第11話 不協和音
歌のレッスンが始まる。先程の発声練習でお互いのレベルをEグループは理解した。
そして、5人の想像は売れ着ないことに的中する。
間違いなく、上手い部類では無い。独学でこれまで練習してきた智恵、完璧主義者の優美はある程度聞いてられる。
他3人に不安が募る。朱莉、あいかは音程が取れない。
朱莉はリズム感はいいが一本調子。
あいかは、発生量は多いがリズム感が無い。
この2人に比べればできている方である真緒。しかし、声量が無い。
他の音にかき消される。
「落ち込まないで」2時間のレッスンが終わり、3人を智恵が優しく励ます。
3人は体育座りの中に顔を埋めて、並んでいた。
まるで連続写真のようなシンクロ率だ。
「いや、結構歌は自信あったんですよ」あいかから思いもよらない自信があったとの発言に智恵と優美は目を見開き驚きそうになったがグッとこらえる。
「そういえば、合唱コンクールの時は毎回指揮者だったなー」あかりはゆっくりと顔を上げた後、うつろな目のまま音楽の時間の頃を振り返っているようだった。
今更ながら、なぜ毎回指揮者に選ばれたのかが分かった。優美と智恵も理解した。愛らしい容姿だけが理由では無かったのだろう。
合唱という音を合わせる種目、いや、そもそも歌が向いて内からもあったのだろうと。
真緒は涙目を潤ませながら講師の発言が心に刺さった。
「そこの君!ボーとしてないでそろそろ声出さないと!口動かしてるだけじゃダメだよ!」
真緒からすれば思いもよらなかった。それも、レッスンの始めから全力であった。
しかし、レッスンも終盤になり、本日のおさらいをする前に言われた一言。
そろそろということは今まで一生懸命歌っていたのが聞こえていなかったのだろう。だとしたらもっと早く言って欲しかった。
落ち込む3人をよそに優美はFグループの事を思い返す。
Fグループのメンバーは皆優秀であった。
誰一人として決定が無く、基本的な事が出来ていたからだろう。
もとより、長身の一際目を惹くプロポーションと中性であり芸術的な美形の顔面を持つ美女は凄かった。
「練習いこ!」真顔で優美は出たばかりのレッスンスタジオに向かう。
「え?今は休憩中だよ?」智恵は、優美の突然の行動に驚く。
「だって悔しいじゃないですか」サラッと一言放ち優美はその場を後にした。
「え、ま、待ってよー。昼ごはんは?」智恵は落ち込む3人を心配しつつも優美を追いかけた。
3人は暗い顔のまま昼食を摂ることにした。
サンドイッチが喉を通らない。レタスやキャベツの味が感じられない。
昼食を楽しんでいる他グループを見つめながら朱莉はベーコンレタスサンドをかじる。
あいかは、普段通り何も考えずに頼んでしまった醤油ラーメンの表面を見つめながら、なぜこれを注文してしまったのだろうと後悔していた。
真緒は、御握りをかじりながら2人に話しかける。
「優美ちゃん怒ってたかな」
「まあ、如何にも完璧って人っぽいもんね優美さんって」
朱莉は優美に若干ではあるが憧れの目を持ち始めていた。自分よりもうあたじゃ上手にできて、その上自分が凹んでいる時間も優美は妥協しない。
そんな優美はきっと特別な存在なのだろう。自分のようにごく普通の女子高生では無かったのだろう。自分と比べながら、朱莉はサンドイッチをかじるのを止めた。
「よし!」そう一言大きく発したあいか。周りも突然の声出しに目を向ける。
数秒であいかは注文したラーメンを食べほした。朱莉達を始めとする観客は開いた口が塞がらない。
「行ってくるね」そう笑顔で立ち上がったあいか。食べ終わっていきなり機敏に動いたためか少し気持ち悪そうにお腹を押さえた。
一呼吸おいてあいかは食堂を出ていく。
真緒は微笑した。なんて真っ直ぐな子なんだろう。思った事に誠実で。
あいかを追いかけようとしたが、朱莉が気がかりだった。
朱莉は元気なあいかの後姿を呆然と眺めるだけであった。
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