大罪の檻 Ⅱ
「……はぁ、もういいです。話を戻しましょう。ほら、兄さん座って下さい 」
このままでは埒が明かないと、ルシフィードは冷静になり、場を収めようとする。
「あぁ?まだコイツとの話がついてねェだろ!!」
気が収まらないサタニアスは、ルシフィードに食ってかかろうとするが、ルシフィードは少し顔を上げサタニアスを見据えた。
「兄さん」
静まり返った大広間に、ルシフィードの冷ややかな声が響く。
サタニアスはルシフィードの顔を見ると、バツが悪そうにチッと舌打ちをし自分の椅子に乱暴に腰を掛ける。
その隣では、煽るようにアスモルシアがベーっと舌を出していた。
「アスモルシア、貴女も懲罰されたいんですか?それともバラされて魔獣の餌になりたいんでしょうか? 」
「…っ 」
ルシフィードの静かな怒気に気圧されて、アスモルシアもビクリと身体を縮こませ押し黙る。
「では、報告の続きを… 」
そこからは一気に通夜の様な空気になったが、第七監獄までそれぞれの報告が終了し、最後にルシフィードが今後の予定を伝える。
「ああ、本日から暫く私は人界に行きますので。久々に上質な傲慢の罪魂を確認できました。このターゲットの推定殺数は2〜3人程ですが、私ならその倍以上にはできるかと」
自信ありげにそう語るルシフィードに、他の監獄長達はザワつきを見せる。
「うっわ、出た。流石は傲慢だわ 」
アスモルシアがうえ〜と声を漏らしたが、ルシフィードはそれを無視して話を続ける。
「ただ、今回の標的は少し特殊な環境下にあるため、入念な下準備が必要です。そのため、期間は1ヶ月半程頂きます 」
「えっ、1ヶ月以上も人間界に干渉するなんて…私なら絶対にヤダ 」
退屈そうにしていたマノンが、ボソリと呟く。
本来、魂の回収に要する時間は平均で1週間前後である。
それは罪魂の犯した罪を底上げするための準備期間であり、この間にどれだけ罪魂に罪を付加できるかで成果が変わってくるのだ。
彼らの仕事には、二通りのやり方がある。
一つは、罪を犯して死んだ対象の魂に、付加の罪を植え付ける事で罪を重犯させ、刑期を引き伸ばす事。
もう一つは、悪魔の本来のやり方と変わらない。既に罪を犯している人間を誑かし、さらに罪を負わせてからその魂を狩り取る事だ。
かつては、罪の無い人間達をも遊び半分に陥れ、その魂を堕とす事を楽しんでいた悪魔達だったが、今や人間の数も年々少なくなって来ている。大多数の悪魔達が遊び半分でそんな事をしていれば、人間なんて直ぐに滅びてしまうだろう。現代の社会に適応した結果が、今のこの仕事となっているのだ。
加えて悪魔達は、三百年毎に人間界の管轄地域を変える。今は丁度、この日本を中心に魂の回収を行っている最中だ。
「ハッ、うるせーのが暫く居ねェのは助かるぜ 」
サタニアスは報告会が終わると早々に部屋を出ていき、マノンもその後に続く。
ベルフェハートに関しては、終始まだそこに寝たままだ。
「フィーちゃん、お土産よろしく~♡」
「あの、お気をつけて……!」
レヴィアローゼとベルゼクロムが、ルシフィードに声をかける。
「ああ、お土産は銀座とかで買ってきなさいよね!美味しいやつ! 」
お土産というワードに横からアスモルシアが口を挟み、そこからレヴィアローザとどこのお菓子が美味しいだのとスイーツ談義が始まっていた。
「はぁ……全くまとまりの無い」
眉間を抑えて項垂れるルシフィードのため息は、誰の耳にも届く事は無かった。
◇
集まっていた監獄長達はそれぞれの持ち場へ戻って行き、この場にはルシフィードと約一名が残されていた。
「ふぁ……」
静かになった大広間で、最後まで眠っていたベルフェハートが目を覚ます。
「おはようございます。というか、集合が面倒だからといって、ずっとここで寝ないでください 」
ルシフィードが呆れ声で話しかける。
「まあ眠っていても、大体の内容は頭に入ってるからな 」
長い前髪で隠れた目を擦りながら、ベルフェハートはそう返事をした。
「…先述の通り、私は暫く留守にしますので、皆さんくれぐれも問題を起こさないで下さいね 」
ここでは二番目の古株に当たるベルフェハートに、ルシフィードは釘を刺す。
「問題を起こすのは、殆どアイツらだろ 」
ベルフェハートのいうアイツらとは、サタニアスとアスモルシアの事だ。
自分勝手で後先を考えない行動、直情的な性格、どれをとっても不安要素しかないふたりは大監獄内でも一二を争う問題児だ。
「いえ。あのふたり以外も、問題は起こさなかったにしても見張りが居ないとすぐサボりますからね 」
「ああ、それは違いない」
ベルフェハートがギザ歯を見せ、ニヤリと笑う。
「全く……ベルフェハートさんはレヴィアローザさんに次いで、ここでの仕事が長いんですから、後輩の手本になる様な行動をお願いしますね 」
「さあ、どうだろうな。俺は”怠惰”だからな 」
そう言ってはぐらかすベルフェハートに、ルシフィードは眉を顰める。
「で、今回は準備期間がえらく長いが、魂の回収は上手くいきそうなのか? 」
「まあ標的の特性上、不本意ですが使えるものは全部使いますよ」
そうルシフィードは答えると、標的の情報が書かれた紙を差し出す。
それを見たベルフェハートは「ああ」と納得して笑った。
「成程、確かにこれはお前向きだな 」
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