1-8 とある午後の教育
午後になると、俺が中心となって講義をおこなう。他国の動向などは行商人を講師に招いて教えてもらっている。もちろん行商人への報酬は支払い済みである。
行商人たちの話でわかったことはいくつかある。この大陸には5つの国家があるということだ。
シャルナーク王国はいうまでもなく、ウェスタディア帝国、サミュエル連邦、べオルグ公国、ツイハーク王国の5カ国である。
「さて、今日は世界情勢を把握することから始めようか」
1ヵ月の成果として各国の情報をまとめることにした。ハンゾウ、キキョウ、ムネノリ、ナルディア、おまけでテリーヌの5人が思い思いに手をあげて指摘する。あれこれと討論しつつ、2時間かけて5カ国の特徴がまとまった。
◇◇◇◇◇◇
シャルナーク王国
国王:ティアネス・シャルナーク
政治形態:君主制
首都:へルブラント
拠点数:12城
方針:大陸統一
隣国:サミュエル連邦
主流通貨:シャルナーク金貨、銀貨、銅貨
ウェスタディア帝国
皇帝:ネルブライト
政治形態:君主制
首都:アルナイル
拠点数:41城
方針:大陸統一
隣国:ツイハーク王国、サミュエル連邦
主流通貨:ウェスタディア白金貨、金貨、銀貨、銅貨
サミュエル連邦
総統:ニクティス
政治形態:共和制
首都:ミスリア
拠点数:34城
方針:大陸統一
隣国:すべての国家
主流通貨:サミュエルドル
べオルグ公国
元首:クレール
政治形態:君主制
首都:パトリシア
拠点数:7城
方針:領土保守
隣国:サミュエル連邦、ツイハーク王国
主流通貨:サミュエルドル
ツイハーク王国
女王:アスタリア
政治形態:君主制
首都:ツイハーク
拠点数:8城
方針:領土保守
隣国:ウェスタディア帝国、べオルグ公国、サミュエル連邦
主流通貨:ウェスタディア金貨、銀貨、メイプル銅貨
◇◇◇◇◇◇
「よし、ひとまずこんなところかな?各国を比較して特徴をあげていこうか」
俺がそう講義を展開すると、ナルディアが勢いよく挙手した。
「はいナルディア、なにかあるか?」
「余はサミュエル連邦だけ妙に変わった国だと思っておる」
「というと?」
「政治形態と通貨が独特だとおもっての」
「うん、その通りだ。さすがはナルディア」
「うむ。もっと褒めよ」
えへへと聞こえてきそうなくらい良い表情をしている。さっそく俺の話したい内容があがったから、より深めることにする。
「それじゃこれまでの復習だ。君主制と共和制の違いを・・・ハンゾウ、答えてみてくれ」
え、俺?という表情を浮かべたハンゾウが渋々立ち上がる。
「えっと、たしか君主制が国王や皇帝を中心とした政治体制で・・・共和制は・・・君主がいない国?だと思います」
「うん、概ね正解だ。君主制はその国の王や皇帝、貴族が治めている国をいう。それに対して共和制は国民によって選ばれた代表者が治める国をいう。もっとも、サミュエル連邦の場合は、いくつかの地域の代表者の中から選ばれているようだけどね」
この説明に疑問を思ったのかテリーヌが質問する。
「ユウキ様、その説明の場合、サミュエル連邦は共和制と言えるのでしょうか」
おお、良いところを指摘するじゃないか。
「さすがテリーヌ、その通りだ。共和制と言いながら実際は君主制に近いのだろう。総統こそ各地域の代表者が決めているが、その各地域の代表者は民衆が決めているらしい。ということを踏まえると共和制で問題ないと俺は考えている」
ありがとうございましたとテリーヌは席に座る。政治形態の理解は問題なさそうだ。次に通貨の話をしよう。
「さて、次は通貨について考えていこうじゃないか。この大陸に流通する通貨の発行元はどこだっけか?キキョウ答えてみろ」
キキョウが一気に挙動不審になる。目を逸らしながら立ち上がる。
「えっと・・・わかりません」
・・・。
「うーん、なら知ってる通貨ならどうだ?」
キキョウの顔がぱあっと明るくなった。
「えっとね、シャルナーク銅貨!」
(((え、それだけ?)))
キキョウ以外の皆の気持ちが一致した。横からハンゾウが救いの手をのばす。
「シャルナーク金貨やシャルナーク銀貨もあるだろ」
「え、あ、あー。うん。シャルナーク金貨やウェスタディア銀貨もありますっ!」
半ば苦笑いしながら俺はさらに深堀りする。
「今度はムネノリに聞いてみよう。これらの通貨はどこが発行しているんだ?」
ムネノリは寡黙だが、こと座学においては優秀である。
「通貨の名前にある各国が発行している・・・と思います。ですが、メイプル銅貨はわかりません」
「概ねムネノリの言うとおりだ。では、メイプル銅貨について答えられる人はいるか?」
テリーヌが手をあげる。
「はいテリーヌ」
「メイプル銅貨はツイハーク王国が発行しています。なぜメイプルかというと、ツイハーク王国の建国の勇であるメイプル公を偲んで名付けられたと言われています」
「さすがテリーヌだな」
「いえいえ、少しでもお役に立てれば幸いです」
ちなみに、白金貨、金貨、銀貨、銅貨はそれぞれに対応する鉱山を有する国々が発行している。そのため、金山等の資源を持つ国は相対的に財政的優位を得ることができる。ツイハーク王国の場合、金山と銀山を持っていないことからウェスタディア金貨とウェスタディア銀貨という外国通貨を導入しているというわけだ。
「ところで、サミュエルドルが紙幣というのは本当なのか?」
「ええ、紙幣で間違いないでしょう」
俺が行商人たちの言っていた噂をテリーヌに聞いてみた。どうやら本当のようだ。
サミュエル連邦が共和制を敷いていることといい、紙幣を発行していることといい、明らかに時代錯誤な匂いを感じる。もしかしたら俺のような転生者がいるのかもしれない。要注意だろう。
「先生、紙幣というのはなんでしょうか」
ムネノリが俺に対して質問する。ちなみに俺を先生と呼ぶのはムネノリだけだ。
俺はできるだけ噛み砕いて紙幣のことを話した。紙でできた通貨であること。そのお金の価値は国家の信用でもって成り立っているということ。おそらくサミュエル連邦は金本位制を採用していることだろう。戦乱の世にあって国家の信用というものは一定ではないからだ。
というような話をしていると金本位制って?という質問が飛んでくる。簡単な話、その通貨と同じだけの価値ある金を国家が保有するということだ。その利点として、金貨が流通する過程で発生する摩耗を抑えること出来る。また、相場の安定性、鋳造コストの削減という意味でもメリットがある。その反面、国家の保有する金が無くなれば単なる紙切れになってしまうのが弱点である。通貨の流通量をコントロールできない国家には導入できない方法だろう。
「さて、大体はこんな感じだ。ほかに質問ある人いる?」
俺の呼びかけにナルディアが勢いよく手をあげる。
「ユウキよ、ウェスタディア帝国にだけ存在する白金貨とはなんじゃ」
ナルディアにしてはなかなか鋭い質問だ。というより、俺が話するのを忘れただけだが・・・。
「白金は金より希少性の高い金属だ。つまり金貨よりも大きい金額を持つ通貨というわけだな。それを考えると長い歴史を持つウェスタディアならではの通貨かもしれない。まあ、普通は金貨で済むことが多いだろうから貴族に向けた名誉の意味合いが大きいんじゃないか。っと、いい時間になったね。うん、そんじゃ今日はこれでおしまい。買い出しして晩御飯にするか」
「「「はい!」」」
こうして俺たちのよくある一日が幕を閉じた。
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