1-13 ユウキ出陣
多くの将軍たちがそれぞれの持ち場に戻ると、王宮には俺、伯温、ナルディア、デルフィエの3人が残った。ナルディアが言うには、ハンゾウたちが後ほどここにやってくるらしい。俺が王宮に泊まるというのを見越してしばらくここに滞在するつもりである。準備は軍議に参加していた将軍たちがおこなうので、俺は手持ち無沙汰だ。そこで、前々から聞こうと思っていた魔法についてデルフィエに尋ねた。
「ところでデルフィエ、魔法ってのはどうやって使うんだ?」
ナルディアが意外そうに俺を見ている。意外そうな目から「おぬし、魔法すら知らんのか。ふっ」という目に変わったのがとても腹立たしいが・・・。
「おお、そういえばユウキ様には説明しておりませんでしたな。それでは小生が手ほどきをいたしましょう」
ん?俺には説明していないということは・・・なるほど、伯温はあらかじめ聞いていたというわけか。さすが抜け目ない。
こうして連れられたのは魔術師たちの訓練場。魔術師の大半がハルバードへ向かっているためガラガラである。
「では、まずは小生が手本を見せまする。よくご覧ください」
「爺の魔法はこの国一番じゃからの」
ナルディアは我がことのように誇っている。デルフィエが杖をかざして目を閉じると、もう間もなく激しい音と共に落雷が離れたところに落ちた。あ、技名や詠唱とかないんだ・・・。そこは俺の読んできたラノベとの大きな違いであった。あの威力の雷撃であれば100人くらいは容易に倒せそうである。
実技を披露してくれた後は、魔法に関する基本的な知識を教えてくれた。この世界の魔法は火、水、風、土の四大元素で成り立っているという。大気中のマナを杖や剣などの媒介から身体に吸収し、魔法を発動する。熟練者になればなるほど発動までが早くなり、雷のような高威力魔法を扱えるのは極めて少数ということであった。雷は水と風属性を極めた者にしか使えないからという理屈のようだ。デルフィエには及びない大半の魔導師は何をしているかというと、矢のように魔法を飛ばしたり、風を起こしたり、対魔法シールドを張るなどして戦いに貢献しているという。
また、魔導師には適正というものがあり、全員が全員魔法を使えるわけではない。魔導師が少数なのは適性を持つ者がそもそも少ないからだろう。魔法を使える者でも扱える属性は基本的に1つらしい。魔法の行使は、大気中のマナを体内に取り込む必要があることから体力の消耗が酷く、一日に何度も連発できないのは前に聞いた通りだ。ダルニアは10発くらいと言っていたが実際はどうだろう。
「魔法というのは一日に何回撃てるのですか?」
デルフィエは良い質問だとばかりに笑顔で答えてくれた。
「そうですな、発動する魔法の規模と本人の身体能力次第ですが・・・小生が本気で放つ魔法であれば日に2回が限度でしょう。弓の代わり打つような遠距離攻撃であれば300は超えましょう」
ダルニアの10発という答えはなんだったんだ・・・。確実に100人を倒せる雷撃が2発もあれば敵の指揮官を巻き込むことは容易だ。場合によっては戦況に大きな影響を与えるというのはそういうことだろう。
「一般的な魔導師だと?」
「それなりに鍛えている魔導師であれば、矢の代わりとなるような魔法を200は打てるでしょう」
なるほど、デルフィエがシャルナークの狼と呼ばれている理由を知ることができた。威力はさることながら精度も相当なものだろう。常に指揮官の隣で対風魔法シールドを張っていない限り、倒されてしまうのだから。というか・・・ティアネスはデルフィエを置いて行っていいのかよ・・・。俺やナルディアのことが心配でそうしたのだとしたら、なかなかに子煩悩だ。しかしまあ、魔導士の存在はなかなか侮ることができない。一日の限界量が決められているものの、矢を消費することなく遠距離攻撃ができるのだから。
俺の魔法に関して知りたいことはあらかた知ることができた。問題は俺がどの程度魔法を使えるかについてだ。
「ユウキ様の素質は前に申し上げた通り相当なものです。せっかくですので、適性を調べてみることにいたしましょう」
デルフィエが地面に砂を撒き杖を掲げる。そして、デルフィエに促され、その手に持つ杖を掴む。すると、デルフィエが手を離した途端にスルスルと地面に撒かれた砂が動き始め、なにやら不思議な模様になる。
「おおお、さすがはユウキ様」
驚きの声をあげていた。横で見ていたナルディアはこの世の終わりのような顔をしている。
「恐れ入りました。どうやらユウキ様は火、風、水の三元素に適性があるようです」
ここで勇者補正が働くというわけか。信じられないという顔で呆気に取られているナルディアはなかなか間抜けな顔をしている。
「これは・・・属性の組合せ方によってはとんでもない威力の魔法が使えるかもしれません。マナを吸収できる量は、ユウキ様の体力次第ですので、鍛錬を怠りませぬよう」
勇者がチートなのは今に始まったことではない。どこまで自分の能力を把握できるかにかかっている。いざというときのため、魔法も腰を据えて研究するとしよう。
――――――
しばらくしてテリーヌを先頭にハンゾウたちが王宮へやってきた。ハンゾウ、ムネノリは剣を持ち、キキョウは槍を持っている。それぞれが訓練成果を存分に発揮できるようナルディアが選んでくれたのだろう。3人とも白銀の甲冑に身を包んでいる。どうやらナルディアが持つものとおそろいのようだ。テリーヌは・・・特にいつもと変わらずメイド服である。戦いについてこないのだろうか?
俺の姿を見て、キキョウとムネノリが走ってくる。
「ねえねえユウキ様、みてみて~どう?」
「ああ、とてもよく似合っている」
キキョウがえへへと嬉しそうにしている。ムネノリも褒めてもらいたそうにしていたから、褒めてあげた。少し離れているがハンゾウにも良く似合ってると声をかけた。むずがゆそうにしているからきっと嬉しいのだろう。
ハンゾウ、キキョウ、ムネノリの3人は初めの王宮に興奮しっぱなしだ。ここに泊まるということでとても楽しみにしていることだろう。
ハンゾウたちをそれぞれ部屋に案内して今日やることはひと段落だ。
――――――
次の日、俺は王宮に籠って陣容・兵站といった情報を集めている。
暇を持て余していたハンゾウたち3人は貴重な機会だからとデルフィエに稽古をお願いした。帰ってくる頃には魔法適正も明らかになっていることだろう。
俺が地図と睨めっこしているとナルディアが入ってくる。
「精が出るのう」
「まあな。将としての務めってやつだ」
俺を邪魔しては悪いと思ったのか、ナルディアは大人しくしていた。・・・はずだったが、ちらちらと視線を向けてくる。それが気になる俺の集中力は段々と切れ始めていた。黙っていても存在感のある姫様だ。
しばらくしてナルディアが声をあげる。
「そういえばおぬし、装備はどうした?」
あ・・・。自分の装備を用意し忘れていたなんて恥ずかしくて言えない。ナルディアは俺の様子を見てニヤッとする
「おぬし、よもや忘れたのではあるまいな」
「・・・」
「まったく、しょうがないやつじゃのお。余について参れ」
やれやれという態度を出しつつナルディアが俺の手を引いてどこかに連れていく。手を繋ぐ必要あったのか?などと聞こうものなら怒られそうだから素直に従うことにする。ナルディアが連れてきたのは武器庫であった。中に入ると数多くの装備がこれでもかとばかりに揃えられている。
「勝手に入っていいのか?」
「もちろんじゃ。おぬしは余と父上のお気に入りじゃからの」
ナルディアは嬉しそうに俺の似合う装備はこれかこれかと物色し始める。
「おぬし、なにか色の好みはあるか?」
俺は迷わず緋色と即答した。
「そうか、緋色か。良いものがあるぞ」
こうして俺はナルディアのコーディネートにより、緋色の鎧、腰当などの防具に加え、緋色のマントを装備することになった。武器は緋色の上等な剣を用意してくれた。まさに緋色尽くしである。
「うむっうむっ。とてもカッコイイぞユウキよ。じゃがすまぬな。本当は名剣を渡したいところじゃが、さすがにそれは許可なくできぬ」
興奮しているかと思ったら一転して申し訳なさそうにしている。
「なーに、この剣もお前に折られたやつと比べたら天と地ほどの差がある。俺はこれで十分だよ。ありがとうナルディア」
俺の一言にナルディアは満足そうにしていた。なぜかナルディアの手には鮮やかな朱槍があったが・・・。
城での準備を終えた俺たちはクヌーデル城へ出発し、野営をしつつ順調に歩を進め、2日後にはクヌーデル城へ入城できた。
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