第2話 「二つの巨影」
——首相官邸 怪獣災害対策本部——
「まさか...またゴジラが現れるとはな...。」
武蔵昭弘総理大臣は対策本部の席に着いて呟いた。
数十年ぶりのゴジラ出現を受けて、武蔵総理を始めとした閣僚が集結し、緊迫した空気が室内を包んでいた。
「配布資料にもある通り、調査飛行中だったP-1からの情報によりますと、目標の全長はおよそ100メートル、西に進路をとり本土へ侵攻中とのことです。」
権藤明防衛大臣が自衛隊からの情報を淡々と読み上げる。
「ゴジラは放射性物質がエネルギー源と聞く。まさか、東海村原発を襲撃するつもりじゃ⁈」
「冗談じゃない!ゴジラが上陸した上に原発も破壊されたら、被害は尋常じゃないぞ!」
各省庁の大臣や長官達の間に動揺が起こる。
「やはり、今のうちに自衛隊が攻撃すべきだ!」
「いや、気持ちは分かるが、無闇に攻撃しては、かえって刺激することになり被害が拡大するのでは?ここは穏便に生きて帰したほうが...」
自衛隊による侵攻阻止を推す森山総務大臣と、野放しを推す江波環境大臣の討論が始まる。
「何を言ってる!奴を野放しにすれば、別の国に襲来したり、またこの国にやって来るかもしれんぞ!そうしたら、また数年前の悪夢を繰り返すことになる!」
「まあ落ち着け。防衛大臣、君の意見は?」
武蔵総理は興奮した様子の森山総務大臣をなだめると、権藤防衛大臣に意見を仰いだ。
「私としても、ここは駆除を進言いたします。攻撃以外に我々が生き残る手段は無いと考えます。」
「しかし、奴が放射性物質をエネルギー源とするなら、体内に核融合炉のような機関を持っている可能性がある。攻撃による放射性物質の漏洩の危険性はないか?」
「その危険性も考えられますが、いまは侵攻阻止を優先すべきと考えます。」
放射能災害の心配をする石本防災担当大臣に対し、冷静な返答をする権藤防衛大臣。
「すぐに対処しなければならない事案です。総理、武器使用の許可をお願いします。」
「分かった......武器の使用を、許可します。」
権藤防衛大臣は武蔵総理の許可を確認すると、隣に座っていた柳本統合幕僚長に市ヶ谷の司令部へ連絡をさせた。
——防衛省 統合任務部隊司令部——
「たった今、総理から作戦発動が下命された。これより作戦内容の最終確認を行う。」
倉田統合部隊指揮官を中心に各幕僚長は作戦会議を開いた。
「ゴジラは依然として西に進路をとり東海村に向け侵攻中。これに対し我々は陸上、海上、航空、特生自衛隊の各戦闘部隊による統合任務部隊を編成しゴジラの侵攻を食い止める。」
倉田は現状と、本作戦の最終目標を説明すると、続けて作戦内容について説明を始めた。全員が、机上の地図に注目した。地図には、部隊の配置地点が示されている。
「まず、洋上に展開する護衛艦隊、上空の攻撃ヘリ部隊、空自の飛行編隊により海上でゴジラを足止めし、それを突破された場合、東海村に展開するメーサー部隊と富士教導団の混成部隊により迎撃、何としても原発襲撃を阻止する。」
「東海村の住民の避難はもう完了しています。いつでも作戦を開始できます。」
岸田陸上幕僚長は避難完了の報告をした。
「よし、各戦闘部隊に伝達、作戦を発動せよ!」
——太平洋上 調査船“なつしま”——
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査チームは、太平洋に流れ着いた巨大な漂流環礁の調査に赴いた。
「環礁が見えたぞ。ゴムボートの準備!」
調査目標の環礁が見えたので、乗員達は上陸用のゴムボートの発進準備を始めた。
「しかし、日本にゴジラが近づいてるそうじゃないか。この海域は大丈夫なんだろうな?」
「ここは日本から遠く離れています。いくらゴジラといえど、すぐにはここに来ませんよ。」
とある乗員が機器の操作を担当する乗員に聞くと、その少し細身の乗員は丁寧に答えた。
「ボートの発進準備よし!海に下ろします!」
調査チームのメンバーを乗せたゴムボートは、クレーンに連結されて、ゆっくりと海面へと降下した。
やがてボートが着水すると、クレーンはボートから離れていった。ゴムボートはエンジンを起動させて環礁へと向かった。
「しかし、漂流環礁とはな。ゴジラの復活といい、日本はどうなっちまうんだろう?」
「分からん。それを調べるのも俺達の仕事だ。」
チームのメンバーは日本の行く末について話しながらボートの上で調査の準備をした。良く晴れていて熱中症になってしまいそうな暑さだった。
「にしても暑いなぁ。早く戻ってアイスを食いたいぜ。」
などと話していると、とあるメンバーが環礁に何かを見つけた。
「おい、何だあれ?何か光ってるぞ。」
それを聞いた他のメンバーは、双眼鏡で環礁を見た。
「本当だ。光ってる。それに...大きな板?」
しばらくして、調査チームを乗せたゴムボートは環礁に到着した。チームメンバーは環礁へと上陸すると、洋上で確認した謎の光る物と板のもとに向かった。
「これ、石板だぞ。何か書いてある。」
大きな板のようなものは石板であった。そこには古代文字とともに、何らかの生物らしきものが描かれていた。
「......亀......?」
描かれていた生物は、亀のようだった。その隣には勾玉が描かれていた。
「おい、これ勾玉だ。これが光ってたんだ」
とあるメンバーは石板の近くに落ちていた光る勾玉を拾い上げた。勾玉は、そこらじゅうに大量に散らばっていた。
「あ、勾玉なら、この石板にも描いてあるぞ。」
メンバーは石板の周りに集まった。
「本当だ。描かれてる。この隣の亀みたいな生き物は何だろう?この勾玉と何か関係があるのかな?」
調査チームが石板の写真を撮り、勾玉を回収したところで、ゴムボートに乗り込み、“なつしま”に戻ろうとした時、——突然大きな揺れが調査チームを襲った。
「うわ、何だ急に!」
「かなり大きいぞ!急いで戻ろう!」
メンバーは何とかゴムボートに乗り込み、エンジンを起動させ、“なつしま”に向けて発進した。
一方、“なつしま”船内でも、突然の揺れに乗員達は騒然としていた。
「一体何が起こっているんだ⁈」
「おい見ろ!環礁が!」
一人の乗員が指さした先には、さきほどまであったはずの環礁がすっかり無くなっていた。乗員達は突然の出来事に唖然とするしかなかった。
いや、何もできなかった。環礁だと思われていたものが、環礁などではない、人類より遥かに強大なものであったからだ。
調査チームを乗せたゴムボートの下を、巨大な影が通り過ぎていった。
「な、何なんだよ...あれ...。」
調査チームのメンバーもまた唖然とした。
影は、まっすぐ“なつしま”へと向かっていった。
“なつしま”のソナーが影の正体である巨大な「何か」を捉えた。
「船長!」
「何だ!」
「環礁が移動しています...。本船の真下です...。」
そこには、全長80メートルはある、巨大な楕円状の物体が映されていた。
「......こんな環礁があってたまるか......。」
その物体は、そのまま東海村の方向へと進んでいった——。
——東海村近海——
ゴジラ迎撃作戦が発動され、横須賀基地から出撃した護衛艦隊は東海村近海に集結し、縦一列に陣形を成していた。
この護衛艦隊の旗艦を務めるのは、あまぎ型大型護衛艦“あまぎ”である。
あまぎ型大型護衛艦は、次々に襲来する怪獣に対して、圧倒的な火力で攻撃戦を展開するべく就役した海上自衛隊では異例となる3連装の主砲を3基も装備した火力重視の護衛艦である。
その最たる特徴は、大日本帝国海軍が建造した大日本帝国史上最大の軍艦——大和型戦艦をベースに近代化改装を施している点で、全長は263メートルにも及ぶ。
近代化改装によって、この大和型戦艦は、主砲の自動装填装置や、フェイズド・アレイ・レーダーを始めとした優れた索敵能力、対獣ミサイルも発射可能な多数のVLS(垂直発射システム)などの各種ランチャーといったように、まさに火力こそが全てと言わんばかりのゴテゴテの重装備に生まれ変わった。
かつての海軍軍人達は、まさか自分達の軍艦が、時を越えて怪獣退治に使われようとは思ってもいないだろう。
今回の作戦に参加する護衛艦隊は、このあまぎ型護衛艦の1番艦“あまぎ”と2番艦“あづま”、まや型護衛艦“まや”、こんごう型護衛艦“きりしま”、あきづきがた護衛艦“てるづき”の計5隻で構成されている。
「しかし、数十年ぶりのゴジラ出現とはな。俺たちの力を見せてやろうや。」
“あまぎ”艦長の神宮寺一等海佐はそう副艦長に話しかけた。若めの副艦長は少し緊張した様子だった。
「そんなに緊張すんな。訓練通りやればいい。」
神宮寺は副艦長の緊張をほぐすように励ました。
艦隊が作戦海域に到達すると、見張り員が叫んだ。
「2時の方向にゴジラ発見!」
「おいでなすったか......水上戦闘用意、主砲、攻撃始め!」
神宮寺艦長の指示によって、“あまぎ”はゴジラへ主砲の砲口を向けた。他の護衛艦も速射砲を右舷に旋回させる。
そして、照準を合わせて、全艦は艦砲射撃を開始した。
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