ちっぽけな冒険譚④

     



 そうして、ざっと三十そこらのヤケンに遭遇した叫んだ後、アレッタは街路を歩いていた。


 時刻は既に暮方。

 橙色の光が街中を照らして、薄い影を地面へ伸ばさせていた。

 軽やかな足取りで歩くアレッタは冒険者組合へと帰ろうと思っていた。

 

「あれだけのヤケンを退治したから、依頼は達成ダ。ぜったい。自信をもっていえル」

 

 確信と錫杖を抱きながら街路を歩いて、向かいの通りの人だかりに、ふと目が奪われた。



「……ナンダロ、アレ?」



 何かのイベント事だろうか。

 人が多く、一定方向に流れているのが見える。

 何度か通った通りだというのに、いつの間にか人が溢れんばかり――比喩ではない――の大人数だ。


 ガヤガヤと喧噪。

 一つ一つの単語をくみ取ることはできないが……。

 プラカード、大声、叫び声。


 何かを訴えている?


 ――止めろ、止めさせろ、ふざけるな、有り得ない――

 ――殺せ、追い出せ、絶対反対だ、末代までの恥だぞ――


「……」


 見たことのない集団だった。

 アレッタの中にほんのりと興味が湧いた。


 もっと近づこうと思ったのだが……アレッタの足が、自然と止まった。


 危機察知能力と言うべきか。

 単純に、関わってはならない属だと感じたか。

 触れたら必ず怪我をしてしまうような気がした。


「毎回、元気だよなァ。俺はそこまでやる元気はないっての」


 アレッタの斜め前で行進を眺めていた男がそう言った。


「こんな西の街でデモしても意味なんてないだろうに」


「最近、穢れた血フォールンブラッドが主権を握る街が出来たんだろ?」


「その反対デモだと。ほんっと、すごい熱量だよなぁ……」

 

 穢れた血フォールンブラッド

 反対デモ。


「……」

 

 大々的に行われている行進は、本当に人の切れ目が見えない程多かった。


 大きな通りを埋め尽くす人。

 それを止めない憲兵。

 行進を英雄の外旋を見るような目で見つめる子どもたち。


「…………」


 なんだか、別の世界に飛ばされて、アレッタだけが取り残されたような感覚だ。

 アレッタはただただ立ち止まって、今までの達成感をどこかへ置いてきたような気分で見つめていた。


「ンム」


 楽しくない観光をしているようだ。


「もういいヤ」


 アレッタは目を外し、通りとは反対の方向へ歩き出した。


「エレの仲間になれるんだから。どうでもいいことダ」


 小さく呟くと、現実感がやっと追い付いてきた。


 そうだ。

 依頼が達成できたから、エレの仲間になることが出来るのだ。


 やったぞ。

 自分はやったんだ。

 一人で金等級の依頼を達成できたんだ。


「……デモ」


 あの、行進はなんだったんだろう。




      ◆◇◆




 忘れかけていた楽しい気持ちを煮立たせて歩くこと数分。

 エレの後ろをついて行った時のことを思い出し、曲がり角を曲がろうとして――大柄な冒険者にぶつかった。


「ウァ」


「あぁ!? どこ見て歩いてんだクソガキ!!」


「どうしたんだ?」


「こいつがぶつかってきたんだ」


「はぁ? おい……クソガキ」


「……ウッワ」


 ふわりと浮かぶような気持ちが一気に沈んでいった。

 アレッタとぶつかったのは大柄の、エレとアレッタを足し合わせても足りないほど大きな――エレに掴みかかっていた男だったのだ。

 その周りには、取り巻きが五人もいる!


「ウワァ」


 羽をもがれた気分だ。

 あるいは、やっと上陸できるっていうのに、一人だけ水中深く沈められる碇の気分か。

 ともあれ、最悪な気分には違いない。


「邪魔するナ」


 横を通っていこうとして、オークのような腹部が立ちはだかった。

 アレッタの四歩が男の一歩なのだ。逃げようもない。


「邪魔をするなって? そりゃあ無理だ。俺はムシの居所が悪いんでな」


「お前のムシなんて知らなイ。急いでル」


 アレッタの冷めた表情を見て、男の蟀谷に青筋が走る。

 何かを言いかけて、アレッタの服装と手に持っている錫杖を舐めるように見やった。


 

「随分と無口な神官様だなぁ? 謝罪の一言すら出てこないのか? え? 神様は奇跡を教えても、謝罪の仕方は教えてくれないのか?」


 

 神様を侮辱されても、アレッタの表情に変化はない。

 それもそうだ。アレッタは男の声を聞かないように、両手で両耳を抑えているのだから。


「アー、アー。ほんと、じゃま、デス」


「コイツッ……!」


 舐め腐った態度に男はその一瞬だけ、この世で一番醜い顔になった。

 そして、今度は胸元に光る金等級の認識票と握られている依頼書を見つけた。



「よくそんな態度で金等級の昇級審査に通ったもんだぜ、なぁ? どうやったんだ? 俺にも教えてくれよぉ!?」



 大仰な動きで、男の胸元でチラと銀等級の認識票が揺れた。

 そんなこと意にも留めず、アレッタは男の大きな口が閉ざされたのを確認すると、


「もうイイ? 行くかラ」


 両耳に手を当てたまま、横を通ろうとして――アレッタの体が壁に叩きつけられた。


「――ウッ!?」


 衝撃で錫杖が手から零れ落ち、人通りの多い街路に金属音を鳴らした。

 周りの街人らも騒ぎに気付きだしていた。

 それらの視線を遮るように、五人の男達は壁を作って。


「ようやく顔があったなぁ?」


「オマエ……」


 醜い顔を近づけられ、蜜柑色の瞳が嫌悪感で汚れていく。


「ッ降ろセ!」


「あぁ? この状況で命令できると思ってんのか? 状況有利は俺だぞ?」


「冒険者なら分かるだろ? それも金等級サマなんだから!」


「神官サマつっても、俺らよりも上の階級なんだしなァ!」


 ゲラゲラと笑う男達。

 ムワッ、と臭うアルコールがアレッタの鼻から入ってきて、顔を顰めた。


「んぅ? ちょーっと待てぇ。なぁーんか引っかかってたんだ。お前の顔。どこかで見たことがあるってなぁ?」


 というと、アレッタを更に持ち上げて、


「……ようやく分かった。あぁ、やっぱりだ。視たことあるぞ。……お前、あの『腰抜け玉無し』と一緒にいたガキだなぁ!」


「マジかよ、オイ。アイツと?」


「間違う訳がねぇ! 組合ン中にいたんだ! 俺は見た!」


 そこでようやくアレッタからまともな反応が返ってきた。

 エレと同じようなくすんだ瞳で男を睨んだのだ。



「――――だれが、なんだっテ?」



「――!!?」



 夜中に井戸の中を覗いた時のような感覚が男を襲った。

 しかし、一度ギュッと目を瞑って開けば……そこにいるのは垢ぬけない白髪と蜜柑色の少女だ。

 

「――……」


 男の中で、酔いがよからぬ方向へ転化した。

 危機察知能力がぷっつんと消えてしまったのだ。



「エレっつーチビだよ! わかんねぇか? あの腰抜けの話だよ! 魔王からおめおめと逃げ出してきた玉無し野郎のことさ!」



 アレッタの蜜柑色の瞳が一本の線になった。

 それはまるで、暗闇に潜む狼の瞳のようだった。


 しかし、男達の状態は無敵の人。

 こうなった暴漢の口は結ばれることはない。


 

「そんな奴に仲間がいて? え? それも神官っつービビりで腰巾着職のクソガキで? それで、おい、四つも階級が離れてるチビってか!?」



 言葉を発するたびに大量の唾が飛ぶ。

 ツンと鼻に来るアルコール臭。

 これほど不快な喋り方をする者がいるのか。

 興奮した顔面がつぶれた犬のようだ。ヤケンの方がまだ可愛げがあった。

 


「オマエにも見えんだろ? なぁ? 

 その目をかっぴらいてよくみてみろよ? 

 ほら、あの行進をよ!」



 後ろの男達が割れて見えたのは、デモ行進だった。



「アイツらが今日も元気に行進してる理由は、あのくそチビさ! 

 アイツが魔王を殺してたら、穢れた血フォールンブラッドはこれ以上生まれてこなかったってぇのに!」



 全部アイツのせいだ。

 そう言いながら、男は胸元の銀等級の認識票を握りしめた。

 その目は狂っているように小刻みに震えている。

 


「――エレのせいじゃなイ!」


  

 大事な人を馬鹿にされ、アレッタの顔によからぬ色が差し込んで来ていた。

 


「あいつのせいさ。お高く留まったクソガキが。

 喧嘩じゃ俺に勝てないからってすぐに逃げやがったんだ!

 あんな調子で逃げ帰って来たんだ! 

 澄ました顔でな! 

 道でスッ転んでも顔は変わらんだろうさ! 

 魔王の所から泣き叫びながら帰ってきた時も同じ顔さ! 

 仲間を危険に晒した時も同じ顔だったに違いねぇ!」


 

 その色に、大柄な男は気が付かない。

 気がつける訳もない。

 


「何も知らない癖ニ……好き勝手言うナ! エレはワタシを助けてくれたんダ!」



 アレッタの瞳は、段々と人からかけ離れて行っていた。

 それに、周りの男たちは徐々に気が付き始めた。

 制止しようとしても、大柄な男は止まらない。



「そりゃあご愁傷様だ! 

 アイツは魔王を助けた男だ。

 異教徒だ。混沌の神を信仰する信徒さ! 

 そんなアイツが助けるモンは気持ちのわりぃ奴ばっか! 

 こんな生意気な神官だったら助けるに決まってんだ!」



 頭の中で血管が跳ねたような気がした。

 アレッタの顔は真っ赤になっていた。



「エレは沢山の敵を殺してきタ! 何体も、何体モ!

 それに、ワタシを助けてくれタ! 

 エレが人を助けてた長い間、お前は何をしタ!?

 何をしてたって言うんダ!?」



 男の腕を掴むアレッタの手は、獣じみた筋肉を宿していて。

 その人間離れした握力に、男は手を離してしまった。


「イ――……ッ!?」


 腕を見ると、抉られた傷のようなモノが見えた。

 傷が深く、つ、と血液が伸びて落ちてきている。

 男の顔が一気に青ざめていく。



「――もう、許さなイ」



 冷静を取り戻そうとしていた男の前で、すた、と地面に立ったアレッタは男を下から睨み上げる。

 その顔を見て、男は喉が後ろ側に引っ張られたような顔になった。



「でっぷりと肉を付けて、酒を飲んでたんダロ!? 見たら分かル! 寝テ、起きテ、そんな生活してた奴が、エレのことを悪く言うナ――ッ!」



 そのアレッタの形相は、男達の背中に隠されて街に行き交う者達の目に入ることはなかった。


 その握りこぶしは角ばっていて。

 その瞳は人を食らう獣のようで。

 食いしばった歯は研がれたように尖っていて。


 男達の酔いを完全に奪い去るには、十分すぎる姿だった。

 

 まるで、小さな魔族だ。

 人の皮を被った、怪物だ。

 

「――お前、なんだよっ、それ……っ!」


「黙レ!! エレのことを何も知らない癖に、いい加減なことを――」


 アレッタが拳を握った瞬間、それは落ちてきた。

 ――バサッ。

 アレッタの頭の上から外套が降りそそぎ、その姿を隠した。



      ◆◇◆



「――最近の冒険者は、口舌の練習をしているのか?」



 足音なんて聞こえなかった。

 花びらが落ちてくるようにしなやかで、自然な動きで。


「お前は――ガアアァァァァッァツ!!?」


 男の叫び声が聞こえ、アレッタは外套から顔を覗きだした。

 そこに立っていたのは、小さくも大きな背中で。


「エレ……」


 エレは、大柄な男の顔を鷲のように掴んでいた。

 

「論弁を鍛えるよりも能力を示せ。そっちの方が単純だろ」


 なぁ――と、五人の男達に目を向ける。

 その眼圧に圧されて、一瞬怯んだが……咄嗟に腰帯の武器に手を伸ばした。


「お前のせいで、俺らは――っ!」


「やっちまえ!!」


「……そうだ、そっちの方が冒険者らしくていい」


 襲い掛かってくる男達に、エレは掴んでいた男を持ち上げて笑った。

 され、男達の勢いが止まった。


「ここからどうする?」


「――ッ」


 振り下ろそうとしていた武器に躊躇いが見えて、


「返すぞ」


 エレは男を放り投げた。

 男の体は仲間をなぎ倒すように地面に転がっていって。


「くっそ――っ」


 バッと顔を上げて――エレの短剣が目の前に突き立てられた。

 カチャッと刃先を傾け、夕暮れの光を反射させる剣は橙色に光って。


「っ……」


「六人いて、一人に勝てないのか?

 かかってこいよ。喧嘩じゃあ俺に勝てるんだろ?」

 

 小さなエレは、大きな冒険者六人に挑発を飛ばして、アレッタをできる限り、壁際へ押しやった。


「言っている意味が分からないか? 酔い覚ましに付き合ってやるって言ってんだ」

  

 そう言い、エレは短剣を腰帯にしまい込んだ。

 敵前で武器をしまう――武器が無くても倒せるという意思表示が、男達の感情に火をつけた。


「……っ言わせておけばぁぁぁっ!!」


「お前ら、武器を構えろッ!!」


 青筋がはじけた男が飛び上がって掴みかかろうと動いた。

 それに呼応して動いた五人の冒険者。


「――鈍重だなぁ」


 振り下ろしている途中の武器を避け、


「アレッタ、借りるぞ」


「エ」


 錫杖を地面に突き立て、その反動で上空に逃げた。

 直ぐに、ガチィと鈍い金属音が鳴り響いた。

 全ての攻撃は、錫杖に吸収されたのだ。


「上っ!?」


 錫杖の先を見上げる男――の顔を、エレは両脚で踏んづけた。


「っぶぅ!?」


「おぉ、悪いな」


「てめぇ、このっ――」


「はい、握手っ」


 掴みかかろうとした手首をエレは掴みながら地面に降りて、そのまま背負うように男を放り投げた。


「――――」


 ドスッと地面が揺れ、大柄な男は目をひん剥いて意識を手放す。


「ヴァンドよりは軽かったな――1」


「チョロチョロと……」


 武器を構え直して他の男達が戻ってくる。

 その姿を見つめて……笑った。


「……だから、お前らは負けるんだよ」 

 

 人数差を活かそうともせず、体勢が整った順に来る男達。

 それは、戦闘において愚策も愚策だ。


「まだ、負けて、ねぇだろ――!」


「そうか?」


 横ぶりの剣をギリギリで避けたら、

 そのまま腕を下から蹴り上げて――男の武器が手から離れて、あらぬ方向に飛んでいく。


「武器がっ――!?」


「はい、2」


 その背後から、エレを突き刺そうと出てきた男。

 エレは、一瞬、重心を後ろに持って行って引き付けて、


「獲った――」


 男が腕を伸ばした瞬間、

 緩急をつけて斜め前に体を動かし、顔面を掴んで地面に叩きつけた。


「獲れる訳がないだろ――3」


 ツ、と目を上げると最後に体勢が整った男。

 武器を捨て、掴みかかろうと両手を広げて――


「膂力勝負か、いいぞ」


 その大きな手に、エレも手を合わせて指を絡めた。

 まるで恋人が手をつなぐように。


「そんな細い腕で、俺と力勝負を――っ!!??」


 男はスルッと蛇のように指に纏わりついた感覚に、口をひん曲げて――次の瞬間には、絶叫を迸らせた。


「アアァァァァァァァァァアアアアアァァァァッ!!!?」

 

 ミシミシと骨が軋む音を立て、男の体は段々と縮まっていく。

 膝を折られたように畳んで、

 大砲ような声で鳴き叫ぶ。


「どうした? こんな細い腕に負けてるぞ?」


 4――と、最後の男に目を向けた。残りは2人。


「……っぁ」


「ああぁぁっ!! 俺らが、悪かったっ!!」


 だが、完全に熱が冷めきった男2人は一目散に逃げだした。


「…………仲間を置いて、逃げた。賢明だな」


 そう言い、掴んでいた大きな両手を手放して。


「――――ぁ」


 場が落ち着くと、それまで息を潜めて見守っていた大衆は、少女を救うために現れた正義のヒーローの姿に爆発したように盛り上がった。

 奇跡の逆転劇を目の当たりにしたような盛り上がりだった。


「凄いな、アンタ!」


「ヒーローだよ!!」


 痛快な救出劇。

 助けようとしていた者も拍手をして、盛り上がった。

 その男が、エレだと知らぬまま。歓声は広がっていく。


「……ヒーロー、か」


「エレ……?」


 すっかりと元に戻っていたアレッタは、なんだか寂しそうなエレの背中に近づいて。


「エレっ……大丈夫なノ……?」

 

 駆け寄ってきたアレッタを手で制した。

 

「こんな昼間から絡まれるなんて大変だったな。神官様」


 他人行儀な言葉に、アレッタは目を丸くした。

 

「エレ? なにをいっテ……」


 何が起こっているのか分からず、あわあわと手を出してきた。

 その手を避けるようにエレは体を翻し、アレッタの小枝のような背中に手を添えた。


「可哀想に、完全に怯えてる……。ここから早く離れないと」


「エレ……なんで、そんな?」


 アレッタはエレを見上げようとして……歓声の中に聞こえてきた声がその意識を持って行った。


「――――アイツ、追放されたエレか?」


「――――一緒にいる神官は」


 小さな声だ。

 アレッタにしか聞こえていないのではないかと思えるほどの。


「待てよ、腰抜け……」 


 地面で伸びていたはずの男が、エレの前に立ちはだかっていた。


「加減をし過ぎたかな、おっさん。

 でも、悪いな。退いてくれ。この神官サマが怯えててな」


「なにが……そいつはお前の――」


「俺のことはそのでっかい口で罵ればいいが、火の粉を散らすのはさすがにオススメしないぞ」


 その一言で、アレッタは理解した。


「は、はぁ……っ!? 関係ないガキ、だって? み、見たぞ! 俺はお前とそいつが」


「俺が神官と一党を組む訳がない」


「……なにを、いって――」


「分からないか? 顔の大きさの割には脳みそが小さいらしい」


 その声は、周囲の誤解を晴らすような声色だった。

 ――

 そうアピールしているのだ。


「……」


 アレッタはそのことに気づいて、エレの裾を力強く握った。


「依頼を選んでやってたんだ」


「う、嘘だ。お前は、だって――」


「俺のことを多少は知ってるんだろ? なら、分かるだろう」


 エレはアレッタとは一党を組んでない――これは本当だ。

 依頼を選んでいただけ――これも本当だ。

 あぁ、まったくもって本当の事ばかりだ。


「だから、お前は全く無関係の神官サマに向かって毒を吐いたってことだ。なぁ? 冒険者組合の近くで――ほら、見て見ろよ。組合の二階。職員が窓を開けて、この騒ぎを見守ってるぞ?」


 そこには、二階であの受付嬢がその姿を見下ろしていた。

 まるで、ゴミを見るような目で。


 、教えてくれよ」


 グイとエレは男に顔を近づけた。

 そして、エレは声色だけを笑わせた。


「――――昇格の仕方は知らなくても、降格の仕方は知ってるみたいだな」


 エレはアレッタの手に触れ、その隣を歩いて行った。

 いくぞ――小さく聞こえた声に、アレッタもついていく。

 

 その場には、消える気配のない歓声が響き続いていた。

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