第59話 護衛スライム

 次の日――――。


 ソフィアが枕になりたいと言って、ソフィア枕モードになって貰ったけど、これがとんでもなく寝心地がよかった。


 スキルの所為なのか、あまり多く眠らない僕も今までで一番寝たかも知れない。


 メイドのリーナさんが不思議がっていた。



 その日は商会のホルデニア支店を訪れた。


 総帥室を出て、店内に行こうとすると……。


「ちょっと君! ここは普通の人は立ち入り禁止なのよ!」


 と獣人族の女の子が僕に言ってくる。


「えっ? 僕?」


「君以外いないでしょう! 私こう見えてもアカバネ商会の店員なんだから! 君は関係者じゃないでしょう!」


 と言われた。


 あれ? そういえばこの人だれ?



 廊下の向こうからバタバタと、女性が走って来る。


 ホルデニア支店の店員をして貰ってる従業員さんの一人だった。


「う、うあああああ、お、オーナー! も、申し訳ございませんでした!! 新人がご無礼を!」


 と、それは見事な飛び込み土下座だった。


「えっ? おー……なー? クロウ様?」


「あはは、こんにちは、クロウです」


 目の前の女の子が真っ青な顔になる。


「ちょっとナターシャお姉ちゃんに会いに来たんですけど、いないみたいですね」


「あ……あうう……も……もうしわけ……」


「あはは、気にしてませんから大丈夫ですよ、この前は用事があって新人さんの方々に挨拶出来てない僕も悪いですから」


 そこから何とか女の子と先輩店員さんを宥めて、僕は二階の支店長室へ向かった。



「クロウ様、いらっしゃいませ」


 元ミリオン商会のメイドの一人、アーシャさんは支店長秘書として働いている。


「ナターシャお姉ちゃんに会いに来たんですけど」


「はい、ナターシャ様は現在旦那様と一緒に部屋におられます」


「そうなんだ!」


「はい、現在お二方に来客がおりまして……」


「うん、なら待つよ」


「かしこまりました」


 ディゼルさんも今や強大商会の支店長だもんな。


 これから簡単には会えないのかも知れない。


 数分して、扉が開いた。


 中から顔が真っ赤になった中年のおっさんとその執事のような人が足早に出て行った。


 中にはディゼルさんとナターシャお姉ちゃんが溜息を吐きながら、顔を横に振っている。



「こんにちは~」


「ん? クロウ様?」「あら、クロウくん」


 部屋に入ると二人とも笑顔で迎えてくれた。


「今の人、どうしたんですか?」


「あぁ……あれはですね…………」


 何か言いにくそうにしているディゼルさんに代わり、ナターシャお姉ちゃんが話してくれる。


「あれは魔道具ギルドの会長なの」


「魔道具ギルド?」


「えぇ、アカバネ商会で使われている全ての魔道具を一台ずつ寄越せってうるさくて」


「いや、ナターシャ。寄越せではない。売ってくれだ……」


「お父さん! うちの魔道具はお金なんかで売れる品ではありません! だからお金を払うと言っても寄越せと言ってるのと同じです!」


 あはは……ダグラスさんからも似た話の報告があった。


 今やアカバネ商会で使われている魔道具は十数点にものぼり、そのどれもが今の魔道具ギルドでは再現不可能だからである。


 それもそうだ、厳密に言えばあれは魔道具じゃないからね。あれは全て、僕の『魔法』だから売ろうにも売れないのだ。


「それを……たった金貨100枚ですって!? 白金貨100枚くらい持って来いって話です!」


 ナターシャお姉ちゃん凄い怒ってる。


「クロウ様、魔道具は絶対に他所に売ったりしませんので、ご安心ください」


 ディゼルさんが念のためと言う。


「大丈夫ですよ。僕は従業員のみなさんを信じていますから。でも二人ともこれだけ分かって欲しいんです。僕は魔道具よりみなさんの命の方が大事だと思ってます。ですので、もし魔道具のために命を狙われる事があれば、そのときは差し出して逃げてください。これは絶対ですよ」


 そして何とかナターシャお姉ちゃんも宥める。ふんすって鼻息を荒げるナターシャお姉ちゃんがとても可愛らしい。




「それでクロウ様、今日は何か用事でも?」


「あっ、そうだった。今日は紹介したい子がいまして」


「む、また女の子じゃないよねクロウくん」


「あ……あはは…………一応女の子……かな?」


 ちょっと!? ナターシャお姉ちゃん!? 何で頬を膨らませるのかな?


「こちら、僕の従魔となったスライムのソフィアちゃんです!」


 両手にソフィアちゃんを乗せて二人に紹介した。


「凄く可愛いわ!」


 すぐにナターシャお姉ちゃんが飛びついた。


 ナターシャお姉ちゃんに撫でられて気持ちよくなったソフィアもご機嫌だ。



【ご主人様】


【うん? どうしたの?】


【この女性はご主人様にとって大事な人?】


【ナターシャお姉ちゃん? うん、僕にとって大事な人だよ?】


【ご主人様のお母さん、お父さん、お兄ちゃん達、お姉ちゃん、ディアナちゃんと同じくらい?】


【うん、そうだね、みんな僕の家族だからね、大事だよ】


【分かった!】


 そう言ったソフィアちゃんはなんと――――分裂した!


 分裂したのに大きさが変わっていない。


「へ?」


「あら? この子、分裂したわね」


 そして分裂したもう一人のソフィアはナターシャお姉ちゃんの肩に乗るのだった。



【さっき話したみんなにも私の分体が一緒にいるよ?】



 どうやら、僕の大事な人達にくっついているようだね。


 ソフィアは会話は出来ないけど、声は聞けるので、そのまま分体で護衛するとの事だ。


「クロウくんありがとう! クロウくんにとって私って、こんなに大事にされるなんて……嬉しいわ」


 笑顔が……ナターシャお姉ちゃんの笑顔が……あまりにも素敵過ぎて眩しいよ。

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