被虐待児の最強転生して優しい家族に囲まれ

第47話 リリー草という雑草

　アカバネ商会開店から二週間が経過した。

　二回目の会計会があり、次からは月一の開催となる。

　切り良く開催するため、次回は二週間後になるみたい。

　『プラチナカード』１万枚がまさかの最初の一週間で完売していて、この一週間正規の『プラチナカード』を量産している。

　木の板も魔法で作っているので、一切お金や資材が掛からなかったのは助かった。

　職能開花して以来、増えすぎたＭＰとスキルのおかげでＭＰが滅多に減らなくなり、ＭＰ枯渇状態など久しくなれていない。

　最近殆どの時間を商会にしか目を向けていなかったので、今度は屋敷に目を向ける事にした。

　メイドのリーナさんにメイドさん達の仕事を見せてくださいと言って屋敷を見て回る事に。

　屋敷では執事とメイド長を筆頭に、メイドさん達が沢山おり、その下に召使い達で構成されている。

　召使い達は基本平民の子供達を採用しており、主に朝から力仕事である水汲みをさせられていた。

　後は料理人さん達や庭師等、僕が知らなかっただけで非常に多く働き手がいる。

　その日の夕食。

　僕は意を決して、お母さんに相談する事にした。

「お母さん」

「うん？」

「屋敷で働いている召使いって、子供達ですよね？」

　召使いに『さん』を付けると絶対駄目だとリーナさんから言われてしまっている。

「そうね、それなりに雇っているはずね」

「彼らの主な仕事は何ですか？」

　お父さんやお兄ちゃん達、お姉ちゃんも聞き耳を立てている。

「そうだね、基本的に朝早くから屋敷各所に水を汲んで運んで貰っているわね」

「その水を運んで貰う仕事の他に仕事はありますか？」

「う～ん、その他は殆どメイド達がやっているから、他の仕事というとないわね」

「もし僕がその水を運ぶ仕事を奪った場合、召使い達は困りますか？」

「えっ……と、ん……そうだろう……ね、お給金が貰えなくなるから、他でまた働き口を探す事になるだろうけど…………正直に言うと、うちの召使いは人気なのよ？　仕事は水運びだから大変だけど、それ以上にお給金を出しているからね？」

　お父さんが「うん、うん」と頷いている。

　お父さんもお母さんも平民に寄り添った素晴らしい両親だ。

　まあ、貴族としては良くないらしいけど、そんな両親だからこそ、僕は今こうして幸せに生きていられるのだから、感謝だ。

「クロウくん？　水を運ぶ仕事を奪うってどうしたの？　……何だか聞きたいような聞きたくないような…………」

「クロウ！　また何か作ったの？」

　お姉ちゃんの目がキラキラしている、お兄ちゃん達も食いついていた。

「うん！　実はね！　水が出――」

「待て――――！　クロウくん？　それ以上言っちゃ駄目よ？」

「えっ……」

「先も話したように召使い達の仕事が奪われると彼らの家が大変になるのよ？　ああ…………うちの子はまたとんでもない物を作ってしまったわ……」

　水が出――までしか言ってないのにこの言われようである。

　何となくだけど、そう言われるのも仕方ないとは思っている。彼らの生活を奪う訳にはいかないからだ。

「そうだな。クロウ、出来ればお父さんも彼らの生活は守りたいと思っている」

「ん～、ではこうしませんか？　代わりにその召使い達全員を僕に預けてはもらえませんか？」

「クロウくんに預ける？」

「はい！　実はやりたい事があるので、人手が欲しいんです。地味な作業なんであまり高額給金の大人を雇う事も出来ないので……」

「えっと、クロウ？　その地味な作業は何か教えて貰っても？」

「はいっ！　裏山にある『リリー草（くさ）』を集める事です！」

「『リリー草』？」×５

　『リリー草』というのは、あらゆる至る所に生えている淡い緑色の雑草（・・）の事だ。

　使い道が全くない上に、苦みが強いので動物すら食べないと言われている雑草だ。

　しかしその生命力の強さは異常で、どんな場所にも簡単に根を生やし育つ。

「えっと、『リリー草』を集めて、何をするんだ？」

「それはまたの楽しみです！　ですので、お父さん？　明日から召使い達を僕専属にして貰えませんか？　『水が出る魔道具』は各所に設置しますから！」

「『水が出る魔道具』…………『エアコン』に続いて今度は水まで出せちゃうのね……」

「凄い！　クロウ！　その魔道具見せてよ！」

「うん！　分かったよ、お姉ちゃん」

　お姉ちゃんの前に『水が出る魔道具』もとい僕が魔法で作ったあれ（蛇口っぽい）を出す。

「へぇーこれから水が出るの？」

「うん、左の魔石を押し込むと下から水が出てくるの、右の魔石を押すと温かい水が出るよ」

「凄い～！　後で使わせて？」

「いいよ！」

　その日から屋敷の至る所に『水が出る魔道具』を設置した。

　屋敷のみなさんから「奇跡だ……神の奇跡だ…………」なんて言われていた。

　しかも水が美味しいって評判だった。

　◇

　次の日

　僕の前には召使い達が集められている。

　全員で１５人。

　更にお父さんから『水が出る魔道具』代金として、明日から３５人雇ってくれるという。

　それでもあの『水が出る魔道具』の値段には及ばないと、僕が大きくなったら残り代金を払うと言われたけど、「僕を産んで育ててくれたお父さんお母さんからお金を取るなんて絶対やだよ！！　そんな事したら屋敷にこの魔道具をあと５倍は付けるからね！」って言ったら、二人共涙目で「すまなかった、ありがとう」って言ってくれた。

「では、召使いのみなさん、これからは僕の指示で動いて貰います」

「はいっ！　かしこまりました！」×１５

　事前にサディスさんから教育された甲斐あって、僕の事をすぐ受け入れてくれた。

「今日からは屋敷ではなく、裏山に行って貰い『リリー草』を集めて貰います！　５人ずつパーティーを組んで貰いますけど、中には動きが速い者もいれば、遅い者もいます。ですがこれからはパーティーメンバーになりますから、お互い助けお互い補ってください。

　これからは各パーティーの皆の籠に『リリー草』を集めて戻って来たパーティーから仕事を終わりにします。お給金に関しては水汲みをしていた時と同じ給金が出ますので、パーティー５人でいかに協力し早く終わらせるかでみなさんの自由時間も増えますから頑張ってくださいね！」

「す、すげぇ！　それだけで給金貰えるなんてすげぇや！！」

「それなら楽勝だね！　早く終わらせたら川に遊びに行こうぜ！」

　サディスさんにバランス良くパーティーを組んで貰い、三つのパーティーで雑草集めに行って貰った。

　水汲みと違い、籠いっぱいの草を入れてくるだけなので、大した重さもなく、みんな早めに仕事が終わり喜んでいた。

　意外と誰も喧嘩せず、年上の子が引率して効率良く集めていた。

　これも仲良くが基本なお父さんの方針のおかげだと思う。

　それから次の日に３５人が到着して、サディスさんから簡単な教育、説明があり、全１０パーティーが結成された。

　これで『リリー草』が毎日籠５０個分集まるのである。

　集まった『リリー草』は異次元空間の『ポーション材料』スペースに入る事になるのだ。

　◇

　◆アカバネ商会が開店する直前のとある話◆

　僕は貿易街ホルデニアを歩いていた。

　何か売れそうな物がないか視察していたのだ。

　その中で目立ったのが、教会だ。

　エクシア領には教会がないので、教会を見るのは初めてだ。

　その教会の前にはたくさんの人が並んでいた。

　良く見ると皆怪我をしている。

　そこで順番整理をしている人に聞いたところ、みなさんは教会に治療を受けに来ているという。

　怪我を治す薬はないのか？　と聞いたら『ポーション』というのがあるけど、高いので普通は使えないという。

　『ポーション』

　回復薬の一つ。錬金術で作れる。

　『錬金術』

　素材を錬金魔法で混ぜる事によって、合成進化し効能の良い物へと進化させる。

　と《天の声》さんから教えて貰い、作り方も教えて貰う。

　『ポーションの作り方』

　『錬金術』を発動した状態で、『リリー草』『綺麗な水』を混ぜる。

　『綺麗な水』って、僕が魔法で作ってるあの水の名前だよね？　あれならたくさんあるから、後は『リリー草』だけど…………あれってどこにでも生えているあの雑草だよね？

　ものすごく生命力が強いとみんな迷惑しているから、『ポーション』の材料になると言われて納得した。

　だって何処にでも生えて来るし、踏まれても踏まれてもまた生えて来るからね。

　でも僕は『錬金術』が使えないので、使える人を確保しないとまだ作れないかな。