第14話 ベーコンレタス
朱莉、真緒、あいか、優美、智恵の5人は最終日まで熱心に練習をした。
講師による指導が終わった後も5人は自主練を欠かさなかった。
5人は歌唱力もダンスも初日と比べて見違えるほど上達した。とはお世辞にも言えないが、それぞれの声と踊りには自信が満ちていた。
そして、課題曲を披露する最終日。
5人で編成されたAからFまでの6組は3日間練習した共通の課題今日を歌とダンスで披露する。ポジショニングや歌分けは春日の指定の役割で行う。
面接官として春日、若林が候補生のパフォーマンスをチェックする。
そして、この中から春日と若林の判断で数名になる。何名になるかは知らされていない。
「うおー緊張してきた」Cグループのパフォーマンスが終わり、元々のハスキーな声をさらに押し殺してあいかが呟く。
Dグループまでのパフォーマンスが終わるといよいよFグループの出番となる。あいかと真緒は、舞台袖で他グループのパフォーマンスを見学していた。
朱莉と智恵、優美はじっと集中していた。やれることの事はしてきたのだ。後は一回の本番に全力を出すだけ。3人はやっつけた気持ちに似た感情で自分たちの番を待っていた。
「朱莉ちゃん似合わないっすよ!そんな落ち着いた感じ」ニヤケながらあいかが茶化す。
「そんなことないっしょ」と目を大きく見開き朱莉はあいかに反論する。
「まあー、確かに朱莉ちゃんはもうちょっと落ち着かない様子になると思ってたけど」優美はあいかに同意ながら同じように微笑した。
「まあーまー。もう今更やることないんだからさ」もう一人。
智恵も妙に落ち着いていた。
「そもそも、この課題曲はバンドテイストだし」
智恵の発言に朱莉も乗った。
「そうだよ!これそもそも、原曲も振りないんだから完全あたしたちのオリジナルでいいんだよ!」さっきまで茶化されていた分を取り返すように朱莉が付け加えた。
「オリジナルかー。そう思うと気が楽になるね」いつもの猫なで声で真緒が語りかけた。
「うんじゃー、グループ名決めましょうよ!」
「え?今?」
あいかの唐突な提案に聞き返す真緒。他3名も真緒と同じ感覚であったが
「まあー確かにありかもねー」智恵が賛同する。
「名前つけるタイミングおかしくはない?」苦笑いで答えた朱莉も内心はあいかの意見に賛成だった。
「じゃあー、あいかちゃん!候補言って!」3人に優美も乗り、あいかにグループ名を尋ねた。
「え!まだ、なんも考えてないっすよ」あいかは勢いで言った自分の提案にこんなにも皆が乗り気になると思っていなかった。
「真緒ねえ!出番っすよ!」あいかは唐突に真緒に振る。
「え!あたし!?」驚く真緒の小動物のような顔を4人は期待に満ちた目で見つめる。
「えーと、ベーコンレタス」とっさに絞り出した答えがこれだ。
「いや、センスな!」
「だってあいかちゃん今日も食べてたじゃん!好きでしょ?」
「じゃあー、責任をもってグループ名はあいかちゃん発表で!」
そう朱莉が決め、あいかが嫌がるといつの間にかDグループの発表は終わっていた。
いよいよあいか達の出番となる。
「じゃー行こうか」そう優美が囁くと小さく4人は「おー」と拳を挙げて、ベーコンレタス開演の狼煙を上げる。
「えー、ではFグループの皆さんお願いします」爽やかに若林が促す。
5人は春日、若林の前に立つ。
「えー私たちベーコンレタスでーす」あいかが中央に立ち元気よくグループ名を公言する。
思いもよらないセンスのないグループ名に春日と若林は一瞬ポカンとした表情で口を開く。
「ありゃ」朱莉は思っても見なかった静けさに動揺する。
その様子を見て春日と若林は笑い始めた。
「いいグループ名だね!だけど今だけね?デビューの時には名前変えさせてもらうよ」春日が優しく訂正した。
「えー、失礼しました」右端の真緒が慌てて謝罪する。
「改めまして聴いてください」優しい声で優美が仕切りなおす。
「曲はMUSH&Co.さんの『明日も』です」智恵が紹介するとイントロが流れる。
そして、練習の成果もあり優美が完璧な歌いだしを決めた。
そして続くようにあいかも元気な歌声で再びギターとベース、ドラムの入ったサウンドが響く。
5人は息の合った振りを見せていた。
朱莉、智恵の順でAメロを優しく歌い上げる。
続く真緒、あいかの順でBメロを楽しそうに奏でる。
そつなく歌う優美に真緒の甘い声が重なる。二人のCメロのハモリはバランスが絶妙であった。
二人のハモリの後、朱莉と智恵は二人とはまた違った。
朱莉の低く振動するような歌声に智恵が大人の包容力ある音を重ねる。
そして、サビ前にあいかのパート。元気な歌声は、まるで聴く者とも一緒に冒険につれていくような気持ちを持たせた。
サビでは、あいか、真緒、優美が前半を歌い上げる。
息の合ったスイッチを見せて、後方にいた朱莉、智恵が前に出て後半を歌い上げる。
そして、あいかが決めの歌詞を力強く唄った。
5人のパフォーマンスは最後のイントロまで綺麗に合わさっていた。
春日と若林は先程とはまた違った笑顔をお互いに見せる。
審査では無く、単純に5人に見惚れてしまっていた。
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