあちゃんシスターは中に入って行った。


「へぇー、君凄いわね? シスターアングレラに認めて貰えるなんて滅多にないわよ?」


「そうなんだ~僕運が良い方だからかな~」


「ふう~ん」


 許可も貰えたので孤児院をさらに見て回る。


 これと言って生活が大変そうな所は見当たらない。


 食事やおやつもしっかり出るみたいだ。


 なんでも領主様から多額の寄付があるらしくて食事には困らないという。



 子供は全員で140人程いて、ここいらでは最大規模らしい。


 領内全ての孤児達を集めているのだとか。


 しゃーねえちゃんも遠くから来たみたい。



「それで? 満足したの?」


「うん。満足したよ」


「……まあいいわ」


「それではおばあちゃんシスターにも宜しくね~」


 そう言い、僕は孤児院から離れて行った。


「なっ!? シスターアングレラよ! おばあちゃんシスターじゃないわよ!」


「はいはい~じゃあまたね~しゃ~ねえちゃん~」




「えっ、私しゃーねえちゃんじゃなくて! ………………」


 …………。


「私……シャルて言うのよ……馬鹿……」


 もう見えないクロウを見つめてシャルは小さく呟いた。

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