第15話 希望の結果と絶望の通達

 最後のFグループのパフォーマンスが終わった。一人一人のダンスにはキレがあり、歌唱力もEグループのようなグルーヴ感は無かったが、完成度の高い音であった。


 「それでは、3次選考に進む候補者の発表に移りたいと思います」春日がボソッと仕切りをする。4日間練習したスタジオ内。ピアノが置かれた中央には春日、若林。二人の前にはパフォーマンスを終えた6組のグループが右から順番に1列に並んでいた。

「皆さん、とってもいいパフォーマンスでした。どれも甲乙つけがたい。ですが、3次選考進出者は8名選ばさせていただきたい。名前を呼ばれなかった方も、諦めないでください。今回のオーディション以外にも世間にはチャンスがたくさん転がっています。今日選ばれなかった方は、ただ私の構想とは違ったという事だけです。何も間違っていないし、劣っているわけではないです。きっと皆さんを求めている場所はあるはずです」

 春日は力強く語った後、いよいよ3次選考進出者を呼ぶ。

「石田あいか、江橋可憐、大家愛莉、河村純美、斎藤優美、島根朱莉、多田真緒、原智恵、以上の8名となります」

 名前を呼ばれたものは、口元を覆う者、大きく息を吐きだす者、胸に手を当て目を輝かせる者、目を潤ませる者、人それぞれであった。

一方、名前を呼ばれなかったものは、俯く者、咽び泣く者、両手で顔を覆う者、肩を上げ落とし息を整える者、こちらも人それぞれであった。


 「それでは2次選考お疲れ様です。名前を呼ばれた3次選考の方はこちらの別室にお進みください」若林からアナウンスがあると待機していた別スタッフが3次選考者を誘導する。

誘導された3次選考進出の候補者はスタジオから出て、二部屋分離れた会議室に呼ばれた。案内された部屋はカーテンで覆われており、外部からの視線を完全に閉鎖していた。


「それでは、好きな席にお座りください。これより、3次選考の内容をお伝えします」3人程のスタッフの一人が指揮をとる。

あいか達も好きな席に座った。

「3次選考って何するんでしょうか?」朱莉が右側に座るあいかを飛ばして智恵に尋ねる。

「うーん。歌とダンスと自己紹介はやったから、、、他に何かあるのかな?」智恵は不思議そうな表情で考える。

「きっと、有名なプロデューサーさんだから何か他に見たいものがあるのかな?」朱莉の左隣に座る真緒が会話に加わる。

「他に見たい物って???」あいかが尋ねる。

「あれ、Fグループのあの子がいない。この呼ばれたメンバーの中ではとびぬけていると思ったのだけど」優美が疑問を口にする。

それだけではない。この部屋は何か不思議な感覚にさせる。

置かれているのは、優美たち候補生分の椅子と机。

目の前には大きなプロジェクター、座席の後ろには映写機がある。

しかし、優美はこの部屋には何かが足りないような気がする。


数分後が経過し、ようやくスタッフから3次選考の内容を知らされる。

「現在時刻は14時です。これから数時間ほど春日プロデューサーを始めとした数名の講師の方が座学を行います。試験内容は簡単です。寝たり、よそ見や落書きをするなどといった事が無いようお願いします。スタッフの判断で集中して講義を聞いていないとみなされた方はその場で脱落とさせて頂きます」淡々とした説明に候補生たちは絶句した。つまり、これからどのくらいかかるか分からない座学をひたすら聞く。

これが3次選考の内容であった。

「講師の方は何人ぐらいいらっしゃるのですか?」候補生の一人が尋ねる。

「お伝え出来ません。それともう一つ」スタッフが説明を続けた。

「この3次選考は自主的に好きなタイミングで帰られて結構です」

その言葉を聞いてあいかはふっと肩を撫で下ろす

「しかし、退場された方は棄権とみなさせていただきます」

真緒は一瞬安堵した心臓の心拍数を再び上げた。


こうして、春日プロデューサーを始めとした講師の座学会が始まった。

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