1-12 軍議

「閣下、我が軍のハルバード城攻めが始まったとのことです」


 閣下と呼ばれる人物に報告がもたらされる。


「そうか。シャルナーク軍が到着したら残る部隊を出陣させろ。徹底的に叩け」


「はっ」


 こうしていま、ユウキの名前大陸中に広まるきっかけとなったクヌーデル城攻防戦が幕を開ける。


――――――


 ティアネス率いる14万の兵たちを見送った俺は王宮へ向かった。王宮にはデルフィエと先に待機していた伯温、その他の将軍たちが待機していた。俺の姿を見て一同が頭を下げる。


「ユウキ様、お待ちしておりました」


「遅れて申し訳ない。早速だが軍議をおこなう」


 デルフィエは待ってましたとばかりに、部下に地図を持ってこさせる。その地図を机の上に広げ、碁石のようなもので目印をつけていく。


「ユウキ様、この度の戦いについて説明いたしましょう」


 俺が頷くとデルフィエは説明を始める。


「まず、我が国の最北に位置するのがハルバード城です。順番に国境沿いの城を見ていきますとアンドラス城、クヌーデル城、シアーズ城があります。これらの城は国境沿いにあるため、シャルナーク王国の最重要防衛拠点といえましょう。特にクヌーデル城はこのへルブラント城に最も近い城ですので、注意が必要です」


 ここまでここまで説明を終えたデルフィエは俺に目を向ける。


「さて、杞憂に終わることを願っておりますが・・・もしサミュエル連邦がこのいずれかに攻め寄せた場合はどういたしましょう」


 デルフィエの指摘はもっともと頷いて反応を示す。事前に備えておいて無駄なことはない。


「もし小生がサミュエル連邦の将であるならば、国王陛下の留守を狙っていずれかの城を攻めることでしょう」


 それは俺も懸念していることだ。しかし、サミュエル連邦の持つ兵力がどの程度かわからない以上、予想することは困難である。


「俺もデルフィエの言うことに賛成だ。きっとどこかの城を攻めてくると見て間違いない。問題はどこを攻めてくるかという点だが・・・」


 そんな時、場違いともいえる陽気な声が耳に飛び込んでくる。


「待たせたのう、真打登場じゃ」


 この声と話し方は・・・言うまでもないか。俺を除いてこの場にいた全員が頭を下げる。


「うむうむ。皆の者、そうかしこまるでないわ。面をあげよ」


「姫様、よくぞいらっしゃいました」


 デルフィエが一同を代表して挨拶する。


「爺よ。息災であったか」


 ほぉ、デルフィエは爺って呼ばれているのか。


「はっ、この老骨、死するときまでご奉公いたしまする」


「爺は相変わらずよのぉ。して、軍議をしておったのか?」


 すっかり場の雰囲気を乱されたが、いまは軍議中なのである。


「ああ、お前が来たせいで中断したがな」


「むぅ、そんなことをいうと寛大な余でも怒るぞ」


 せっかく来てやったのにと頬をぷくーっと膨らませて可愛らしく拗ねるナルディア。


「ははは、悪かった」


「許さぬ。あとで覚えておれ」


 ナルディアの登場で脱線しかけた話をデルフィエが軌道修正する。


「まあまあ、ユウキ様、姫様、どうか落ち着きなされ。先ほどの話に戻ろうではありませんか」


 仕方ないのと尊大な態度でナルディアは地図を覗き込む。


「ふむ、ユウキがここを守るという話ではなかったのか?」


 デルフィエが答える。


「それで終われば重畳ですが、小生たちはどうもそうは行かないという結論で一致しております」


 これまで軍議を黙って見守っていた伯温が口を開く。


「お尋ねしますが、各城の兵力はいかほどでしょう」


 伯温の指摘はもっともだ。兵力によって採るべき戦術を変える必要がある。だからこそ真っ先に確認するべきことだが、すっかり忘れていた。


「はっ、各城約8千の兵が詰めております」


 この場に参加していた将軍の一人が答える。


「ということは、ここにいる2万に各城の2万4千、合計4万4千といったところか。 各城の特徴についてわかる者は?」


 俺の問いかけに先ほどとは別の将軍が答えてくれた。


「それがしがお答えいたします。アンドラス城およびシアーズ城は平地、クヌーデル城は山間に位置しております」


 へルブラントに最も近いクヌーデル城は山間にあるのか・・・。


「ありがとう。おかげで見えてきたよ。さて、ここからは伯温に任せていいかい?」


 俺に集まった視線が伯温に移る。


「お任せください。まず、このヘルブラントの兵2万を二手に分けましょう。その理由ですが」


「クヌーデルとここに1万ずつ置くのじゃろ?」


「はい、ナルディア様のおっしゃる通りです」


「はて、小生にはその真意が読めませぬが・・・」


 デルフィエが疑問をぶつける。その質問に伯温が答える。クヌーデル城は山城であることから、攻めるに難しく、守るのが容易である。1万の兵を加え、2万あればすぐに陥落することはないだろう。へルブラントに最も近いという点でも、危機管理という点でもより堅牢にしておく必要がある。もう一つの利点は、アンドラスとシアーズの中間地点にあるということだ。

 いずれかの城を攻められても、へルブラント城からの兵、クヌーデル城からの兵で挟撃することができる。敵軍を撤退させることができなくとも最悪時間稼ぎになる。


 伯温の説明を聞いた一同は何度も頷いてくれた。どうやら理解が得られたようだ。ナルディアはわかっておったわという顔で満足そうにしている。


 ただ、この作戦にも弱点はある。3つの城を全て攻められた場合は限りなくジリ貧状態になる。その場合はいずれかの城を諦めるしかなくなるだろう。


「して、クヌーデル城へはどなたが行かれますか?」


「ここはご主君自らが赴かれるべきでしょう」


 デルフィエの質問に伯温がそう答える。なるほど、この作戦は俺の勇者としての能力を計算して立案しているというわけか。


「ユウキ様直々にでしょうか?」


 デルフィエがそれはだめだろという雰囲気を醸し出す。


「いや、この作戦は個の強さをあてにした部分がある。だからこそ俺が行くべきと伯温は判断したのだろう。デルフィエは、ここを守っていてほしい」


「さすがはご主君、ご明察です」


 デルフィエは自分が留守番ということに若干不満げな雰囲気を出している。少しフォローする必要がありそうだ。


「デルフィエ、ここの守りは臨機応変に対応できるものでなければならない。後詰めとしての判断を誤れば、俺も死ぬ可能性がある。だからこそデルフィエに頼みたい」


 俺の言葉にデルフィエはもったいないお言葉とばかりに頭を下げる。


「かしこまりました。安心してお背中をお預けください」


「方針は決まった。これで軍議は終わりとする。皆の者、ご苦労であった。俺は明後日クヌーデル城へ向かうことにする」


 ナルディアを除く全員が俺に頭を下げる。これで採るべき方針は決まった。あとは準備に取り掛かるだけである。

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