司祭さまのお仕事(平時)

 聖職者は基本的に貴族家の子息である。主に親の跡目を継ぐあてのない次男以降が僧院に預けられる。彼らは修道士として学問全般、教義、そしてニームに対抗しエルムの民を守護するための各種の祈祷を習得したのち、正式な聖職位を授けられる。


 大聖堂の顕職を目指すのはごく限られた権門の子息のみであり、大抵はどこかの貴族家の聖堂付き司祭、あるいは市井の教区聖堂の司祭となる。


 貴族屋敷や城はそれごとに仕える者たちがいるため、彼らのために各屋敷や城には必ず聖堂が付属している。そしてそれぞれに専任の司祭が召し抱えられる。大領主の本拠地の城郭などでは複数人が務めていることもある。


 教区聖堂は各国のバルサム教会の管轄であり、そこに赴任する司祭も各国の教会に帰属するが、各家の聖堂はその家の家長たる貴族のものであるため、司祭もその貴族と主従関係を結ぶことになる。


 無論、主人と言えど教典や礼拝時の説法の内容などに口出しできるわけではなく、あくまでこの関係は、主が与える俸禄に対し、司祭が僧院で得た知識と宗教的活動によって奉仕するという範囲に留まり、精神的な服従を要求されるものではない。


 彼らは主人とその家族、さらにはそこに仕える使用人たちのために祈り、礼拝を取り仕切り、説法を行う。主人の子息や、見習いとして預けられてきた他家の子息の初期教育も担っている。


 貴族家の司祭のもう一つの業務が書記(帳簿付け、手紙の代筆等)であるが、助手である平民の書記を抱えている家の場合は、彼らの采配と、書記見習いの子供の教育を主に行う。


 日常の礼拝や説法に加え、冠婚葬祭を取り仕切るのも聖職者としての重要な仕事である。特に葬儀において、祈りによって死者の亡骸と魂の道行きをニームの魔手から守ることは、バルサム教会司祭として何を置いても優先されるべき任務である。

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