第9話 畳の上で

 Eグループの5名は宿舎に着き、これから5日間生活する部屋に案内される。

 4畳半ほどの狭い畳の小部屋に着くと、各々荷物を下ろす。

 朱莉の隣に真緒は荷物を下ろすと、二人は顔を合わせ軽く会釈をする。そして、お互いそっと微笑みあった。

 

 「あのー、オーディションの時同じ組だったよね?」朱莉に真緒が話しかける。

 「えーと」

 「真緒。多田真緒よろしくね」朱莉は安堵した。これから一緒に生活する人がいい人そうで良かった。そう心の中で胸を撫で下ろす。

 「島根朱莉っていいます。よろしくお願いします」屈託のない笑顔を真緒に返す。

 「朱莉ちゃんね!よろしく!ところでオーディションの時なんであんなにジャンプさせられてたの?」ひそかな疑問を朱莉にぶつけた。

 

 「あ!それあたしも!なんか、あのときしかカスPさん話さなかったよね?」横からあいかが話に加わった。大きな瞳に二人は一瞬心を奪われた。

 「あ!あたし石田あいかって言います。多分一番年下なんでタメ語でいいっすよ!」ハスキーでありながら元気な声で二人に挨拶をする。

 「えーと、何歳なの?」真緒が尋ねた。

 「15です」

 「あたしより若い!あたし、今年18!」二人の年齢に真緒は驚く。ひょっとしたら、自分が一番年上なのかもしれない。しっかりとした二人に微かな心配を抱いた。

 

 「あら、みんな学生さんだったのね!斎藤優美といいます。今日からよろしくね」この狭い畳の部屋には似つかわしい目鼻立ちが整った美女も輪に加わる。

 「え!学生さんだったの?い、いくつ?」大人びた容姿の優美に驚きながらも真緒は確認した。

 「19です。今年大学2年生です」優美はさらっと答えた。

 不安そうな様子であったのは真緒だけでない。

 「あたし、ひょっとしたら一番年上かも」智恵は申し訳なさそうに申告した。

 

 「原智恵といいます。普段は派遣でOLしてます。26歳より上はさすがにいないですよね」

 「よかったー。社会人他にもいた!あたし普段はスーパーと居酒屋のバイトしてます。あとは、5人の弟達の面倒見たりかなぁ」自分よりも年上のメンバーを見つけ、真緒はプレッシャーから解放された。

 「え!5人も兄弟いんすか!?」あいかが喰いついた。

 「真緒さんいくつよ!?」明らかに華奢で幼げな表情の真緒に対して朱莉は失礼かどうかの判断もつかずに尋ねた。

 「に、23、です」と目線を誰もいないほうに向けながらも引き攣った笑顔で答えた。

 

 「真緒ねえって呼んでもいいですか?」

 「それ下の子達からもそう呼ばれてる。あいかちゃんは鈴ちゃんと同じくらいの年齢だし。そう思うと感慨深いなぁ」アニメ声で話す真緒の声に暫く4人は癒されながら各々の家族について話し始めた。幼稚園からの友達の話。自分の恩人の話。朱莉とあいかは自身の話をした。話しやすい雰囲気になったのを悟り、智恵は将来の夢の話を話した。


 「私ちっちゃいころからアイドルになりたくて。でも、落選ばかりでね。今回がラストチャンスかなって思っているんだ」智恵はのんびりとした口調でしみじみと語った。

 「え!智恵さんでも落ちるんですか?」朱莉は驚いた。

 「じゃー、みんなで協力しなきゃね?」優美はグループの士気を鼓舞しようと問いかける。真緒は、おーと拳を挙げながら優美の問いかけに応じた。智恵も嬉しそうに「そうだね」と答えた。しかし、この中で気乗りがよさそうな朱莉とあいかはついてこなかった。

 「朱莉ちゃん?あいかちゃん?」不思議に感じた真緒が二人に話しかける。

 「うーん。あたし、正直わかんないんすよね。最初からアイドルになりたいというよりかは。そもそも受かるとも思ってなかったし」

 「いや、あんたなら受かるっしょ!」年も近く、つい普段の調子で馴れ馴れしい態度をとってしまったことに公開しながら朱莉は突っ込んだ。


 「カスPにあん時言われたんすよ。あのー一次審査の質問の時『君にとってのアイドルって何ですか?』って」ジャンプ以外に質問をされていた人がいたことに朱莉、真緒、優美は驚いた。一次審査の時は余裕がなかった智恵は3人が驚いている理由が分からなかったが、あいかにこう語りかけた。

 「じゃー、あいかちゃんはなんで受けたの」威圧感のない声にあいかは少し考え、今野の言葉を思い返しこう答えた。


 「あたしの役割を見つけるため?かな!」


 恥ずかしさを隠さずに素直に公言するあいかに4人は心動かされる。15歳の女の子がこんな深い事をいえるなんて。そう思いつつも真緒、朱莉、智恵はあいかにリスペクトを抱く。優美は青臭いと思いつつも表情に出さずに感想を隠した。

 「てか、朱莉ちゃんは?」さっき距離を詰めてきた朱莉により、距離を深めるように質問する。


 「あたしは」月島とのやり取りを思い返す。特別な存在になりたかった。さきほどのあいかのように真っ直ぐな気持ちで表現することに照れくささを感じた朱莉は


 「まー。踊りたかったからかな?」そう答えた。


「朱莉ちゃんダンスやってたの?」

「じゃー千人力っすね?」

「それ、どーういう意味かな?」

「カッコイイね!健司も勉強ばっかりしてないで朱莉ちゃん見習えってんだ」


 5人は1日目をお互いの事を知るための時間に費やした。

 あいか以外の4名はこう感じていた。


  カスPって呼び方辞めさせたほうがいいのかと。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る