第48話 アカバネ祭
あれから『リリー草』はしっかり集められていた。
実は初日の数日後には彼らに、「もしこの仕事が終わり、自主的に集めて来てくれたらボーナス給金を出します。但し、山に取りに行くのは禁止で街内だけ取って来てください」と言ったら、次の日の朝にもたくさん集めて来る子もいた。
ボーナス給金は僕の資金から出してあげる。
メイドのリーナさんにお願いして、彼らが集めた『リリー草』は異次元空間に入庫専用の箱を渡してそこに入れるようにと指示を出したので、朝ボーナス分はリーナさんに預けて渡す方向にしている。
毎日彼らに会う程暇がないからとても助かる。
それとアカバネ商会の商売がとても順調だった。
ナターシャお姉ちゃんの発案で売っている『プラチナエンジェル水』はその美味さも相まって飛ぶように売れるという。
しかも、その日の売り額上位者にはナターシャお姉ちゃん直々に汲んだ水を無料でプレゼントした所、界隈で『聖水』と呼ばれるようになり、プレミアム商品と化したという。
ただこの『聖水』は非売品にしているため、手に入れるには他の人から買うか、アカバネ商会の日売り額上位に入る必要がある。
アカバネ商会の『プラチナカード』がなければ売り額も表記されないので、『プラチナカード』を購入して貰い、手に入た素材を全部うちの商会へ売り、日売り額上位に入れば、晴れて『聖水』を手に入れる事が確定しているので、ますます信者が増えたみたいだ。
信者といえば、ホルデニア街に『ナターシャ姫の応援団』となるものが非公式に設立されたらしい。
しかもこの応援団、入団条件が『聖水』を手に入れた事がある者のみとなっている。
『聖水』を別な人から買っても参加可能というから面白い。
現在貿易街ホルデニアは『アイドル』ナターシャお姉ちゃんの話題で賑わいを見せている。
しかしその中、良からぬ事を思う人もいた。
◇
◆
「何でナターシャが生きていて、しかもこの『アイドル』って何だよ!!!」
彼は持っていた広告紙を激しく投げつける。
「くそっ! 見ていろ! この俺様を侮辱した事、後悔させてやる!!」
◇
遂に、アカバネ商会の開店から一か月。
本日はアカバネ商会の半年に一度ある『アカバネ祭』が開かれる日だ。
『アカバネ祭』とは、半年毎に『プラチナカード』の上位者10人の発表と『アイドル』ナターシャお姉ちゃんの『ライブ』が行われる祭りだ。
既に店の前にはステージが設けられ、前回とは違い多くのアカバネ商会護衛隊がステージ周辺を警護している。
更に変わったのは、周辺に大量の屋台が出ている事だ。
みんな『プラチナエンジェル印』が付いてある。恐らくこれも使用代とか言ってお金取っているのではないだろうか……。
元ミリオン商会の跡地のうちの支店は、貿易街ホルデニアの中央広場の目の前にあるので、中央広場には祭りを楽しもうとお客さんでいっぱいだ。
中には何の騒ぎかと見に来た人も、遠方から噂を聞いて来た人もたくさんいるはず。
あまりにも人が多いので、今回は『
そして…………その瞬間が遂にやってきた。
前回の衣装とは違い、今回はスカートじゃなくショートパンツの姿で、脚を全面的に見せ、上半身は脇が見えるタンクトップで、後ろには短い白いマントがある服装のナターシャお姉ちゃんがステージに上がってきた。
もちろんショートパンツにもタンクトップにも僕の全力霧属性魔法がかかっている。
「うぉぉぉぉ!!!!!」
「ナターシャさまぁぁぁぁ!!!!!」
「天使だぁあああ!!!!!」
前回とは比べ物にならない程の歓声が上がる。
その圧倒的な歓声にナターシャお姉ちゃんも驚いていた。
「みなさ~ん! お待たせしました! これからアカバネ祭を開催します!」
そう言うとまた歓声が上がる。
そこからナターシャお姉ちゃんの怒涛の『ライブ』が始まった。
ここ一か月、一生懸命に練習した事もあり、前回よりも切れの良い踊りを見せ、透き通る歌声に広場は一体となって盛り上がった。
最初はその異常な盛り上がりを目にして圧倒されていた初めての観客達も、ナターシャお姉ちゃんの『ライブ』に少しずつ惹かれ、開始から20分が経った頃には腕を上げたり、タオルを回していたりしていた。
その最中、最前列に一際目立つ『デブ』がいた。
あれは事前に調べが付いているナターシャお姉ちゃんの仇、ディオってやつだ。
彼はこの『ライブ』をぶち壊そうと計画して、ここに乗り込んでいる。
しかし、ナターシャお姉ちゃんがステージ上がって直後、彼には変化があった。
そこから『ライブ』が20分も過ぎると次第に彼も腕を上げ、声を上げていた。声援を。
『ライブ』は1時間と決まっている。
1時間が経つ頃、最後の曲です、と伝えると今までとは違い、踊りは最小限で、静かなバラード調の曲を歌った。
内容は、『私がここにいられ続けられるのは、私を思う誰かがいて、それが一つ一つ力になって私は今日もここにいられる』そういう内容だ。
ナターシャお姉ちゃんが作詞を作った歌だ。
歌っているナターシャお姉ちゃんも涙を流しながら歌い、それを聞いている観衆もまた涙を流した。
歌が終わり、何も言わず、涙を流しながら大きく挨拶をしてナターシャお姉ちゃんはステージから去る。
観衆の最前列のみんなは最早泣き叫んでいた。もちろん例のデブも。
『ライブ』が終わったにも関わらず、『ナターシャ』コールが止まない。
1分、2分、5分とみんなの声がまだ続いたその瞬間。
ステージに中央に穴が現れ、そこから眩しい光が上空に溢れ出る。
そしてそこから、前回の衣装を纏ったナターシャお姉ちゃんが、飛び上がり出現する。
割れんばかりの声援が響く。
「みなさ~ん! まだ呼んでくれてありがとう! では『ライブ』続き『アンコール』と行きます!!」
それから更に20分、ナターシャお姉ちゃんが踊り歌った。
『アカバネ祭』の『ライブ』の恒例、『アンコール』が誕生した瞬間である。
そこから、『ライブ』は終わり、惜しむ声がある中、イベントは進み、『プラチナカード』の上位10名の発表があった。
登壇等はないが、名前が呼ばれる度に大きな拍手が広場を埋め尽くす。
その中に少し恥ずかしそうにしていた人もいて、きっとこの上位10名の一人なのだろう。
イベントが終わり、初めての『アカバネ祭』は終わりを迎えた。
『アカバネ祭』が終わっても町の盛り上がりが終わる事はなく、その日深夜まで続いたのだった。
二回目の『ライブ』は噂になり、王国だけに留まらず、隣国にも噂が広まった。
◇
「クロウくん! 今日の私はどうだった?」
『ライブ』で疲れ切ったナターシャお姉ちゃんが真剣な顔で聞いてきた。
「凄かった! ナターシャお姉ちゃんが一生懸命に練習したから、あんなに盛り上がれたと思う! 凄いよ!」
「えへへ」
嘘偽りないその笑顔、守りたいその笑顔、ナターシャお姉ちゃんまじ天使。
◇
次の日
あのデブことディオのやつがやってきた。
今日は休店日なのに、貴族権力ってやつだ。
怖いので立ち合いを求められ僕も立ち会う事にした。
店内で待っていると、遂にやってきた。
扉が開き、ディオの身体が見えた瞬間だった。
それはもうお見事な――――
あのデブ、実は飛べるデブなのかも知れない。
「ナターシャ! いえ、失礼しました、ナターシャ様! 僕は……なんてやってはいけない事をしたのか! 本当にナターシャ様に多大なるご迷惑をかけてしまい、今更許しを請う立場じゃないのは分かっていますが、居ても立っても居られなくて、ナターシャ様に謝りたかったのです! 本当に今日まで色んな悪事を働いてしまい、誠に申し訳ございませんでした!!」
えっ?
「えっ?」
予想していた態度とはあまりにもかけ離れている彼の姿に、ナターシャお姉ちゃんも僕達も呆気にとられる。
よく見ると、彼の着ている服って、ナターシャお姉ちゃんを模して造られた『プラチナエンジェル』の絵が描かれている服じゃないか。
「僕がやってはいけない事をして来た事は明白です。ですが、昨日のナターシャ様に僕は救われた! これからはナターシャ様の応援団の一人として居られる許可をください。そして、これまでの愚行に対するお詫びとして、こちらをお納めください」
そう言うと後ろにいた彼の執事がある箱を出した。
その中を開けると、金貨がぎっしり入っている。
そこから許されるまで土下座しつづけると言う彼に、ナターシャお姉ちゃんは「私は
もし私がああいう風にならなかったら、オーナー様にお会いする事が出来なかったでしょう。そしてこうして『アイドル』になれるだなんて思いもしませんでした。だから私は貴方様の事はもう恨んでおりません。金貨も不要でございます。その謝罪だけ受け入れましょう」
その日、休店日にも関わらず、開いていた扉から、悪事の化身と言われたディオ・コルディオが土下座謝罪をし、それを許したナターシャお姉ちゃんに、現場を見た沢山の人々はナターシャお姉ちゃんのことを『プラチナエンジェル』と『アカバネ商会の聖女』と呼ぶようになったという。
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