11章 神界編

第177話 潤うことなく

 パーティの翌日、何故か俺は朝日が昇る前に起きてしまった。もう一度寝ようとするも、なかなか寝付けないので、鍛錬でもしようかと寝床から離れた。

 食堂で飲み物を飲もうと取りに行くと、椅子にユウキが座っていた。

 ピタリとも動かないが、寝てはいないようだ。


「よっ、寝れないのか?」


「うわぁ!…ノアか、びっくりしたなぁ」


 驚かすつもりはなかったが、ユウキをびっくりさせてしまったようだ。

 意外とユウキはビビりなのかもしれないな。


「…僕の体が心配でね」


 俺がおもむろに同じ机の椅子に腰掛けたら、ユウキは話を始めた。


「心配?何が?」


「闇の神ハデスの力である、闇の八源厄災…。今は抑えられているが、いつ暴走するかが分からないんだよ」


「ふむ…」


 確かに、自分に得体の知れないとても危険な力が眠っているのであれば、悩むのも無理はないな。


「八源厄災の力を引き剥がすには…」


「…借り受けた本人が死ぬ以外に引き剥がす手段はない、か」


「うん。そうだね」


 そんな厄介なものを一方通行で渡してくる神はどうなのか?と思ってしまう。


 …そう言えば。


「気になったんだが、俺たちは今までに「雷の八源厄災」、「土の八源厄災」、「炎の八源厄災」を倒してきたけど、そいつらの力はどうなるんだ?」


「僕の知っている知識では、死んだ時に神に還元されるらしいよ。八源厄災とは世界の均衡を保つために生まれた者であり、死んでしまったら神はまた新たな適正者を探して貸し与えると思う」


 なるほど、八源厄災は世界の均衡を保つために生まれた存在なのか。

 だが、炎の八源厄災や雷の八源厄災などは邪悪で、とても世界の均衡を保つために動いていないように見えた。


「――ノアってまだ奥の手を持っているでしょ」


「!!」


 いきなりの話の転換にびっくりして体を硬直させてしまう。

 それが図星であったのも原因の1つだろう。


「図星かな?ノアが本気を出す前に闇の八源厄災はノアに致命傷を与えてしまった、とか」


「…何故そう思う?」


「今日のパーティで君の話を色んな人から色々聞いたよ。時の八源厄災は既に死亡しているが、八源厄災の7柱、全てと出会ったらしいね」


「…あぁ、そうだ」


「しかも、このごく短期間で。これはかなり異常なんだよ。八源厄災とは人の前に姿を滅多に見せないんだ」


「つまり、何を言いたい?」


「君の力が世界の均衡を崩しかねない程に強力であるということだ」


「はあ?そんことあるはず…」


「八源厄災とは世界の均衡を保つために生まれた者たち。それらがこの短期間で全て君をどうにかしようと行動していた」


「…八源厄災は最初から俺を消そうとはしていなかった。ジェンドマザーやフェルは寧ろ俺に接触してきて、仲良くなった。そんな仮説は間違っている」


「仮説ではない。事実だ。土や炎、雷などは君をその力で排除して、均衡を保とうとした。逆に風や水は、君と接点を持ち、関係を築いて、ノアの力を制御しようとした。誰かが裏で操作しているとかの話ではない。神の意思が働いている。神は均衡を保つために八源厄災の力を与えていて、そこには神の意思が動いているんだよ」


「じゃあ、なんだ。俺とフェル、ジェンドマザーの絆は神の意志によるものということか?」


「…その可能性は充分有り得る」


「………そうか。少し、風に当たってくる」


 そう言えば、飲み物を飲むはずだったな。

 だが、飲み物でこの渇きが収まるとは思えなかった。




 俺は眠気が冷めず、ただ風に当たりながらボーッと午前中を過した。

 カルトは俺に顔を見せることなく、帰って行った。

 ユウキから事情を聞いたのだろうか。


「最初から神の介入があったのか…」


 フェルが接触してきた理由は確か、「ハヤト似(日本人似)の俺をハヤトの生まれ変わりだと錯覚したから」だった。

 恐らくそれは紛れもない真実だし、事実なのだろう。

 フェルは無意識で風の八源厄災の力の意志に従っていたのだ。

 俺に魔法を教えていたのも、俺からの信頼を得て、力を制御する為だったのだろうか。


「…研究のテーマ、考えないとな」


 春の暖かな風が吹く中、俺は街に繰り出した。


「王国に来て1年くらいか。本当に色んな出会いがあったな」


 俺は1人、今までの事を思い出しながらギルドに向かう。

 扉を開けるとギルドと併設された酒場ではワイワイと冒険者で賑わっていた。

 その中心にはかなり派手で際どい服の女性がいて盛り上がっている。

 俺は特に気にかけることはなく、クエストを受ける。


「久しぶりだな。今日はどんな用事だ?」


 声をかけられた方に視線を向けると、ギルドマスターであるゴルバルドがいた。


「…いや、久しぶりに依頼でも受けようかと。気晴らしだな」


「そうか。なら軍隊スリップリンの討伐なんてどうだ?奴らは柔らかくてストレス発散…」


「グリーンドラゴンの討伐に行く」


「S階級の依頼だぞ?B階級では挑める権利はない…」


「きみぃ、 グリーンドラゴン行きたいんだぁ?」


 酒臭い匂いと共に話しかけてきたのはさっきの酒場の中心で騒いでいた女性だった。

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