第174話 同郷、打ち明け
「ケイ ユウキ。つまり「ゆうき けい」という名前なのか?」
「ん?あぁ、そうだよ。日本…、あ。僕の故郷ではそう呼ばれていたよ」
…俺が日本人だということは言ってもいいのだろうか。
俺がただ1人の転生者だからあまり言いふらしていい話では無さそうだけど、隠して意味もないよな。
「日本、知ってるよ。転生したからね」
「え…?君はグライドとエリーゼの子供じゃなかったっけ?」
「あぁ、そうだ。ユウキみたいに転移ではなく、転生したんだよ」
「転…生…」
ユウキは歩く速度は変えないが、頭の混乱を何とか鎮めようと顎に手を当てて頭を整理する。
「実はな、フェルがファル・リコを殺してしまったのにも理由があるんだ。だからと言って殺していいとは俺は思っていないがな」
「…聞かせてくれるかい?」
俺はダンジョン内の魔物や罠を警戒しつつ、フェルの過去や俺の転生した経緯を語った。ユウキは語っている最中は終始無言であったが、頷いていた。
「…なるほど。フェンリルにも理由があったんだね。これで憎しみは消えないだろうけど、死で復讐しようとは思わなくなったよ。フェンリルも僕も友達を思っての行動だったと知れて良かったよ…」
何とか理性を抑えて、我慢してくれたようだ。
俺だったら、そんなこと関係なく怒り狂いそうだ…。
ユウキは感情を押さえ込んで冷静になれる凄い人だ。
「ありがとう」
「ふふっ。ノアが言わなくてもいいんだよ。しかし、ノアが日本人だったとはね。びっくりしたよ」
「たまたま俺が呼ばれたようだから、奇跡だな。だが、こっちの世界に来れてよかったって思うよ」
「どうして?」
「魔法があるからさ。魔法はオンラインゲームのようにアップデートでどんどん新要素が追加されていく時のようなワクワク感が常に味わえる。研究すればするほど、楽しくて面白い。これだけでもこの世界に来てよかったと思える。このリコスターローズの花畑やグロデスクな魔物、俺の常識を超えた超常現象。地球では見れないような、そんな数々が凄く面白い」
「…僕も最初は帝国で奴隷として働かされていた。転移してからは自分はなんて不幸だ、なんでこの世界に来てしまったのか、とずっと落ち込んでいた。だけど、ノアみたいに魔法を知れたり非日常的な景色を見ると本当にこの世界に来てよかったって思えるよ。そして、転移してなかったらこの世界で出来た友達にも会えなかったろうしね」
退屈な日常が繰り返される日本よりも数倍この世界の方がマシだ。と思っていたが、転移者は奴隷になってしまう。
たとえ逃げ出したとしても、力が無ければ魔物に殺されてしまうし、あったとしても理不尽な暴力によって殺される可能性がある。
力があり、関わる人に恵まれた俺やユウキでないとこうは思えなかっただろうなと考えてしまう。
「…さっ、早く進もうぜ」
沈黙で俺が何を考えてたのかユウキは察したのか、何も言わずに頷く。
「ここだよ。時の八源厄災が転移魔法の理論を書き記した本があるのは」
目の前には巨大な鉄の扉があり、かなり重そうな作りをしている。
ここまでの道中は俺たちだと難なく進むことが出来た。
恐らく、A階級冒険者程度なら簡単に死んでしまうような難易度設定だろう。
ユウキがその鉄の扉の片方を両手で思いっきり押す。
空いた扉の隙間からは暖かい光が漏れ出す。
ユウキの背中について行き、扉の中に入るとそこは床は芝生で至る所に本棚が乱雑に立てられている少し現実離れした空間だった。
天井を見上げると、そこには太陽が燦々と輝いており、陽光の暖かみを感じれた。
これも魔法だろうか。
「ここは…?」
「ファル・リコが作り上げた図書館かな。転移魔法の理論以外にも様々な魔法に関した書物があるよ」
そう言われて、俺の心はワクワクが止まらなくなる。
例えるなら明日から夏休みの小学生の気持ちだろうか?
俺は興奮していた。
「あ、転移魔法の書物はね…って、もう聞いてなさそうだね」
ユウキが何か言っていたが、興奮している俺の耳には何を言っているか聞こえなかった。
とりあえず俺は1番近くの書物を手に取る。空間収納から机と椅子、そして飲み物を取り出した。
「…これは長くなりそうだ」
ついでにユウキの分の椅子も出して、俺たちはそこにある本を読み始めた。
―――
「…フェルはノアのことが好き?」
「…急になんじゃ」
ジェンドマザーがいきなりそう質問してきた。
あまりに唐突の出来事で、言葉が一瞬詰まる。
「ふーん、そうなんだ?」
チッ、なんだか心を読まれたような気分だ。
いい気分とは言えない。
「急にどうしたんじゃ」
「いや、私はノアが好きで、フェルはどう思ってんのかなぁって…」
そこで我は気づく。
友達や仲間としての好意では無く、恋人としての好意をジェンドマザーが抱いていることを。
何故?何万も生きるスライムが、人間を?
…いや、それを言うなら我も…。
その事に違和感を覚えたが、気のせいかとその考えを頭の隅に追いやる。
確かに、ノアは強くて魅力的だが…って我は何を考えているのじゃ…っ!
「わぁ、なに急に頬を叩いて」
「…なんでもない」
「で、どうなの?フェルはノアが好きなの?」
「…ふん、知らんのじゃ」
その後、ジェンドマザーはなんにも言わなくなって沈黙が続いた。
我は何故かその空間に耐えれなくなって、その場を離れた。
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