第180話 絶望を語る

「詠唱で制御しなくても本当に撃てた、な」


 魔法の詠唱というのはとても大事な要素で、制御が効かないと魔法は暴走を始める。

 低級、中級、上級は魔法が暴走したところで被害は抑えられ、自分が怪我する程度のものだ。


 だが、八源厄災が奥義として使う魔法は別物だ。

 その魔法が制御が効かずに暴走してしまったら地形が丸々無くなってしまう可能性だって有り得る。


 だから、俺は 海内紛擾の死せる大渦巻メイルストーム・エンドを詠唱破棄が出来なかった。


 スキルを貰った時から感じていた。

 性質変化・水、風もこの世の理を変えてしまうスキルだ。


 明らかに俺はこの世界では異質だ。


「ノア、この惨状は…」


 後ろから不意に女性の声が聞こえてくる。視界を後ろの方へ向けるとフェルが心配そうな顔でこちらを見つめていた。


海内紛擾の死せる大渦巻メイルストーム・エンドを放った。倒れている人達は眠っているだけだから大丈夫」


「そうか、良かった…」


 確かにこの地面が抉れていたり、人々が床に倒れ伏しているのを見ればおかしいと思うか。

 このままでは魔物に襲われる可能性もあるし、起こそう。


「そうじゃ!ユウキが再び闇の八源厄災に乗っ取られたのじゃ!」


「なに…?」


 何故…、ユウキは闇の八源厄災の力は弱まったと言っていたはずなのに。


「それで、Sクラスの奴らのを襲おうとした所を我が助けた。そして、ユウキはボソボソと独り言を喋って飛び去って行った」


「本当か!?」


 Sクラスのみんなを何故襲うんだ。闇の八源厄災は憎しみなどの宿主の負の感情で動くんじゃないのか?


 あの時、フェルや俺を襲ったのは別の理由が…?

 いや、ユウキから直接聞いたから間違いではないはず…。


「どこに飛んで行ったか検討はつくか?」


「分からぬ…。我がこのことをノアに報告せんと、探し回って今強大な魔力を感知してノアにこうして伝えておるが、ユウキが飛び去ったのはあのパーティの翌日じゃ。それにユウキは魔力感知に引っかからないようにする術を持っているようで、我の尾行も容易に巻かれた」


 クソ、こんなドラゴンと遊んでる暇じゃなかった!

 ユウキの中にいる闇の八源厄災は何が目的なんだ?検討もつかない…。


 この大陸を探し回るのも転移魔法を持っていたとしても現実的じゃない。

 だが、闇の八源厄災が何かをやらかす前に止めなければ。

 なにか目的があるはずなんだ。


 闇の八源厄災とフェルでは闇の八源厄災の方が力が勝っている。

 なのにSクラスを襲うという目的をフェルに邪魔されたくらいで飛び去って行ったりするものだろうか。


「クソ…、分からないな。探し回るしかない。フェル、Sクラスの皆にユウキの過去を調べてもらうように頼んでくれ。俺はとりあえず転移魔法で移動しながらユウキを探す」


「分かった、我も探してみる。それと念話と魔力通信の指輪エクスペル・リング魔力通信の首飾りエクスペル・ネックレスは恐らくユウキの何らかの妨害で使えなくなっている。見つけたら1人で挑むんじゃないぞ。我がいるから…」


「…あぁ」


 俺はそう言うと転移魔法を発動させて、まずはリコスターローズの花畑へと向かった。


 ―――


 いつものノアと少し違う気がするのは気のせいだろうか。

 何か我に不信感を抱いているようなそんな気がする。


 …だが、今は気にしている場合ではなさそうだ。

 兎に角、1度王国に戻りSクラスの奴らにユウキのことを調べてもらおう。


「…ノアのやつ、この眠らせている人たちを忘れていくとはの。焦っていたとしてもこんなことを忘れるやつではなかった気がするが…」


 我はその場にいる人間を囲うように結界を張る。

 外からの侵入は人間の位で言うA階級の魔物くらいまでは出来ないだろう。

 武器や防具などの消耗は全く無い為、自力で帰れると予想する。


「…ユウキ、いや闇の八源厄災は何を考えているんじゃ…。全く!」


 我は空に向かって跳躍をした。

 まずは王国に行かなくては。


 ―――


 マリス・ジーグボルトは王城に用意された予言の間にて杖を振るう。

 その様子を見守るのはマリスの親であり王であるライリー・ジーグボルトである。


 この予言の間は、最近王国に頻繁に襲い掛かる災厄を事前になるべく早く知り、対策をしようと考えられて作られた一室であった。


 毎日のようにマリスが杖を振るい、その様子をライリーが見守るというものが1ヶ月ほど続いたある日、マリスの予言は今までのとは比べ物にならないほどに時間がかかっていた。


 スキルとは説明出来ないこの世の理を逸脱する力だ。

 我々はこのマリスのスキルを説明することは出来ない。

 スキルとはそういうものなのだ。


 この1ヶ月程、そしてたまに見るマリスの予言を振り返る。

 だが、儂の記憶ではここまで予言に時間がかかったことは無かった。

 それだけで、ライリーは嫌な予感を感じざるを得なかった。


「出ました」


 静かな予言の間にマリスの声が木霊する。マリスの顔は絶望という言葉が似合う程に暗くなっており、儂は思わず固唾を飲む。


 そして、マリスはゆっくりと予言を声に出して読み始める。


『闇が全てを支配する。残された光でさえも抗うすべなく闇に墜ちる。闇の運命に逆らうことは誰一人出来ない』


 儂は思わず頭を抱えた。

 マリスの今までの予言が当たっているからこそ、その言葉が絶望に染ったものだと認識出来たのだった。

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