第179話 闇の支配

「ユウキ、なぜ食堂なんかで寝てるんじゃ」


 食堂でうつ伏せになって寝ているユウキに我は話しかける。

 時間もそろそろ皆が起きてくる時間になり朝食が作られるので起こしておいた方がいいという判断だ。


「あ、アれ?僕なんでここで寝てダんだっけ?」


「いや、知らぬが…」


 ユウキの喋り方が明らかにおかしいことに気づく。

 寝起きだから滑舌が悪いのか?


「まぁいいや。ノアの友達は何処行ったノ?」


 あやつらは我が起きる前に起きて、家から出ていっていた。

 何故、ユウキがSクラスの奴らのことを気にする?


「知らぬ。我が起きた時には既にいなかった」


「そウ。なら自分で探すヨ」


 そう言うとユウキは若干ふらつきながらも玄関に歩いていき、家を出ていった。


「チッ、仕方ない」


 様子のおかしいユウキを野放しにしておく訳にはいかない。

 万が一があればまずい

 ユウキをつけて、確認しなければ。


 我は、急ぎ足でユウキの向かった方向へ走り出した。




「クソ、見失った」


 尾行が気づかれていたか?

 相手は我の命寸前にまで迫った男だから、最大限の警戒をして尾行をしていたが…。

 ユウキはどうやったか我の魔力感知を掻い潜って、我を巻いたようだ。

 こうなったら自力で探すのは現実的じゃない。


 ならば…。


『お主ら、今何をしておるんじゃ?』


 ユウキの目的であるSクラスの奴らを我が最初に匿えばよい。

 これで何も無かったらそれでよし、あったら我がいるからSクラスの奴らだけでも逃げることは可能だろう。


『あ、フェルが連絡してくるのは珍しいな。俺たちは…』


 そう言ってレオが魔力通信の指輪エクスペル・リング越しに説明をしてくれる。

 どうやら、全員学校にいるらしく都合が良かった。


『可能性の話だが、様子がおかしいユウキがお主らを探していた。万が一がある。警戒を怠るな。早急に我もそちらへ行く…。おい、聞いているのか?』


 そこでブチッとノイズが走ったような音が脳内で木霊した。


「クソッ、やばい」


 場所は学校、ここからだと最速でも1分は時間がかかる。

 それまでに持ち堪えてくれればいいのだが…。


「あぁ、我も転移魔法を覚えておくんじゃった」


 街中をフェルは駆け抜けるのだった。


 ―――


 あれ…僕は何を、している…?


 視界に写るのは王国にある学校…、目の前にはノアの友達たち…?


 そこで僕は自分の体に異変があることに気がつく。

 腕を動かそうとしても、足を動かそうとしても動かせないのだ。


「!!」


 まさか…、闇の八源厄災にまた体の主導権を奪われた!?

 何故…、ちゃんと抑え込めたはずなのに…。


「ユウキさん…?」


 この子は確かカルト…。


『コロセ』


 頭の中になにか言葉が響いてくる。


『コロセ』


 軋むような頭の痛みが僕を襲う。


『コロセ』


 そうか、殺さなければ。

 目の前のコイツを。


 自身の魔力の昂りを感じる。

 それは次第に腕に移動していき、手の先に闇色の斬撃を生じさせる。


「コロす」


 闇色の斬撃は真っ直ぐと飛び、カルトの首を切り取らんと宙を高速で飛来する。


「何をやってるんじゃ!」


 その声が聞こえたと同時にカルトの目前に分厚い風の壁紙生まれ、闇色の斬撃はそれに阻まれる。


『ニゲロ、分ガ悪イ』


「逃ゲ、る」


『場所ハ南東、幻惑二包マレタ人間ガ2人イル。コロセ』


『幻惑に包まれタ、人間…』


 僕の体は空に飛び上がる。頭の中で指示された人間を殺すために。


「おい!どこに行くんじゃ!」


 後ろでフェンリルの声が聞こえたが、何を言っているのか分からなかった。


 ―――


「クソ、逃がしたか…」


 我が駆けつけた時にはユウキはカルトに手を出そうとしていた。

 闇の八源厄災が再びユウキの体を乗っ取ったのだろう。


 だが、何故カルトやSクラスの人間を狙う?

 殺したところで何かある訳でもないだろう。


「フェル…?ユウキさんは…」


 八源厄災のことをカルトたちに話してもいいのだろうか。

 話したところで戦力としてはカウント出来ないだろうし、何か出来る訳でもない…。


「フェル、今のはなんだ?」


 今の出来事を見ていたのか、遠くからSクラスの奴らが全員集まる。


 クソ、どうする…?


『おい、ノア。ユウキの闇の八源厄災が復活した。このことを…、ノア?』


 ノアとの念話が出来ない…。

 ユウキの奴、さっきの魔力通信の指輪エクスペル・リングの時と同じようになにかしら細工をされたか?


「フェル、何があったんだよ」


「………」


「どうした?」


「ノアは特別じゃ。そう簡単に話すことは出来ない」


 我はその場から空中に飛び出し、宙を走り始める。

 ノアのやつ、こんな時にどこに行ったんだ。


 とにかく、早くノアを探してユウキの居場所を特定しなければ。

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